CLARITY法案、運命の4週間へ。アメリカはオンチェーン金融を選ぶのか【サンフランシスコ レポート】

エックスウィン アメリカマーケットリサーチアナリストのデリア・ロホです。

サンフランシスコから、現在アメリカの暗号資産業界で最も重要な政策テーマとなっているCLARITY法案の最新動向をお伝えします。

私はこれまで何度かCLARITY法案についてお伝えしてきましたが、現在はいよいよ最終局面に入りつつあります。

ワシントンでは今、「この夏が最後のチャンスになるかもしれない」という見方が急速に広がっています。

その理由は、上院が7月13日に再開し、8月上旬の夏季休会まで実質4週間しか審議時間が残されていないためです。

もしこの期間内に法案が大きく前進しなければ、その後は中間選挙へ向けた政治日程が本格化し、さらに2028年の大統領選挙も視野に入ってきます。そうなると、大型の市場構造改革法案を成立させる政治的な余力は一気に小さくなります。

そのため市場では、「もし8月までに方向性が固まらなければ、次の本格的な成立機会は2030年前後になる可能性もある」という見方まで出始めています。

もちろん、これは法律上の期限ではありません。

しかし、ワシントンの政治スケジュールを考えると、決して大げさな話ではないと私は感じています。

CLARITY法案とは何を目指しているのか

CLARITY法案は、アメリカの暗号資産市場全体のルールを整理する包括的な市場構造法案です。

これまでアメリカでは、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の管轄が曖昧なまま、多くの企業が「自社のトークンは証券なのか、それとも商品なのか」という不確実性の中で事業を行ってきました。

CLARITY法案は、その曖昧さを解消しようとしています。

法案では、デジタル商品の定義、トークンの分類、取引所やブローカーの登録制度、開示義務、顧客資産保護、AML(マネーロンダリング対策)、Bank Secrecy Actへの対応、さらには破産時の顧客資産の扱いまで幅広く整理されています。

私はこの法案を、「暗号資産版の金融インフラ基本法」と考えています。

単にビットコインやイーサリアムを規制する法律ではなく、今後10年以上にわたるアメリカのデジタル金融の基盤を設計する法律だからです。

「分散化」を法制度へ取り込もうとしている

今回の法案で特に注目しているのが、「Ancillary Asset(補助的資産)」という考え方です。

従来の証券法では、トークンは発行者や開発者の努力によって価値が生まれる限り、証券と判断される可能性がありました。

しかしCLARITY法案では、ネットワークが成熟し、十分に分散化が進めば、そのトークンの性質も変化するという考え方を取り入れています。

つまり、プロジェクトは時間とともに進化し、ネットワークの支配構造も変わるという現実を法制度が認め始めているのです。

私は、この考え方は非常に画期的だと思います。

DeFiへの考え方も大きく変わり始めた

私が最も注目しているのは、DeFiへのアプローチです。

下院版ではすでに、ノード運営者、バリデーター、オラクル提供者、ウォレット開発者、プロトコル開発者、流動性提供者などについて、金融仲介業者として扱わない方向性が示されていました。

そして上院版ではさらに一歩進み、「Non-Decentralized Finance Trading Protocol」という考え方が導入されています。

これは、「DeFiと名乗っていても、実際には誰かが支配しているのであれば規制対象になる」という考え方です。

逆に、本当に分散化されているのであれば、従来型金融機関と同じ規制を適用することは適切ではないという方向へ議論が進んでいます。

つまり現在アメリカが議論しているのは、「DeFiを規制するか」ではありません。

「本当に分散化されたDeFiとは何か」を制度として定義しようとしているのです。

これは今後、世界中のDeFiプロジェクトにも大きな影響を与える可能性があります。

開発者と自己保管を守ろうとしている

今回の上院版では、

・Protecting Software Developers

・Blockchain Regulatory Certainty Act(Section604)

