トークン化預金かステーブルコインか──Partiorが描く次世代決済インフラの姿【接続される金融】

シンガポールを拠点とし、JPモルガンやDBS銀行、シンガポールの政府系投資会社Temasek(テマセク)などが出資する「Partior(パルティア)」。リアルタイム決済の効率化を目指す同社は、ディーカレットDCPとトークン化預金を使ったFX(外国為替)の24時間即時決済に向けた共同検討を進めている。

アクセンチュアと共同開催した招待制セミナー「Tokenizationがもたらす金融ビジネスの再定義」では、トークン化をめぐる競争が「発行」から「接続」へと移りつつあるとの認識が示された。そうした中で、グローバルな送金ネットワークを持つPartiorは、どのような役割を担おうとしているのか。

ブロックチェーンが変える決済の未来、トークン化預金の優位性、日本市場や日本円の現状について、同社創業期からのメンバーの一人であり、セールス責任者(Head of Client Solutions and Sales)のAbhinav Goel(アビナブ・ゴエル)氏に聞いた。

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資産に依存しない「中立なインフラ」

──グローバルでステーブルコインの時価総額が拡大する一方で、トークン化預金も拡大している。Partiorはどのセグメントをターゲットにしているのか。

ゴエル氏:Partiorは、銀行が使用したいアセットに対して中立的だ。PartiorはMAS(シンガポール金融管理局)主導の「Project Ubin」から生まれ、ブロックチェーン技術を使ってB2B決済、外国為替決済、証券決済といったホールセール決済の非効率を解消することを目的としている。

Partiorの本質は、銀行間でリアルタイム決済を行うためのShared Ledger Infrastructure(共有台帳インフラ)を提供することにある。

当初は、Tokenized Deposits(トークン化預金)への関心が中心だったが、現在は新興市場を中心に、ステーブルコインへのニーズも高まっている。我々は、トークン化預金とステーブルコインが混在することになると見ている。

Partiorとしては、どちらのユースケースにも対応できるインフラを提供する。

──昨年9月、ディーカレットDCPやSBI新生銀行とトークン化預金での外貨取引の検討に着手した。狙いは。

ゴエル氏:4年前のPartior創業時は「ネットワークは1つで十分」と考えていた。しかし、実際にはユースケースごとに複数のネットワークが存在している。ディーカレットDCPが日本で進めているデジタル通貨「DCJPY」の構想を知り、日本市場とグローバル市場を接続するシナジーを感じた。

我々の狙いは、銀行が複数のネットワークに個別に参加する必要をなくすことだ。日本の銀行が、DCJPYのネットワークに接続すればPartiorも利用でき、Partior側の銀行は、DCJPYを利用できるようにしたいと考えている。

──商用化に向けた課題はどこにあるのか。

ゴエル氏:課題は、世界共通だ。銀行はトークン化預金に関心を持っているが、社内システムの整備が必要になる。リアルタイム処理ができない銀行も多く、24時間365日対応のためのシステム刷新が求められる。

また、ブロックチェーン技術に精通したテクニカル人材も不足している。だからこそ、ディーカレットDCPの存在は重要で、日本の銀行がPartiorに接続するための技術支援を提供できる。

トークン化預金の優位性とは

──グローバルではステーブルコインの利用が進んでいる。トークン化預金の優位性はどこにあるのか。

ゴエル氏:決定的な違いは、トークン化預金は銀行のバランスシートに影響を与えないことだ。ステーブルコインは銀行の融資能力に影響を及ぼす可能性があるが、トークン化預金なら、銀行は現在のビジネスモデルを維持できる。

また、ユーザーの信頼も重要だ。人々は銀行に預けられたお金を信頼しており、トークン化預金であれば、利息も付く。米国のGenius Act(ジーニアス法)や欧州のMiCA(暗号資産市場規制)では、ステーブルコインに利息を付与できないが、トークン化預金なら現在と同様に利息を付けることができる。

さらに、トークン化預金はすべてオンチェーンで完結し、ステーブルコインで発生する法定通貨との交換(オンランプ/オフランプ)は不要で、シームレスな体験を提供できる。

ただし、両者は競合ではなく共存すると考えている。ユーザーは裏側で何が使われているかを意識しないようになるだろう。

5年後の主役は?

──日本市場や日本円について、現状をどう評価しているか。

ゴエル氏:私は経済学者ではなく技術者だが、日本円の利回りが上昇していること、キャリートレードが巻き戻されていることは明確に見て取れる。全体として日本円を保持しようとする動きがある。

ユースケースとしては、日本への送金が挙げられる。ブラジルには大きな日本人コミュニティがあり、日本への送金は現在でも最低2日かかる。同様の話はカナダでも聞く。この分野に明確なニーズがある。

また、日本の銀行は法人顧客向けにリアルタイム決済を提供しようとしているが、グローバル大手はすでに実施している。日本の銀行も競争上、対応が必要になるだろう。

──5年後、クロスボーダー決済の主役はトークン化預金かステーブルコインか。

ゴエル氏:どちらか一方ではなく、共存するだろう。それぞれのユースケースや地域に応じて使われることになるはずだ。その際、ユーザーは裏側の仕組み、つまり、トークン化預金かステーブルコインかを意識しなくなる。

将来的には、どのアセットを使うかをシステムが自動的に判断し、最適なルートで資金を移動できるようになる。いわば最適な資金経路を自動で選択する「インテリジェントルーティング」だ。

つまり、トークン化預金とステーブルコインはどちらも存在し続けるだろう。

トークン化預金「DCJPY」の今がわかる「接続される金融」シリーズ記事は以下

トークン化預金は「接続」の段階へ──ディーカレットDCPが海外連携を強調【接続される金融】
デジタル通貨「DCJPY」のエコシステム拡大へ──ディーカレットDCP、世界のトークン化資産との連携狙う【接続される金融】
ディーカレットDCP、Partior接続でクロスボーダー展開へ──トークン化預金ネットワーク接続を視野に、段階的に始動【接続される金融】(ディーカレットDCP 金籠氏インタビュー)
▶トークン化預金かステーブルコインか──Partiorが描く次世代決済インフラの姿【接続される金融】(Partior インタビュー)※当記事
▶Ondo FinanceのKunaal Patel氏インタビュー(後日公開予定)

|インタビュー:橋本祐樹
|文:増田隆幸

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