ビットコイン採掘企業がAIへ転換、それでもハッシュレートは回復──マイニング業界で進む構造変化【エックスウィン】

ビットコインのマイニング業界で、大きな構造変化が起きている。これまでビットコインの採掘を主力事業としてきた企業が、相次いでAIデータセンター事業へと転換しているのだ。背景には、マイニングの収益性低下と、生成AIの普及による大規模な電力・データセンター需要の拡大がある。

一見すると、これはビットコインにとって悪材料に思える。マイニング企業が採掘をやめれば、ネットワークを支える計算能力も低下するのではないか。

しかし、実際のオンチェーンデータは異なる姿を示している。CryptoQuantが2026年10月22日に公表した週間レポート「Miners Pivot, Hashrate Holds」によると、主要マイニング企業のビットコイン生産量が大幅に減少する一方、ネットワーク全体のハッシュレートは急速に回復している。

今回は、マイニングの基本的な仕組みを整理したうえで、最新データからビットコイン市場の構造変化を読み解きたい。

ビットコインのマイニングとは何か

ビットコインには、銀行のように取引を一元管理する中央管理者が存在しない。その代わりに、世界中のコンピューターがネットワークに参加し、取引の検証と記録を支えている。この仕組みを支えるのが「マイニング(採掘)」である。

マイナーと呼ばれる参加者は、専用のコンピューターを使って膨大な計算を行い、新しいブロックの生成を競う。ブロックの生成に成功すると、報酬として新規発行されるビットコインと取引手数料を受け取る。

現在、1ブロックあたりの新規発行報酬は3.125 BTCである。平均約10分に1ブロックが生成されるため、1日あたり約450 BTCが新たに市場へ供給される計算となる。ただし、ビットコインを採掘するためには、大量の電力、高性能な半導体、冷却設備などが必要になる。

つまり、マイニングはデジタル上の活動でありながら、実際には電力と設備投資に支えられた巨大なインフラ産業でもある。

ハッシュレートはネットワークの計算能力を示す

マイニング市場を分析する際に重要なのが「ハッシュレート」である。ハッシュレートとは、ビットコインネットワーク全体で行われている計算処理の速さを示す指標だ。単位にはEH/s(エクサハッシュ毎秒)などが使われ、1 EH/sは毎秒100京回のハッシュ計算に相当する。

一般的に、ハッシュレートが高いほどネットワークには多くの計算能力が投入されており、過去の取引履歴を書き換えるために必要な計算コストも大きくなる。

その意味で、ハッシュレートはビットコインのセキュリティとマイニング産業の活動状況を把握する重要な指標の一つである。ただし、ハッシュレートが上昇したからといって、必ずビットコイン価格が上昇するわけではない。

価格、電力コスト、マイニング機器の性能、採掘難易度などによって変動するため、市場構造を理解するための指標として見る必要がある。

なぜマイニング企業はAI事業へ転換するのか

ここで重要なのが、マイニング企業のビジネスモデルである。大手マイニング企業は、単にビットコインを採掘しているだけではない。大規模な電力契約、土地、データセンター施設、冷却設備といったインフラを保有している。

これらの資産は、AI向けデータセンター事業にも活用できる。特に近年は生成AIの急速な普及によって、大規模な計算処理に必要な電力インフラの価値が高まっている。

一方、ビットコインのマイニング企業は、2024年の半減期による報酬減少や価格変動、採掘難易度の上昇などに直面してきた。同じ電力を使用するのであれば、価格変動の大きいビットコイン採掘よりも、AI企業との長期契約によって安定収益を確保する方が合理的と判断する企業が増えている。

つまり、マイニング企業のAI事業への転換は、ビットコインの将来性に対する否定というよりも、保有する電力インフラの収益性を最大化する経営判断と考えられる。

CryptoQuant分析①:ハッシュレートは底値から約12%回復

ビットコインのハッシュレートと価格推移を示すグラフ。過去最高値1,101 EH/sと2026/10/20の下降傾向を示す。ラベルには-8.8%、-18.3%、+11.7%の変化も記載。

CryptoQuantの2026年10月22日付週間レポートによると、ビットコインの30日平均ハッシュレートは、2025年11月11日に過去最高の1,101 EH/sを記録した。その後、ビットコイン価格の下落とともにマイニング環境が悪化し、2026年8月6日には899 EH/sまで低下した。最高値からの下落率は18.3%に達した。

これは2021年の中国によるマイニング禁止以降、最も大きなハッシュレートの調整だった。しかし、その後は回復が進んでいる。2026年10月20日時点のハッシュレートは1,004 EH/sとなり、8月の底値から11.7%上昇した。過去最高値との差はわずか8.8%まで縮小している。注目したいのは、ハッシュレートの回復がビットコイン価格の底打ちに遅れて起きていることである。

レポートによると、ビットコイン価格は6月30日に約5万9,000ドルで底を打ち、その約5週間後にハッシュレートが底打ちした。これは、価格の回復に伴って採掘環境が改善し、マイニング設備が再び稼働・増強された可能性を示している。

CryptoQuant分析②:AIへ転換する5社の採掘量は47%減少

Infographic comparing five AI/HPC companies shifting to BTC mining (2025 vs 2026) and five continuing mining, with BTC amounts and percentage changes for each group.

