日本でも「オンチェーン金融」という言葉が、いよいよ政策の世界で本格的に使われ始めた。2026年7月に閣議決定された「骨太方針2026」でも、オンチェーン金融の推進が明記されている。
筆者は、ブロックチェーン推進協会(BCCC)のDeFi部会長として、DeFiやオンチェーン金融の社会実装、それを可能にする法制度について議論・提言を行っている。
そこで最近感じていることがある。日本にとって次に必要なのは、ブロックチェーンの実証実験をさらに増やすことではない。
「実際に企業や金融機関が使い続ける仕組み」をつくることである。
オンチェーン金融は「金融版DX」ではない
オンチェーン金融というと、ステーブルコインやデジタル証券、DeFiなどを想像する人が多い。
しかし、その本質は「金融商品をブロックチェーンに載せること」だけではない。
私はむしろ、これまで別々に動いていた「企業活動」と「金融」をつなぐ仕組みとして見るべきだと考えている。
例えばメーカーが部品を発注する。
部品が工場に届き、検収が完了する。
現在であれば、その後に請求、支払い、入金確認、消込など、複数の業務が発生する。
しかし、検収データと決済手段がプログラムでつながればどうだろう。
「検収完了」を条件に自動的に支払いを実行し、その情報を会計システムにも反映できる。
重要なのは、支払いがデジタルになったことではない。企業活動そのものと金融がつながったことだ。ここにオンチェーン金融の大きな可能性がある。
なぜ今、オンチェーン金融なのか
この変化をさらに加速させると考えているのがAIだ。これから企業では、AIエージェントが人間に代わって情報を収集し、発注し、条件を確認し、業務を進める場面が増えていくだろう。
ところがAIが企業活動を自動化しても、最後の支払いだけ人間が銀行システムを開いて承認していては、完全な自動化にはならない。
AI時代には「プログラムから動かせるお金」が必要になる。だからこそ、ステーブルコインやトークン化預金、スマートコントラクトが重要になる。AI、企業データ、ブロックチェーン、金融。これらがつながったところに、オンチェーン金融の本当の市場が生まれると私は考えている。
日本は決して出遅れているわけではない
日本では「Web3で海外に遅れている」という議論がよく聞かれる。しかし、オンチェーン金融については、少し違った見方が必要だ。日本ではすでにステーブルコインに関する制度が整備され、円建てステーブルコインやトークン化預金の取り組みが始まっている。
企業間取引では、受発注や検収データとデジタルマネーを接続し、支払いから消込までを自動化する実証も行われている。金融庁も、銀行間決済やデジタル証券と決済の連携など、新しい金融インフラを見据えた取り組みを進めている。
つまり、日本には「スタート地点に立つための材料」はかなり揃い始めている。問題はここからだ。
PoCの成功をゴールにしない
日本企業のデジタル化を見ていて、私が以前から課題だと感じていることがある。実証実験が成功すると、それ自体が成果になってしまうことだ。
オンチェーン金融でも同じことを繰り返してはいけない。
本当に見るべきなのは、
「何件のPoCを実施したか」
ではなく、
「何件が実際のサービスになったか」
である。そしてさらに重要なのは、サービス開始後も継続して使われているかだ。企業の支払い時間は短縮されたのか。経理業務は減ったのか。資金効率は改善したのか。新しい商取引が生まれたのか。
オンチェーン金融は技術のために導入するものではない。企業にとって明確な経済合理性がなければ、社会には定着しない。
法整備も「守る」から「実装できる」へ
もちろん、そのためには法制度も重要になる。ただし、私は単純な「規制緩和」が必要だとは考えていない。金融である以上、利用者保護、マネーロンダリング対策、サイバーセキュリティ、事業者の責任などは当然必要だ。
一方で、新しい技術を既存制度に当てはめるだけでは、社会実装が難しくなる場合もある。例えばスマートコントラクトが自動的に取引を実行した場合、問題が起きたとき誰が責任を負うのか。
ブロックチェーン上で資産を移転したとき、それが法律上の権利移転とどう結び付くのか。AIが取引を実行するようになれば、その意思決定や責任をどう考えるのか。
これから必要になるのは、こうした新しい経済活動を前提とした制度設計だ。
BCCCのDeFi部会でも、単に規制を緩和するのではなく、利用者を守りながら企業が安心して実装できるルールをどうつくるかを重要なテーマとして議論していきたい。
銀行かDeFiか、という議論ではない
もう一つ重要なのは、オンチェーン金融を「既存金融対DeFi」という構図で考えないことだ。銀行には信用、顧客基盤、コンプライアンス、金融インフラがある。DeFiやパブリックブロックチェーンには、24時間365日動くネットワークと、プログラムによって金融サービスを組み合わせられる特徴がある。
ステーブルコインには、インターネット上で価値を移転できる特徴がある。それぞれに強みがある。どれか一つが既存金融を置き換えるというより、それぞれが接続されていく可能性の方が高い。
だから、日本が考えるべきなのは、
「どの技術が勝つか」
ではなく、
「どうすれば安全につながるか」
ではないだろうか。
オンチェーン金融を「デジタル資本経営」の視点で考える
さらに私は、企業側にも意識の変化が必要だと考えている。オンチェーン金融は金融機関だけのテーマではない。企業が持つデータ、AI、デジタル資産、決済手段をどう組み合わせ、企業価値へ変えていくのか。
これは私が提唱している「デジタル資本経営」にもつながる。
AIによって業務を効率化する。
データを経営資源として活用する。
ステーブルコインなどによって資金の流れを効率化する。
そしてデジタル資産を新しい金融資本として活用する。
これらは別々のDX施策ではなく、今後は一つの経営戦略として考える必要がある。そのためには、ブロックチェーンの専門家だけを育てればいいわけでもない。経営、財務、法務、IT、AI、ブロックチェーンを横断して理解し、新しい仕組みを事業として実装できる人材が必要になる。
日本の勝負はこれから
オンチェーン金融は、単なる暗号資産市場の話ではない。金融そのものが、企業活動やデータとリアルタイムにつながっていく変化である。
そしてAIが普及すれば、この流れはさらに加速する可能性がある。
日本には金融機関がある。
世界有数の企業群がある。
高度な決済インフラがある。
そして制度も整い始めている。
だからこそ、次に問われるのは実行力だ。実証実験を何回行ったかではない。どれだけ「実際に使われる金融」をつくれたか。
私は、ここが日本のオンチェーン金融の勝負になると考えている。技術を社会に合わせるだけではなく、制度、企業、金融、そして人材まで一緒に変えていく。その先に、日本発の新しい金融インフラが生まれる可能性がある。
ショート動画
オンチェーン金融、日本の次の勝負は「実装」だ
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