ステーブルコインとトークン化預金、AI時代のお金を担うのは誰か──Startale、DCP、メルペイが議論【IVS2026 CRYPTO ZONE】

IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWSでは7月1日、パネルセッション「『インターネット時代のお金』をつくるのは誰か──金融の主役が入れ替わる日は来るか?」が開催された。

登壇したのは、メルペイ代表取締役CEO兼メルコイン取締役の永沢岳志氏、Startale Japan(スターテイルジャパン)代表取締役の手塚孝氏、DCP(ディーシーピー)執行役員の田子島敬氏。モデレーターをNADA NEWS編集長の増田隆幸が務めた。

セッションでは、6月末に国内初の信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」が発行されたことを踏まえ、ステーブルコインとトークン化預金の違い、巨大な顧客基盤を持つプラットフォーマーがAI時代の金融インフラをどう担うのかなどが議論された。

JPYSCの100億円発行は通過点

Startale Japan代表取締役の手塚孝氏

SBIグループとStartale Groupは6月24日、国内初の信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」を発行し、SBI VCトレードの口座内限定で先行提供を開始している。

関連記事:JPYSCの100億円発行は「顧客需要を踏まえた」とSBI VCトレード──パブリックチェーン流通は「なるべく早い段階」を目指す

初日発行量が100億円相当に達したことについて、手塚氏は「1つのマイルストーンでしかない」と述べた。当局との協議を進めながら、パブリックチェーン上での流通に向けて準備しているという。

国内では、3メガバンクも、共同発行するステーブルコインについて2026年度中の実取引開始を目指している。運営やガバナンスなどを検討する協議会の設置に向けて基本合意しており、銀行発行のステーブルコインをめぐる動きが加速している。

関連記事:3メガバンク、2026年度中に円建てステーブルコイン共同発行へ=日経

その中で先行して動く理由を、手塚氏は松下幸之助の「水道哲学」になぞらえ、まずは新興プレイヤーとしてユースケースを生み出していくと述べた。

「誰かがやって、軌道に乗ってきたら、おそらくメガバンクも乗り出す」

また既存の送金体験にも改善余地があると指摘した。

海外送金では中継銀行(コルレス銀行)を経由するため着金のタイミングが分かりにくく、手数料も高くなりやすい。ステーブルコインをオンチェーンで扱えれば、24時間365日、決済に近い速さで送金できる可能性があるという。

メルペイが問うステーブルコインの価値

Two men seated on a stage, each holding a microphone, with a red abstract backdrop and water bottles on small tables.
メルペイ代表取締役CEO兼メルコイン取締役の永沢岳志氏

メルペイの永沢氏は、プラットフォーマーの立場から、ステーブルコインが普及する条件を「ユーザーに明確なメリットがあるか」という視点で語った。

メルカリグループは、フリマアプリ「メルカリ」を起点に、メルペイ、メルカード、メルコインといった金融サービスを展開してきた。メルコインは2023年3月に暗号資産(仮想通貨)取引サービスを開始し、2026年3月末時点で累計口座開設数が400万口座を突破している。

永沢氏は、メルペイの事業を広げるうえで重視してきたのは、技術そのものではなく、ユーザーの行動や課題に根ざした金融体験だったと説明した。例えば、メルカリで継続的に商品を売っている利用者について、「毎月1万円、ものを定期的に売ってる人には、先行してこの人には毎月1万円の与信を与えてもいいよね」という発想から、後払いのサービスを始めていったという。

つまり、メルカリ上で物を売る力そのものを信用に変える発想が、メルペイのサービスづくりにつながってきた。

永沢氏は、ステーブルコインについても同様に、導入すること自体が目的になるわけではないと述べた。金融系のサービスは、ユーザーから見れば「安くなるか、早くなるか、お得になるか」が重要であり、技術の新しさだけでは十分な便益にならない。

例えば、メルカリの売上金をJPYSCなどのステーブルコインに交換できる導線をつくる場合、円と電子決済手段を交換するための登録などが必要になる。永沢氏は、必要な登録を取得できればメルカリユーザーに提供すること自体は可能だとしたうえで、重要なのはその先にある利用者メリットだと語った。

メルカリの売上金ではなくステーブルコインで持つことに、どのような違いがあるのか。永沢氏は、その答えとして、金利、送金時の速さや安さ、Web3の世界へ送れることなどを挙げた。メルカリの売上金では提供できない価値があり、それが利用者にとって良いものであれば、提供を検討すべきだとの考えを示した。

ステーブルコインが普及するには、既存の売上金や残高と比べて何が便利になるのかを利用者が実感できる必要がある。永沢氏は、プラットフォーマーが重視するのはステーブルコインを採用すること自体ではなく、ユーザーにとって現在の売上金よりも便利な体験を提供できるかどうかだと述べた。

トークン化預金の強みは「預金」であること

トークン化預金とステーブルコインは、いずれもデジタル上で円など法定通貨の価値を扱いやすくする仕組みという点で共通している。では、両者の違いはどこにあるのか。

田子島氏は、トークン化預金の最大の特徴は「預金であること」にあると説明した。

トークン化預金は、銀行預金をブロックチェーン上で扱えるようにする仕組みだ。ステーブルコインと同じような機動性を持ちながら、利用者から見ればあくまで「預金」として扱われる。

