●Coldcardの過去のファームウェアに存在した乱数生成の問題を悪用し、秘密鍵を推測したとみられる攻撃が発生した。8月3日時点では第4波とみられる動きも確認され、被害は約1,816BTC、5,200を超えるアドレス、約1億1,400万ドル規模に拡大した可能性が報告されている。
●事件直後、ビットコインの日次アクティブアドレス数は約64万5,000から100万近くまで急増した。ただし、新規利用者や決済需要が増えたのではなく、既存保有者が安全性への不安から資産を移動させた可能性が高い。
●7月31日には、10BTC未満の取引所入金量が7,300BTCまで増加。1BTC未満の小口送金量も3万9,600BTCに達し、FTX破綻直後に近い水準となった。
●2022年のFTX破綻時には「取引所から自己管理ウォレットへ」資金が移動したが、今回は「自己管理ウォレットから取引所へ」という反対方向の資金移動が起きた。
2026年7月末、ビットコイン専用ハードウェアウォレット「Coldcard」の過去のファームウェアに関連する深刻なセキュリティ問題が明らかになりました。問題となったのは、秘密鍵の生成に必要な乱数の品質です。
2021年3月に公開されたファームウェアの一部では、本来利用されるべきハードウェア乱数生成器ではなく、予測可能性のあるソフトウェアベースの乱数生成処理が使用される場合がありました。これにより、特定の条件で生成されたシードの候補範囲が狭まり、攻撃者が端末に触れることなく、秘密鍵をオフラインで再現できる可能性が生じたと報告されています。
7月30日に確認された最初の攻撃では、わずか41分間に1,196アドレスから約1,083BTCが移動しました。その後、より小さな残高を対象とした攻撃が複数回確認され、8月2日時点では3回の攻撃を通じて4,585アドレス、1,367BTC、約8,900万ドル相当の被害が観測されていました。
さらに8月3日には、第4波とみられる資金移動も報告されています。最新の推計では、被害は5,200を超えるアドレス、約1,816BTC、約1億1,400万ドル相当に拡大した可能性があります。ただし、オンチェーン上で確認された一連の送金がすべて同一の脆弱性や同一の攻撃者によるものかについては、現時点で完全には確定していません。
今回の事件で注目すべきなのは、被害額だけではありません。オンチェーンデータには、ハードウェアウォレットへの不安が、幅広いビットコイン保有者の行動を変えたことが表れています。
アクティブアドレスは約100万まで急増

事件直後、ビットコインの日次アクティブアドレス数は、7月30日の約64万5,000から、7月31日には100万近くまで急増しました。これは2024年12月10日以来の高水準です。
一般にアクティブアドレス数の増加は、ビットコインの利用拡大や市場参加者の増加を示す材料として捉えられることがあります。しかし、今回の増加をそのまま強気材料と評価することはできません。
CryptoQuantの分析によると、増加の中心となったのは、ビットコインを送った側のアドレスでした。受け取った側のアドレス数は、送金側ほど大きく増えていません。
仮に新規利用者の参入や決済需要の拡大によってネットワークが活発化したのであれば、送金側と受取側の双方で、ある程度同じ方向の増加が確認されるはずです。
しかし今回は、送金側に増加が偏っていました。この非対称性は、新しい投資家が大量に参加したというより、既存の保有者が保有資産を別のウォレットや取引所へ移した可能性を示しています。
つまり、表面的にはネットワーク活動が活発になったように見えても、実態は「投資のための取引」ではなく、「資産を守るための防御的な送金」だった可能性が高いのです。
「自分も対象かもしれない」という不安
技術的には、すべてのColdcard利用者や、すべてのハードウェアウォレットが今回の問題の影響を受けるわけではありません。影響の有無は、シードを生成した時期、利用していた機種やファームウェア、外部から追加の乱数を加えたか、パスフレーズを利用していたかなど、複数の条件によって異なります。
しかし、多くの利用者が数年前にシードを生成した際の環境を正確に記憶しているとは限りません。自分のシードがどのファームウェアで生成されたのか、別の端末から読み込んだものなのか、追加のセキュリティ対策を行っていたのかを、すぐに判断できない人もいます。
さらに、ファームウェアを最新版へ更新するだけでは、過去に弱い乱数で生成されたシード自体の問題は解消されません。対象となる可能性がある場合は、安全な環境で新しいシードを生成し、資産を新しいアドレスへ移動させる必要があります。
そのため、「被害を受けてから動く」のではなく、「対象ではないと確認できるまで、念のため資産を移す」という行動が広がったと考えられます。
小口保有者の送金量がFTX破綻時に迫る
