祝日なので、昨日に続いて、編集長コラムをもう1本。
今回は、USDCをめぐって先週伝えた2つのニュースから、ステーブルコインの普及について考えてみたい。
1つは企業向け。Circle(サークル)はSAP系企業と連携し、米ドル建てステーブルコイン「USDC」とユーロ建ての「EURC」をSAPのクラウドERPに組み込む。
もう1つは個人向け。サムスンは、米国の対象Galaxy端末約8200万台で、Samsung WalletからUSDCを使った国際送金を可能にする。
企業ではERP。個人ではスマートフォン。
ステーブルコインが、いよいよ「暗号資産の世界」から、企業の日常業務や私たちの生活の中に入り始めたように思う。
専用アプリを開かなくていい
SAPの話で興味深いことは、企業の財務担当者がステーブルコインを使うために、今の業務フローを離れて暗号資産取引所や専用ウォレットを操作する必要がないことだ。普段使っている業務システムから、USDCやEURCを送受信できる。
用途として挙げられているのは、海外の仕入先への支払い、グループ会社間の資金移動、売掛金や買掛金の決済など、ごく普通の企業財務だ。
しかも、承認、権限管理、入出金の照合といった、企業が日常的に行っている業務フローにも対応するという。
「ステーブルコインを使うために、新しい仕事のやり方を覚えてください」ではない。
今までの仕事の中に、ステーブルコインが入ってくる。
Galaxyでは、ブロックチェーンすら意識しない
Samsung Walletも似ている。
米国のGalaxy利用者は、Samsung WalletからUSDCを海外の対応ウォレットへ送り、さらに60カ国を超える銀行口座への国際送金にも使えるようになるという。
裏側ではSolana(ソラナ)やSui(スイ)が使われる。だが、一般の利用者にとって重要なのは、どのブロックチェーンを使っているかではないだろう。
Samsung Walletを開く。送り先を選ぶ。送金する──。おそらく、それだけで済むだろう。
「USDCを送った」という意識すら、将来的には薄くなっていくのかもしれない。
ステーブルコインが普及するとは?
ステーブルコインの普及というと、これまでは「何人がウォレットを持つか」「どこでステーブルコイン決済ができるか」といった話になりがちだった。もちろん、それも重要だ。
NADA NEWSも、コンビニでのステーブルコイン決済や、ウォレットが既存の決済アプリに組み込まれたニュースを伝えている。
だがSAPとSamsungのニュースは、さらに一歩進んでいる。
企業では会計や調達、資金管理に使っているERP(統合基幹業務システム)に、個人では毎日持ち歩いているスマートフォンに。一部の詳しい人だけが使う専用サービスではなく、企業や個人がすでに使っている場所に、ステーブルコインが入り込む。
マスアダプションとは、多くの人が「今日はステーブルコインを使おう」と思うことではなく、いつの間にか普段使っているサービスの中で使われている状態を指すのだろう。
「暗号資産サービス」は必要なくなる?
そう考えると、少し意地悪な問いも浮かぶ。
ステーブルコインが本当に普及したとき、「ステーブルコイン専用のサービス」はどこまで必要なのだろうか。
企業はSAPから使う。個人はSamsung Walletから使う。買い物では既存の決済アプリに組み込まれる。国際送金では相手の銀行口座まで届く。
利用者にとっては、ステーブルコインをどう使うかよりも、「いつもの場所から使えるのか」の方が重要になる。
以前、ブロックチェーンゲームについて、「ブロックチェーンゲーム」という言葉が消えた先に何が残るのか、と書いた。
ステーブルコインでも、同じことが起きるのかもしれない。普及するとは、存在感が大きくなることではなく、逆に存在を意識しなくなることなのかもしれない。
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|文:増田隆幸
|画像:生成AIで作成