・Keep Your Coins Act

なども追加されています。

私はここにも大きな意味があると考えています。

アメリカは、「コードを書くこと」と「金融サービスを提供すること」を明確に分けようとしています。

つまり、ソフトウェア開発そのものを規制対象とするのではなく、実際に金融サービスを提供している主体を規制しようという考え方です。

さらに、自己保管(Self-Custody)の権利についても保護が盛り込まれています。

利用者が自分自身のウォレットで資産を管理することは、ビットコイン誕生以来の基本思想です。

今回の法案は、その考え方を法制度の中へ組み込もうとしているように見えます。

ここから先は政治との戦いになる

法案の内容を見る限り、ここまでの進展は非常に大きいと思います。

しかし、今後は内容以上に政治が重要になります。

最初の山場は、7月13日に再開される上院本会議です。

ただし、再開後すぐにCLARITY法案が審議されるわけではありません。

最初の週は国防権限法(NDAA)が本会議日程の中心となり、さらにFarm BillやFISA関連法案など、優先順位の高い案件も控えています。

そのため、CLARITY法案が本格的に議論されるタイミングは、早ければ7月20日の週になるという見方が有力です。

そして最大の関門となるのが、上院で必要となる60票です。

共和党は現在53議席を保有していますが、本会議で審議を前へ進めるためには民主党から少なくとも7人程度の賛成を得る必要があります。

つまり、共和党だけでは法案を成立させることはできません。

現在、民主党との調整で特に難航しているのが二つの論点です。

一つ目は倫理条項です。

民主党は、トランプ大統領一族が関係する暗号資産ビジネスについて利益相反を防ぐ規定を求めていますが、ホワイトハウス側は特定個人を対象とした条文には反対しています。

もう一つはSection604です。

この条項では、資産を預からない開発者、ウォレット提供者、ノード運営者、バリデーターなどを送金業者向け規制から除外する内容が盛り込まれています。

暗号資産業界は「イノベーションを守るために必要だ」と主張しています。

一方で、法執行機関や犯罪対策団体は「AMLや犯罪捜査に支障が出る可能性がある」と懸念しており、この調整が続いています。

私は、このSection604こそ今回の法案を象徴する条文だと思っています。

ここでは、「コードを書くこと」と「金融サービスを提供すること」をどのように法的に区別するのかという、DeFi時代ならではの新しいルール作りが行われているからです。

上院可決後も、まだ3つのハードルが残る

仮に上院で60票を確保し、本会議を通過したとしても、それで終わりではありません。

次に待っているのは下院との調整です。

下院はすでに2025年に独自のCLARITY法案を可決しているため、上院版との違いを調整し、最終的に一本化する必要があります。

さらに現在の下院では、SAVE Actを巡る議事運営の混乱も続いています。

議会運営そのものが停滞する場面もあり、CLARITY法案もその影響を受ける可能性があります。

最終的な流れとしては、

まず上院本会議で60票を確保できるか。

その後、上下院で条文を一本化できるか。

そして下院が最終承認を行い、大統領署名まで到達できるか。

この3つのステップを乗り越えて、初めてCLARITY法案は成立します。

トランプ大統領は暗号資産政策に前向きな姿勢を示しているため、議会を通過すれば署名段階が大きな障害になる可能性は低いと見られています。

今後数週間が歴史の分岐点になる

私は、CLARITY法案は単なる暗号資産規制法ではないと思っています。

これは、アメリカがブロックチェーン、ステーブルコイン、DeFi、自己保管、そしてオンチェーン金融を、正式な金融インフラとして受け入れるのかを決める歴史的な法案です。

だからこそ、今後数週間は極めて重要になります。

ワシントンでは現在、法案そのものだけでなく、政治、選挙、金融業界、暗号資産業界、それぞれの思惑が複雑に交錯しています。

その中で、CLARITY法案がどのような形で前進するのか。

私は今後もサンフランシスコから、現地の空気感とともに、その動きを追い続けていきたいと思います。

▶参考情報:サンフランシスコより(Xスペース)

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