今回の資金移動が一部のクジラだけによるものではなかったことは、小口送金のデータからも確認できます。7月31日、10BTC未満の取引による取引所への入金量は7,300BTCに達しました。これは2026年2月6日以来の高水準です。
また、1BTC未満の送金を合計した取引量は3万9,600BTCまで増加しました。この数字は、FTXが破綻申請を行った直後の2022年11月16日に記録した3万9,900BTCに迫る水準です。
取引所への純流入も7月31日に1万1,163BTCへ増加し、Binance、Kraken、OKX、Riverなどへの資金移動が確認されました。中央集権型取引所に関連するウォレットのBTC残高も、事件前の約270万3,837BTCから約271万5,000BTCへ増えています。
こうしたデータを総合すると、機関投資家や大口保有者だけではなく、多数の比較的小規模な保有者が事件に反応し、資金を移動させた可能性が高いと考えられます。
ただし、小口送金量が増えたことだけで、移動したすべての資金がColdcard利用者のものだったと断定することはできません。事件と同じタイミングで市場変動や通常の資金移動も発生しているためです。
それでも、アクティブアドレス、小口送金、取引所入金、取引所残高が同時に増加したことは、事件が市場参加者の行動に広く影響した可能性を補強しています。
FTX破綻時とは反対の資金フロー
今回の動きを理解するうえで重要なのが、2022年のFTX破綻時との違いです。FTX破綻時には、取引所の経営状態や顧客資産の管理に対する信用が崩れました。投資家は出金停止や取引所破綻を恐れ、ビットコインを取引所から自己管理ウォレットへ移しました。
当時の資金フローは、「取引所から自己管理へ」という方向でした。
一方、今回の問題は、特定の自己管理ウォレットで生成されたシードに関係しています。そのため、一部の保有者は、新しい安全なシードや保管環境を用意できるまでの一時的な避難先として、取引所やカストディサービスを選んだ可能性があります。
今回の資金フローは、「自己管理から取引所へ」という、FTX破綻時とは反対の方向になりました。これは「取引所の方が自己管理より常に安全」という意味ではありません。今回のリスクの発生源が取引所ではなく、特定のウォレット環境だったため、相対的に安全だと考えられた場所へ資金が移動したにすぎません。
アクティブアドレスの増加だけでは判断できない
今回の事件は、オンチェーン指標を読み解く際の重要な教訓を示しています。アクティブアドレスは、一定期間に送金または受取に利用されたアドレスの数です。実際の利用者数を直接表しているわけではありません。
同じ保有者が複数のアドレスから資金を移動すれば、アクティブアドレスは増加します。また、ネットワークの利用目的が投資や決済なのか、セキュリティ上の資金退避なのかも、この指標単独では判断できません。
したがって、アクティブアドレスの増加を評価する際には、送金側と受取側の内訳、小口・大口別の送金量、取引所への流入、取引所残高などを組み合わせて確認する必要があります。
今回は、送金側アドレスの増加、小口送金の急増、取引所への純流入、取引所残高の増加が同時に確認されました。
これらを総合すると、今回のアクティブアドレス急増は、ビットコインの利用拡大ではなく、安全性への不安から生じた防御的な資金移動と解釈する方がデータと整合的です。
エックスウィンの見解
エックスウィンでは、今回のアクティブアドレス急増を、ネットワーク需要の拡大を示す強気シグナルとは考えていません。今回の事件は、特定の技術的問題が情報の不確実性を通じて市場心理へ波及し、多数の保有者による資金再配置につながった事例です。
同時に、「取引所か自己管理か」という単純な二者択一だけでは、暗号資産の保管リスクを十分に捉えられないことも示しました。取引所には信用リスクや出金停止リスクがあります。自己管理には、秘密鍵の紛失、シード生成、バックアップ、端末、ファームウェア、運用ミスなどのリスクがあります。
重要なのは、どちらか一方を無条件に安全と考えることではありません。保有額や利用目的に応じて、保管方法を分散し、特定の端末やサービスにリスクを集中させないことが必要です。
今回、ブロックチェーン上に表れたのは、単なる取引量の増加ではありません。「自分のビットコインは本当に安全なのか」という保有者の不安と、その不安を受けて行われた防御的な行動です。オンチェーン分析では、数字の増減だけを見るのではなく、その背後で誰が、なぜ、どこへ資金を移したのかまで考える必要があります。
今回のColdcard事件は、その重要性を改めて示した事例だと考えています。
ショート動画
Coldcard事件でビットコインが大量移動──アクティブアドレス急増の真相
https://youtube.com/shorts/n4ItmhM74Ug