田子島氏は、銀行預金としての信頼性や、企業会計上の扱いやすさが大きな利点になると述べた。法人にとっては、新しい資産を持つのではなく、預金として扱えることが導入のしやすさにつながる。

「ウォレットを持っていない方はたくさんいらっしゃるが、銀行預金を持っていない方はほとんどいない」と田子島氏は述べ、誰もが慣れ親しんだ銀行預金の延長線上にあることが、トークン化預金の強みだと語った。

また、AIエージェントとの相性にも触れた。トークン化預金が広がれば、利用者があらかじめ使える金額や条件を決め、その範囲内でAIエージェントに支払いを任せる使い方も考えられるとした。

法人決済から個人利用へ、DCPが見る普及シナリオ

Man speaking into a microphone at a panel, standing behind a round podium with an orange abstract background behind him.
DCP執行役員の田子島敬氏

トークン化預金の用途として、田子島氏がまず挙げたのが法人決済だ。

法人間取引では、資金の移動だけでなく、請求書や支払い情報と決済をひもづけることが重要になる。田子島氏は、10万円の請求書が10枚届き、そのうち1枚に不備があったため、9枚分の90万円だけを支払うケースを例に挙げた。

通常の送金では、着金後に「どの請求に対する支払いだったのか」を照合する手間が生じやすい。これに対し、トークン化預金では、資金移動に請求書や取引条件などの情報をひもづけることで、支払いと取引内容を一体で扱いやすくなる。田子島氏は、こうした特性が法人決済での活用につながると説明した。

一方で、トークン化預金は法人や大口決済だけに閉じるものではないという。ステーブルコインは個人や小口決済、トークン化預金はB2Bや大口決済に向くという整理もあるが、田子島氏は、実際にはそれほど単純には分かれないとの見方を示した。重要なのは、誰が利用者との接点を持ち、どのような体験として提供するかだという。

その例として、田子島氏は、ゆうちょ銀行が2026年度中をめどにトークン化預金の取り扱いを検討していることにも触れた。全国に拠点を持ち、多くの個人口座を抱える銀行が扱えば、トークン化預金は法人決済だけでなく、一般利用者にとっても身近なサービスになり得る。

関連記事:ゆうちょ、DCJPYの2026年度発行予定を維持──具体時期は示さず

さらに、田子島氏はアジアでの相互運用性にも言及した。24時間365日使える決済基盤を整え、日本円をより多くの場面で使ってもらうには、まず国内でトークン化預金を扱う銀行や利用者を増やす必要がある。国内で利用基盤を広げた先に、アジア圏での円建て決済の可能性も見えてくるとの考えを示した。

金融の主役は本当に変わるのか

Four men posing on a stage in front of a red 'Crypto Stage' backdrop with high tables and water bottles nearby.
左からNADA NEWS編集長の増田 永沢氏 手塚氏 田子島氏

セッションタイトルにある「金融の主役交代」について、手塚氏は、銀行がすぐに置き換わるわけではないとの見方を示した。インターネットバンキングが登場した際にも、銀行店舗やメガバンクがなくなるのではないかと言われた。

しかし、実際には銀行は今も残っている。法令遵守、KYC、顧客保護の面で積み上げてきた強みがあると指摘した。人のお金を預かる以上、こうした信頼性は簡単には代替できないという。

その一方で、プラットフォーマーや新興プレイヤーにも大きな可能性があるとの認識では一致した。メルカリのように巨大な顧客基盤を持つ事業者は、利用者に明確なメリットを提供できれば、新しい決済手段を一気に普及させる力を持つ。一方、Startaleのような新興プレイヤーは、ステーブルコインのユースケースを先行して築く役割を担い、DCPは銀行預金の信頼性を維持したままオンチェーン化を進めようとしている。

手塚氏は、日本の現在地について次のように語った。

「おそらく、日本が国際競争力、優位性みたいなところをテクノロジー領域で作っていけるのは、今回が最後のチャンスかもしれない」

当局と連携しながら、短期間でJPYSCの発行にこぎ着けたことは、オンチェーン金融に対する国の本気度を示していると述べた。

「国は本気だと思う。民間が『もう無理だ』と思ってしまえば、それで終わってしまう」

手塚氏は、テクノロジーを積極的に採用すると同時に、規制遵守や顧客保護を両立させることが、日本が再び競争力を取り戻せるかどうかの分岐点になるとの考えを示した。

このセッションで浮かび上がったのは、AI時代のお金を担うプレイヤーは一つではないということだ。銀行、新興プレイヤー、そして巨大な顧客基盤を持つプラットフォーマーが、それぞれ異なる立場から役割を模索していることが印象づけられた。

直前のセッションでは、政府やメガバンクが描くオンチェーン金融の将来像が語られ、続くセッションではウォレットの役割、翌日にはトークン化MMF(マネー・マーケット・ファンド)が議論され、決済だけでなく資産運用まで含めたオンチェーン金融の姿が多角的に描かれた。

金融の主役が一夜にして入れ替わるわけではない。しかし、銀行だけがお金を担う時代から、銀行、ステーブルコイン、トークン化預金、プラットフォーマー、ウォレットが、それぞれの強みを生かして金融インフラを支える時代へ──その変化の始まりを感じさせるセッションとなった。

|取材・文・撮影:NADA NEWS編集部

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