暗号資産市場で史上最大規模となったバイナンス(Binance)のハッキング事件。約63億ドル(約9,765億円、1ドル155円換算)という巨額の資産が流出したにもかかわらず、ビットコイン(BTC)の価格下落は比較的限定的だった。
世界有数のオンチェーンデータ分析企業CryptoQuant(クリプトクアント)は11月4日、「The Binance Hack: Five Days After(バイナンスハッキング、発生から5日後)」と題する調査レポートを発表した。
同社は、今回の事件について、バイナンスでは大規模な資金流出が発生したものの、ビットコイン市場全体の取り付け騒ぎには発展しなかったと分析している。
エックスウィンは、CryptoQuantの認証アナリストとして、日々オンチェーンデータを活用している。今回は同社の調査結果をもとに、史上最大のハッキングが市場に与えた影響と、ビットコイン市場の強さ、そして今後のリスクについて考えたい。
19分間で63億ドル流出、約43%を凍結
CryptoQuantによると、10月29日20時05分から20時24分(UTC)のわずか19分間に、バイナンスのホットウォレットから約63億ドルの暗号資産が流出した。

主な流出資産は、18,270 BTC(約14.7億ドル)、197,540 ETH(約4.58億ドル)、USDT約24.9億ドル、USDC約8.23億ドルなどである。
しかし、事件発生直後からステーブルコイン発行体が迅速に対応した。
Tetherは最初の不正送金から56分後に資産凍結を開始。Circleも関連するUSDCを凍結した。
CryptoQuantのオンチェーン分析では、合計約26.8億ドル、被害額の42.5%が凍結されたと推計している。
一方、凍結されていない資産の多くはBTCやETHなどであり、依然として移動可能な状態にある。
今回の事件は、ステーブルコイン発行体による迅速な凍結対応が被害拡大を抑える一方、BTCやETHのように発行体が資産を凍結できない仕組みとの違いも浮き彫りにした。
バイナンスから過去最大規模の資金流出、それでも市場は耐えた
今回の調査で特に注目したいのが、ハッキング後の利用者による資金移動である。
バイナンスは被害額を補填するため、SAFU基金、先物保険基金、企業の自己資金を組み合わせて約63.4億ドルを確保したと説明。11月1日には主要ブロックチェーンで出金を再開した。
しかし、利用者の警戒感は強く、出金再開後に大規模な資金流出が発生した。
CryptoQuantによると、11月1〜2日の純流出額は、BTCが25,793 BTC、ETHが273,094 ETH、Ethereum上のUSDTが約37.5億ドル、USDCが約13.3億ドルに達した。
11月1日の流出規模は、これらの資産すべてで過去1年間の最大値となった。
それでも11月3日には状況が改善し、ETH、USDT、USDCは純流入へと転換した。BTCでは流出が続いていたものの、その規模は縮小していた。
重要なのは、ハッキングによる資産の盗難と、利用者による出金を区別することだ。
CryptoQuantの分析は、バイナンスへの信用不安が資金流出を引き起こした一方、市場全体の連鎖的な混乱には発展しなかったことを示している。
過去38件のハッキングと比較、BTCの下落率は5.7%

CryptoQuantは、2014年以降に発生した被害額2,000万ドル以上の取引所ハッキング38件について、事件後112時間のビットコイン価格の下落率を比較した。
今回のバイナンス事件では、BTCの最大下落率は5.7%だった。
これに対して、2014年のMt. Gox事件では30.9%、2018年のCoincheck事件では9.9%、2025年のBybit事件では13.6%の下落が確認されている。
過去38件のうち14件は、今回よりも大きな下落率を記録していた。
つまり、盗難額では過去最大だったにもかかわらず、ビットコイン価格への影響は歴史的に見て突出したものではなかった。
その背景には、バイナンスが損失を全額補填する方針を示したことや、盗難資産の一部が凍結されたことがあるとCryptoQuantは分析している。
また、盗難されたBTCやETHが直ちに市場で大量売却されたわけではなかったことも、価格への急激な影響を抑えたと考えられる。
オンチェーン分析が示す重要な価格帯
一方、CryptoQuantは、ハッキング事件の影響が落ち着いたとしても、ビットコイン市場の基礎的な需要が十分に回復したわけではないと指摘する。
11月2日時点のレポート分析では、BTC終値76,816ドルに対し、365日移動平均線が76,969ドル、直近1〜3カ月の保有者の平均取得価格を示すTrader Realized Priceが77,755ドルだった。

さらに200日移動平均線は73,205ドルに位置していた。
CryptoQuantは、BTCが77,800ドル付近を回復できるか、バイナンスからの資金流出が正常化するかを重要な確認事項として挙げていた。
その後、11月4日にはBTCが80,000ドルを突破し、大規模なショートスクイーズを伴う反発が起きている。
ただし、この上昇はCryptoQuantの11月4日付レポートの主な分析対象期間より後の動きである。
価格回復が確認されたことと、現物需要が持続的に改善したことは、分けて判断する必要がある。
荒澤の見解|重要なのは盗難額ではなく、市場が危機を吸収できるか
今回のCryptoQuantのレポートで最も興味深いのは、史上最大のハッキング事件でありながら、ビットコイン市場全体が崩壊しなかったという点である。
筆者は、今回の事件から大きく3つの教訓が得られると考えている。
第一に、取引所の経営体力と準備金管理の重要性である。
バイナンスが損失を補填する資金を確保し、比較的短期間で出金を再開できたことは、市場の混乱を抑える要因となった。ただし、準備金の十分性については継続的な透明性の確保が必要である。
第二に、ブロックチェーン上の資産を追跡する技術と、ステーブルコイン発行体の対応能力である。
TetherやCircleによる迅速な凍結は、盗難資産の移動を制限した。一方で、資産凍結の仕組みには中央集権的な管理権限という側面もあり、利便性、安全性、分散性のバランスを考える必要がある。
第三に、オンチェーンデータによって市場の実態を把握できることである。
価格だけを見ると、今回の事件は一時的な下落と反発に見えるかもしれない。しかし、ウォレットからの資金移動、取引所準備金、利用者の出金状況を確認することで、市場参加者が実際にどのような行動を取っていたのかが見えてくる。
特に今回、バイナンスからの資金流出が過去最大規模となった一方、数日後には一部資産が純流入に戻っていたことは重要だ。
暗号資産市場は成長とともに、より大きな資金を扱うようになっている。その一方で、攻撃手法も高度化しており、取引所やDeFi事業者には、これまで以上に高度なセキュリティ対策が求められる。
エックスウィンは、今回の事件を単に「史上最大のハッキング」として捉えるのではなく、暗号資産市場のリスク管理能力が改めて試された出来事と考えている。
ハッキングを完全になくすことは難しい。しかし、被害の拡大を防ぎ、利用者の資産を守り、市場の信頼を回復する仕組みを強化することはできる。
今回のCryptoQuantの分析は、その重要性をオンチェーンデータによって示している。
ショート動画
史上最大63億ドルのハッキング!なぜビットコインは暴落しなかったのか?CryptoQuantが分析
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