さらに興味深いのが、上場マイニング企業の生産動向である。CryptoQuantが調査した主要上場マイニング企業10社のうち、IREN、Core Scientific、Bitfarms、TeraWulf、Cipherの5社は、AI事業への転換を進めている。

これら5社の2026年1月1日から10月19日までのビットコイン採掘量は、前年同期の13,263 BTCから7,075 BTCへ減少した。実に47%の減少である。特にIRENは前年比51%減、Core Scientificは54%減、TeraWulfは56%減となった。

これらの企業はMicrosoft、AWS、CoreWeaveなどのAI関連事業者との契約を進めており、5社が発表したAI・高性能コンピューティング関連の契約総額は500億ドルを超える。ただし、これは複数年にわたる契約の総額であり、年間売上高ではない。

一方、ビットコイン採掘を中心に事業を継続するMARA、CleanSpark、Riot、HIVE、American Bitcoinの5社では、合計採掘量が前年比16%増加した。特にHIVEは99%増加し、American Bitcoinも大幅に採掘量を伸ばしている。

結果として、対象10社全体の採掘量は前年比8.9%の減少にとどまった。これは、マイニング産業の内部で明確な二極化が進んでいることを意味する。AI事業へ転換する企業がある一方で、採掘事業を拡大する企業も存在しているのである。

CryptoQuant分析③:上場企業が縮小してもネットワークは回復

企業別1日あたり採掘量を時系列で示すスタックドエリアチャート。MARAら10社の寄与と直近14日間は約91 BTC/日。

今回のレポートで、私が最も重要だと考えるのはこの点である。上場マイニング企業の採掘量が減少しているにもかかわらず、ビットコインネットワーク全体のハッシュレートは回復している。

CryptoQuantによると、対象10社の1日あたりの採掘量は、第1四半期の約114 BTCから直近では約91 BTCへ減少した。これはネットワーク全体の新規発行量の約20%に相当する。

また、大手3社のMARA、CleanSpark、Riotが、対象10社の採掘量の69%を占めるようになった。

一方、ネットワーク全体では8月6日以降、約105 EH/sの計算能力が追加されている。つまり、上場企業が減らした計算能力を、他の事業者が補っているという構図である。

レポートでは、非上場企業、米国外の事業者、国家関連の事業者などが、新世代のマイニング設備を導入していることが回復要因として指摘されている。これは非常に重要な変化だ。

ビットコインは特定の企業によって運営されるネットワークではない。

ある企業が採掘から撤退しても、他の参加者が計算能力を供給することができる。今回のデータは、ビットコインネットワークが市場環境の変化に適応していることを示す一例といえる。

エックスウィン・荒澤の見解:AIへの転換はビットコインの弱体化を意味しない

今回のCryptoQuantレポートから、私は3つの重要な変化を読み取っている。

第一に、マイニング産業が新たな経営判断を迫られていることである。これまでは、より多くの計算能力を確保してビットコインを採掘することが、マイニング企業の成長戦略だった。しかし現在は、保有する電力とデータセンターをAIに活用するという選択肢が生まれている。今後、マイニング企業の企業価値は、ビットコインの保有量やハッシュレートだけでなく、電力インフラをどのように活用しているかによっても評価されるようになるだろう。

第二に、ビットコインネットワークの参加者が再編されていることである。上場企業がAI事業へ転換しても、別の事業者が採掘能力を増強している。これはビットコインの分散型ネットワークが持つ適応力を示している。ただし、採掘シェアの集中度や地域分散については、引き続き検証する必要がある。

第三に、ハッシュレートの回復は市場環境の改善を示す可能性があることである。ビットコイン価格の底打ちから約5週間遅れてハッシュレートが回復したという事実は、マイニング事業者の採算環境が変化していることを示唆する。ただし、これを直ちに価格上昇のシグナルと判断するのは早い。

今後は、マイナーの取引所送金、保有BTCの増減、ETFへの資金流入、現物需要などと合わせて確認する必要がある。

私が今回、最も注目したのは、「企業はビットコインの採掘から離れても、ビットコインネットワークそのものは回復している」という事実である。AIという新しい産業が電力需要を奪い合うなかで、ビットコインのマイニング業界も進化を迫られている。

しかし、それは必ずしもビットコインの弱体化を意味しない。

むしろ、採算の合わない事業者が撤退し、新しい設備や事業者が参入することで、ネットワークの構造が変化している可能性がある。

今後のビットコイン市場を分析するうえでは、価格だけでなく、誰が採掘し、誰が撤退し、誰が新たに計算能力を供給しているのかを確認することが、これまで以上に重要になると考えている。

ショート動画

ビットコイン採掘企業がAIへ転換!それでもハッシュレートが回復する理由とは?【CryptoQuant最新分析】

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