エックスウィン アメリカマーケットリサーチアナリストのデリア・ロホです。私が住むサンフランシスコでは、金融とテクノロジーの境界が急速になくなっています。
これまで「暗号資産」と「伝統金融」は別々の世界として語られることが多かったと思います。しかし、現在アメリカで起きていることを見ると、その考え方自体が少し古くなり始めています。
その象徴がRobinhoodです。
Robinhoodは2025年、欧州向けに米国株やETFをトークン化して取引するサービスを開始しました。
さらに同社はArbitrumの技術をベースとした独自L2「Robinhood Chain」の開発を進め、2026年にはテストネット、そしてメインネットへと展開しています。
これは非常に重要な動きです。
Robinhoodは単に「ブロックチェーンを利用する金融会社」になろうとしているのではありません。
自ら金融取引のレールを持とうとしているのです。
従来のRobinhoodは、ユーザーと既存の証券市場をつなぐインターフェースでした。
しかし株式やETF、将来的にはプライベート資産までトークン化され、それらが自社のブロックチェーン上で移転・決済できるようになれば、Robinhoodは「金融商品を販売する場所」から「金融商品が流通するインフラ」へ近づいていきます。
ここには大きな戦略転換があります。
株式市場が24時間動く世界
ブロックチェーンを使う意味は、単に「株式をトークンにすること」ではありません。
より重要なのは、その先です。
証券、現金、担保、配当などを同じデジタルネットワーク上で扱えるようになれば、取引と決済をほぼ同時に実行できる可能性があります。
市場も24時間365日に近づきます。
スマートコントラクトを利用すれば、配当、担保管理、資産移転などもプログラムによって処理できます。
私はここに、Robinhoodの本当の狙いがあると考えています。
Robinhood Chainは「暗号資産のためのチェーン」というより、株式、ETF、プライベート資産、ステーブルコインなどを一つのオンチェーン金融圏へ接続するためのインフラとして見るべきでしょう。
しかし、Robinhoodだけではありません
ここが今回、最も重要なポイントです。
アメリカでは同じ方向への動きが、伝統金融の中心でも起きています。
JPMorganはKinexysなどを通じて、預金、決済、証券取引をブロックチェーン技術へ接続しています。
Citigroupもデジタル資産基盤を構築し、企業向けキャッシュマネジメントやトークン化資産の発行・移転・カストディを研究しています。
BNY Mellonではステーブルコインと既存カストディの接続が進み、DTCCでは株式、ETF、米国債などのトークン化が進められています。
NASDAQでもトークン化証券を既存市場へ組み込む取り組みが進んでいます。
つまり、取引所だけではありません。
銀行、証券、カストディ、決済、清算という金融システムの各レイヤーが、同時にオンチェーン化へ向かっているのです。
「暗号資産への参入」と考えると本質を見誤る
日本から米国を見ると、
「JPMorganが暗号資産に参入した」
「Robinhoodがブロックチェーンを作った」
「NASDAQがトークン化証券を始める」
と、それぞれ別々のニュースとして理解してしまいがちです。
しかし私は、一つの大きな流れとして見る必要があると思っています。
それは、
「Crypto is entering traditional finance」
だけではなく、
「Traditional finance is moving on-chain」
という変化です。
暗号資産が伝統金融の中へ入っているだけではありません。
伝統金融そのものが、ブロックチェーンという新しい金融インフラへ移動し始めているのです。
なぜ今、動きが加速しているのか
背景には規制環境の変化もあります。
米国ではSEC、CFTC、OCC、FRB、FDICなどが、それぞれデジタル資産、トークン化証券、ステーブルコイン、銀行によるブロックチェーン利用について制度整備を進めています。
特に重要なのは、「ブロックチェーンを金融システムの外側に置く」のではなく、一定の規制の下で既存金融へ組み込む方向が強くなっていることです。
金融機関にとって最大の障害の一つだった規制上の不確実性が少しずつ低下すれば、これまでPoCにとどまっていたプロジェクトが、実際のサービスへ移行する可能性があります。
銀行のビジネスモデルも変わる
この変化は金融機関にとって、必ずしも良いことばかりではありません。
取引と決済が同時に行われるようになれば、従来の清算・決済・仲介から得ていた収益の一部は縮小する可能性があります。
一方で、新しい収益機会も生まれます。
デジタル資産カストディ、トークン発行、ウォレット、ステーブルコイン、トークン化預金、オンチェーン資産管理、ブロックチェーン間の接続などです。
つまり、金融機関に問われているのは「ブロックチェーンを使うか、使わないか」ではありません。
「オンチェーン金融の時代に、自社はどのレイヤーで価値を提供するのか」という経営戦略そのものです。
日本にとっても対岸の火事ではない
私は、日本の金融機関や企業にとっても、この動きを注意深く見る必要があると思っています。
日本でもステーブルコイン、セキュリティトークン、RWA、デジタル証券、ブロックチェーン決済などの取り組みは始まっています。
しかし米国では、その議論がさらに一歩進みつつあります。
「ブロックチェーンを使った新しい金融商品を作る」という段階から、
「金融市場そのものをブロックチェーン時代に合わせて再設計する」
という段階へ移り始めているのです。
次に見るべき3つのポイント
今後、私は特に三つを見ています。
一つ目は、Robinhood Chain上で株式やETFだけでなく、どこまで幅広いRWAや金融サービスが展開されるのか。
二つ目は、JPMorgan、Citi、BNY Mellonなどの銀行が、プライベートなブロックチェーンだけでなく、EthereumやLayer2のようなパブリックなネットワークとの接続をどこまで進めるのか。
そして三つ目が最も重要です。
NASDAQやDTCCなど、現在の米国金融市場を支えている中核インフラそのものが、どこまでトークン化へ移行するのかです。
金融の未来は「Crypto vs. Banks」ではない
数年前まで、アメリカでは「暗号資産は銀行を破壊するのか」という議論が多くありました。
しかし、私は現在の状況を少し違う形で見ています。
銀行が消えるのではありません。
証券会社が消えるとも限りません。
取引所がなくなるわけでもありません。
彼ら自身がブロックチェーンを使い始めているのです。
Robinhoodが独自チェーンを作り、JPMorganがデジタル預金を研究し、DTCCやNASDAQがトークン化証券へ動く。
これらは別々のニュースではありません。
同じ構造変化の一部です。
次の金融競争で重要になるのは、「暗号資産企業か伝統金融か」ではなく、「誰が次世代の金融インフラを握るのか」なのかもしれません。
そして今、その競争はすでにアメリカで始まっています。


