企業へのコンサルティングやアドバイスをしていると、ここ1〜2年で、経営者から寄せられる相談の内容が大きく変わってきたことを感じます。
少し前まで「デジタル」に関する経営課題といえば、DX、業務システムの刷新、データ活用などが中心でした。そこに生成AIが一気に入ってきました。「AIをどの業務に使えばいいのか」「社員にどう使わせればいいのか」「AIによって自社のビジネスモデルはどう変わるのか」こうした相談は、もはや一部の先進企業だけのものではありません。
そして最近、もう一つ明らかに関心が高まっているのが、「デジタル資産を企業経営にどう取り込むのか」というテーマです。
ビットコインをはじめとする暗号資産、ステーブルコイン、トークン化されたさまざまな資産。これらを単なる投資対象として見るのではなく、財務戦略、決済、新規事業、顧客との関係構築など、企業経営の中でどのように活用できるのか。
こうした問いが、経営の現場で現実的なテーマになり始めています。私は、この変化を単なる「AIブーム」や「暗号資産ブーム」として捉えるべきではないと考えています。もっと大きな変化が起きています。それは、企業経営における「資本」の概念そのものが、デジタルによって拡張され始めているということです。
そこでエックスウィンでは、この新しい経営の考え方を「デジタル資本経営」と呼び、企業経営を捉える新たなモデルとして提唱しています。
AI導入だけでは、経営変革にはならない
生成AIが登場して以降、多くの企業がAI導入を進めています。これは当然の流れです。文章作成、情報収集、マーケティング、営業、人事、経営管理など、さまざまな領域でAIを活用できるようになりました。
しかし、実際に企業の現場を見ていると、一つ重要なことに気づきます。AIというツールを導入するだけでは、企業そのものが変わるわけではない。ということです。
AIを導入しても、業務プロセスが以前のままであれば、効果は限定的です。社員がAIを使いこなせなければ、組織全体の生産性は上がりません。AIによって仕事の進め方が変わるのであれば、人材育成や評価制度も変える必要があります。
そして、AIによってどのような顧客価値を生み出すのかという戦略がなければ、AI導入そのものが目的になってしまいます。つまり、AIは「AIだけ」で考えてはいけない。
戦略、人材、組織、制度、業務など、経営全体との関係で考える必要があります。そして、これはデジタル資産についてもまったく同じです。
デジタル資産が企業経営に入り始めている
デジタル資産というと、日本ではまだ「投資」「価格変動」「売買」といったイメージが強いかもしれません。しかし、企業経営の視点から見ると、その可能性はもっと広いものです。
たとえば、ステーブルコイン。決済や送金、企業間取引などへの活用が考えられます。実際、ローソンによるJPYCを活用した決済の実証実験のように、デジタル資産を実際の店舗や消費者との接点で活用しようとする取り組みも出てきています。
さらに、法人がJPYCを管理・活用するための「JPYC Gateway」のようなサービスも登場し、企業がデジタル資産を扱うための環境も整い始めています。ここで重要なのは、個別のサービスそのものではありません。
デジタル資産が、実際の企業活動の中に入り始めていることです。
決済とつながる。
財務とつながる。
会計とつながる。
業務システムとつながる。
そしてガバナンスや内部統制ともつながっていく。
こうなってくると、デジタル資産は一部の投資家だけが扱う特殊なものではなく、企業が保有・活用・管理する新しい経営資源として考える必要が出てきます。
暗号資産も「財務戦略」の選択肢として考える
そして、デジタル資産はステーブルコインだけではありません。ビットコインをはじめとする暗号資産についても、企業としてどう向き合うのかという議論が必要になってくると考えています。
もちろん、「企業は暗号資産を持つべきだ」と言いたいわけではありません。暗号資産には価格変動をはじめ、会計、税務、管理、セキュリティなど、さまざまなリスクや検討事項があります。
だからこそ重要なのです。
自社の財務状況、キャッシュフロー、事業戦略、リスク許容度などを踏まえたうえで、
「保有するのか、しないのか」
「保有するなら何を目的とするのか」
「どの程度まで許容するのか」
「誰が判断し、誰が管理するのか」
「どのようなルールを設けるのか」
を経営として判断する。
つまり、暗号資産についても、価格が上がるか下がるかという議論だけではなく、財務戦略の選択肢の一つとして適切に評価・判断できる経営能力が必要になってきます。「買うこと」がデジタル資本経営なのではありません。デジタル資産を経営として判断し、適切に扱えること。ここが非常に重要だと考えています。
