
暗号資産の税制改正をめぐっては、税率が一律20%(復興特別所得税等を含め20.315%)になる「申告分離課税」や「損失の3年繰越控除」といった優遇措置に関心が集まりやすい。
しかし、今回の法改正には、それらの適用よりも早いタイミングで施行される制度が含まれている。それが、令和9年(2027年)4月1日に施行される「自己管理ウォレット等の暗号資産に対する新しい差押手続」だ。
これまで「秘密鍵を自分で管理している暗号資産は、実質的な差押えが困難」とされていた徴収実務が、国税徴収法の改正によって整備されつつある。
連載「泉税理士が読み解く!暗号資産『分離課税』のリアル」の第5回では、租税法に詳しい泉絢也税理士の解説をもとに、新設された徴収手続の仕組み、従わなかった場合の罰則、そして分離課税に先行して徴収体制が整う背景について解説する。
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本記事は、泉税理士のブログ記事「自分のウォレットの暗号資産は差し押さえられるのか—令和9年4月1日から始まる新しい徴収手続」を元に、編集部で要約・再構成したものです。
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これまで困難だった「プライベートウォレットの差押え」
取引所(暗号資産交換業者)に預けてある暗号資産であれば、滞納者が取引所に対して持つ「返還請求権」を債権として差し押さえることができると考えられていた。
しかし、MetaMaskやハードウェアウォレットなど、秘密鍵を自ら管理する「プライベートウォレット」にある暗号資産は、差押えの手続自体は存在していたものの、滞納者本人が秘密鍵を用いて協力しない限り、実効的に資産を動かすことができないという課題があった。
では、自己管理のウォレットにある暗号資産は、滞納しても差し押さえられないのか。この点について泉税理士は次のように答えている。
【泉税理士の解説:手続の実効性を確保する改正】
「差し押さえられます。令和8年度税制改正により、暗号資産交換業者を介さずに自ら管理している暗号資産についても、実効的に差押えができる手続が国税徴収法に整備されました(徴法72条1項、72条の2)。施行は令和9年4月1日です。
(中略)
今回の改正は、この『手続はあるが実効性がない』という状態を解消するものです。徴収職員が自らの管理に移す方法を原則とし、それが困難なときには権利者に移転を命じることができるようになりました。」
税務調査で追徴課税を行っても自己管理を理由に徴収できない事例があったことが、今回の法改正の背景にある。
新概念「特定電子移転財産権」と、従わない場合の罰則
改正後の国税徴収法には、「特定電子移転財産権」という概念が新設された。
「特定電子移転財産権」とは、無体財産権等のうち、第三債務者等がなく、その権利の移転について登記を要せず、かつ電子情報処理組織を用いて移転するものをいう(徴法72条1項)。自己管理の暗号資産はこれに該当する。
差押えは、この特定電子移転財産権を徴収職員の管理に移す方法によるのが原則だ。それが困難な場合には、実際に移転を行える立場にある者に対して「移転命令」が発せられる。
名宛人は滞納者本人に限られず、権利者(名義人が異なる場合は名義人を含む)のうち、秘密鍵を把握していて実際に移転を行える者が対象となる。ここで注意したいのが、分離課税の対象となる「特定暗号資産」との違いだ。
【泉税理士の解説:対象範囲は暗号資産一般に及ぶ】
「ここで注意していただきたいのが、対象範囲です。この差押手続の対象は特定暗号資産に限られず、暗号資産一般に及びます。分離課税の対象が特定暗号資産(金融商品取引業者登録簿に名称が登録されている暗号資産等)に限定され、さらに国内の暗号資産取引業者への売委託または同業者に対する譲渡という取引の経路も要件とされているのとは、射程が異なります。」
さらに、正当な理由なくこの移転命令に従わなかった場合の罰則規定も設けられている。
【泉税理士の解説:移転命令違反への罰則】
「罰則の対象になります。正当な理由がなく移転命令に違反した者は、3年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科されます(徴法187条の2)。この罰則は両罰規定の対象でもあります(徴法190条)。
(中略)
法定刑は、滞納処分の執行を妨害する行為である点で共通する滞納処分免脱罪と同水準に定められています。暗号資産の秘密鍵を握ったまま応じないという不作為が、財産を隠匿する行為と同じ重さで評価されている、ということです。」
この罰則は国税だけでなく、住民税や固定資産税などの地方税についても同様に整備されている。
分離課税に先行して令和9年4月1日に施行
投資家にとって確認しておきたいのが、制度が施行されるスケジュールだ。
【泉税理士の解説:課税ルールより先に徴収が整う】
「徴収手続のほうが先です。上記の差押手続は、令和9年4月1日から施行されます(所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)附則1条6号イ、国税徴収法施行令の一部を改正する政令附則ただし書)。
(中略)
これに対し、特定暗号資産の分離課税が適用されるのは、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日以後です。
(中略)
課税のルールが変わるより先に、徴収の網が整うという順序になっています。税率が下がる話ばかりが注目されがちですが、実務上は、この順序のほうが先に効いてきます。」
分離課税の適用開始(令和10年=2028年1月1日見込み)に先行し、滞納処分の手続が令和9年4月1日から施行される。
また、CARF(暗号資産等報告枠組み)などによる「情報把握の局面」と、確定した税金を回収する「徴収の局面」は別物であり、自己管理ウォレットやDEXの利用であっても、申告漏れが判明した後の徴収手続の対象となる点には留意が必要だ。
まとめ:税率だけでなく徴収手続の整備にも留意を
暗号資産を取り巻く税制改正は、税率の引き下げだけでなく、執行体制の整備とあわせて進められている。
- 自己管理ウォレットの暗号資産も、差押手続の対象となる(令和9年4月1日施行)
- 移転命令に正当な理由なく違反した場合、3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金(併科あり)
- 対象は「暗号資産一般」であり、分離課税の開始に先行して手続が施行される
新税制の動向を確認するとともに、適切な申告と計画的な納税を心がけたい。
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さらに詳しい「差し押さえられた暗号資産の換価・公売手続」や「海外取引所に預けた資産と徴収共助の関係」などについては、泉先生のブログ記事本編にて詳細に解説されています。ぜひ併せてご覧ください。
▼元記事を詳しく読む 「自分のウォレットの暗号資産は差し押さえられるのか—令和9年4月1日から始まる新しい徴収手続(泉絢也税理士事務所)」
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▼監修者プロフィール
泉 絢也(いずみ じゅんや)

税理士・東洋大学法学部教授、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)税制部会顧問。元国税職員(国税調査官)。博士(会計学・中央大学)。専門は租税法。暗号資産・NFTの税務、AIと税務、税務調査を主な研究テーマとする。著書に『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務〔第2版〕』(中央経済社・共著)、『暗号資産の税金はこう変わる 分離課税の仕組みと実務』(清文社・単著)著)など。
|編集:栃山直樹
|画像:NADA NEWS制作


