CryptoQuantのKi Young Ju(キ・ヨンジュ)CEOが、CMEのビットコイン先物市場について興味深い投稿をした。

「Hedge funds on CME flipped net long BTC futures. This is rare.」
つまり、CMEで取引するヘッジファンドのポジションが、これまでの売り越しから買い越しへ変化したという指摘だ。
さらに同氏は、「ベーシス取引によって、彼らは構造的にショートになる。だから、このチャートは何年も赤かった」と説明している。
最後には、「The suits are betting on upside」と表現した。
簡単に言えば、「ウォール街の機関投資家が、ビットコインの上昇を意識し始めているのではないか」という見方である。ただし、この投稿を理解するためには、まず「なぜヘッジファンドはこれまでビットコイン先物を売っていたのか」を知る必要がある。
ヘッジファンドの先物ショートは、必ずしも弱気ではない
一般的に、「先物をショートしている」と聞くと、「ビットコインが下がると思っているのではないか」と考えやすい。しかし、CMEのヘッジファンドについては、それだけでは説明できない。
2024年に米国でビットコイン現物ETFが始まって以降、機関投資家の間では「ベーシス取引」と呼ばれる取引が活発になった。
仕組みはシンプルだ。
例えば、
ビットコイン現物価格が10万ドル。
CME先物価格が10万1,000ドル。
だったとする。
この場合、投資家はビットコインや現物ETFを10万ドルで買い、同時にCME先物を10万1,000ドルで売る。時間が経ち、先物の満期が近づけば、現物と先物の価格は基本的に近づいていく。
そのため、最初に存在した1,000ドルの価格差を利益として狙うことができる。
これがベーシス取引だ。
つまり、
現物は買う。
先物は売る。
という取引になる。
だから、ヘッジファンドがCME先物で大きなショートを持っていたとしても、それだけで「ビットコインに弱気」とは言えない。むしろ、現物やETFを大量に買っているからこそ、その反対側で先物を売っているケースがある。
なぜ今回の「ネットロング」が珍しいのか
ここが今回の一番重要なポイントだ。ベーシス取引を続ける限り、ヘッジファンドは先物市場では基本的にショートになりやすい。そのため、長い期間、ヘッジファンドのCMEポジションは売り越しで推移してきた。
ところが、そのポジションが買い越しに変わったとすれば、状況は少し違ってくる。なぜなら、ベーシス取引をするだけなら、先物を買い越す必要はないからだ。
ここから考えられることは大きく二つある。
一つは、これまで積み上げていた先物ショートを買い戻していること。
もう一つは、その先まで進み、ビットコイン価格の上昇を狙って先物ロングを積み上げていることだ。
この二つは意味が違う。
「ショートをやめた」のか、「上昇に賭け始めた」のか
例えば、ベーシス取引の収益性が低下した場合、ヘッジファンドはこれまでの取引を解消する。現物ETFを売り、同時に先物ショートを買い戻す。この場合、CME先物市場では買いが発生する。
しかし、これは必ずしも強気ではない。単にベーシス取引をやめただけだからだ。
一方で、ショートをすべて解消した後も先物をさらに買い、ポジションがネットロングまで進んでいるのであれば話は変わる。
それは、「価格差を取りにいく取引」から、「ビットコイン価格そのものの上昇を取りにいく取引」へ一部の資金が変化している可能性を意味する。
キヨンジュ氏が今回の動きを「珍しい」と表現した理由も、ここにある。
ETFへの資金流入だけを見てはいけない
ビットコイン市場では、米国現物ETFへの資金流入がよく注目される。しかし私は、ETFへの流入額だけでは、機関投資家が本当に強気なのかは判断しにくいと考えている。
例えば、あるファンドが10億ドル分のビットコインETFを買ったとしても、その裏側で10億ドル相当のCME先物をショートしていれば、ビットコイン価格そのものへの影響は限定的になる可能性がある。
ファンド全体としては、価格上昇に賭けているというより、現物と先物の価格差を狙っているからだ。
逆に、
ETFを買う。
先物ショートを減らす。
さらに先物ロングまで増やす。
という流れになれば、機関投資家がビットコイン価格の上昇そのものに取るリスクは大きくなる。そのため、これからはETF資金流入とCME先物ポジションをセットで見ることが重要になる。
最新データでは、少し注意も必要
ただし、現時点では「CMEのヘッジファンド全体が完全にネットロングへ転換した」と断定するのは早い。
CFTCが公表している8月4日時点のデータを見ると、通常サイズのCME Bitcoin Futuresでは、Leveraged Fundsはまだ大幅なネットショートとなっている。
一方、Micro Bitcoin Futuresではネットロングとなっている。つまり、契約の種類によって状況が異なっている。
そのため、キヨンジュ氏が示したチャートとCFTCの公表データでは、対象としている契約や集計方法が異なっている可能性がある。ここは慎重に見る必要がある。ただ、それでも注目すべきなのは、「これまで構造的にショートだった機関投資家のポジションに変化が出ている」という点だ。
今後は何を見ればいいのか
今回の動きが本当に強気転換なのかを見るためには、CMEのポジションだけでは不十分だ。
まず見たいのは、CMEのベーシスだ。現物と先物の価格差が再び大きくなれば、ヘッジファンドはベーシス取引を再開し、先物ショートを増やしやすくなる。その場合、ショートが増えても弱気とは限らない。
次に、米国ビットコイン現物ETFへの資金流入。ETFへの資金が増えながら、CMEの先物ショートが減るのであれば、機関投資家の実質的なビットコインへの強気姿勢は強まっている可能性がある。
そしてもう一つは、Binanceなど暗号資産取引所のFunding RateやOpen Interestだ。CMEでは伝統金融の機関投資家。暗号資産取引所では、より幅広い投資家のレバレッジ状況を見ることができる。両方を見ることで、市場全体のポジションをより立体的に把握できる。
「スーツ組が上昇に賭けている」のか
キヨンジュ氏は今回、
「The suits are betting on upside」
と表現した。
非常に分かりやすい言葉だ。
ただ私は、現時点では、「ウォール街が全面的にビットコイン強気へ転換した」とまでは考えていない。
むしろ注目しているのは、「裁定取引を目的としていた資金の一部が、価格の方向そのものを取り始めているのか」という変化だ。
これまでCMEで見えていた巨大なショートは、ビットコインへの弱気ポジションとは限らなかった。現物を買い、先物を売る。それによって価格差を収益に変える、非常に合理的な機関投資家の取引だった。
だからこそ、そのショートが減る意味は大きい。そして、その先で本当にネットロングへ転換しているのであれば、さらに重要だ。
今後注目すべきなのは、ビットコイン価格だけではない。
誰が買っているのか。
なぜ買っているのか。
そして、その買いは「価格差を取るため」なのか、「価格上昇を取るため」なのか。機関投資家のポジションの量だけでなく、その「目的」を見ることが、これからのビットコイン市場分析では重要になってくる。
◆CMEのヘッジファンドに異変──ビットコイン上昇に賭け始めたのか?
https://youtube.com/shorts/E0KAafFUDzM