そこで考えた「デジタル資本経営モデル」

こうした企業経営の変化を整理するなかで、私たちは「デジタル資本経営モデル」という考え方にたどり着きました。このモデルで一番上に置いているのは、デジタルではありません。
Mission、Vision、Valuesです。
企業は何のために存在するのか。
どのような未来を実現したいのか。
そして、そのために何を大切にするのか。
これはAIがどれだけ進化しても、デジタル資産がどれだけ普及しても変わらない、企業経営の出発点です。
デジタルは目的ではありません。MissionやVisionを実現するための重要な経営要素です。その考え方に基づき、今回のモデルでは企業経営を、「戦略」「組織・文化」「制度」「人材」「業務」「デジタル」という6つの要素で捉えています。そして、その中央に「デジタル」を配置しました。ここでいうデジタルとは、単なるITやシステムではありません。
AI、データ、デジタル資産、システム、AIエージェントなど、これからの企業価値創造を支えるデジタル上の経営資源を包含しています。これらを私たちは「デジタル資本」と捉えています。
なぜ「デジタル」を中央に置いたのか
このモデルで最も伝えたいのは、6つの要素をバラバラに考えてはいけない、ということです。たとえばAIを導入すると、業務が変わります。業務が変われば、人材に求められる能力も変わります。人材の役割が変われば、評価制度や組織のあり方も変える必要があります。そして、そうした変革を何のために行うのかを決めるのが戦略です。デジタル資産も同様です。
仮にステーブルコインを決済に利用するのであれば、システムを導入するだけでは終わりません。
会計処理はどうするのか。
誰が管理するのか。
承認権限をどう設定するのか。
リスクをどう管理するのか。
既存の業務プロセスとどう接続するのか。
制度、業務、人材、システム、ガバナンスまで変わってきます。
つまり、
デジタルだけを変えても、企業は変わらない。
逆に言えば、デジタルを起点として戦略、組織・文化、制度、人材、業務を一体として変革することができれば、企業そのものを大きく変える可能性があります。
その相互関係を表したものが、「デジタル資本経営モデル」です。
ゴールは「デジタル化」ではなく企業価値
そして、このモデルにはもう一つ大切なポイントがあります。最終的なアウトプットとして、「企業価値向上」「顧客価値」「持続的成長」の3つを置いていることです。
AIを何個導入したか。
社員の何%が生成AIを使っているか。
どれだけデジタル資産を保有しているか。
それ自体は、経営のゴールではありません。
AIやデータ、デジタル資産を活用した結果、顧客にどのような新しい価値を提供できたのか。
企業の生産性や収益力はどう変わったのか。
新しい事業や競争力につながったのか。
そして、その価値創造を持続できる企業になったのか。
最終的に問われるのは、そこです。
だからこそ、「デジタル経営」ではなく「デジタル資本経営」という言葉を使っています。デジタルを単なる道具として使うのではなく、価値を生み出す資本として捉え、それを経営するという意味を込めています。
「デジタルを使う会社」から「デジタルを経営できる会社」へ
これから数年間で、AIを使うこと自体は特別なことではなくなるでしょう。同じように、ステーブルコインをはじめとするデジタル資産についても、決済、財務、新規事業など、さまざまな形で企業活動との接点が増えていくと考えられます。
そうなると企業間の差は、
「AIを導入しているか」
「デジタル資産を持っているか」
ではなくなります。
重要になるのは、
「デジタルを経営できているか」です。
Mission・Vision・Valuesを起点として戦略を描き、組織・文化、制度、人材、業務を設計する。その中にAI、データ、デジタル資産、システム、AIエージェントなどのデジタル資本を組み込み、それらを相互に連動させる。
そして最終的に、企業価値、顧客価値、持続的成長へとつなげていく。これが、エックスウィンが考える「デジタル資本経営」です。デジタルを「導入する」経営から、デジタルを「資本として活かす」経営へ。AIとデジタル資産が急速に企業活動へ入り始めた今だからこそ、経営者には、この新しい視点が求められているのではないでしょうか。
ショート動画
デジタル資産は「投資」から「経営」へ|いま企業に必要な「デジタル資本経営」とは?
https://youtube.com/shorts/__rdE4aWsfA


