AIに7割向かうVC資金、ブロックチェーンは順番を待つ【記者コラム】

先日、海外に拠点を持つベンチャーキャピタル(VC)で、新規事業開発を担う担当者に会った。

投資するだけでなく、自ら事業を立ち上げる「ベンチャービルダー」を名乗る部門だ。

数年前まで、日本のアニメや漫画の権利をブロックチェーン上で管理し、海外に流通させる構想の中心にいた人物だ。

ところが、席に着いて最初に聞かされたのはAIエージェントの話だった。約2000社にのぼる投資先(ポートフォリオ)の一社ごとに、海外の大企業と組める機会を探す。

情報を探す役、分析する役、結果を点検する役と仕事を分けた数千体のAIエージェントが、本来はVCのアナリストが担うこの仕事を肩代わりしているという。

ブロックチェーンの構想はどうなったのか。尋ねると、答えは短かった。

「AIの波が来て、ここ(IPの流通構想)に一点張りすると、やっぱりVCなので『お金はどうなの』となる」

AIに軸足を移した「VCの論理」

もともとはエンタメ業界の出身で、その後VCの世界に移った。

権利を持つ側にいたからこそ、眠っているアニメや漫画の著作権を流通させる構想には意味があったと話す。

ただ、構想が行き詰まった理由は技術ではなかった。最大の壁は日本の権利者との交渉だったと振り返る。

そこにAIの波が来た。AIを使えば、さまざまな業種向けのサービスを作れてしまう。

一つの構想にすべてを賭けず、賭ける先を分ける。「VCなので」という言葉には、そんな意味が込められていた。

最初に選んだのは、自分たちのVC業務そのものだった。お金のやり取りを伴わないので、失敗しても損失が小さく、気軽に試せるからだと話す。

投資額は回復、お金は成熟した金融事業へ

AIにベットする判断は、業界全体のお金の流れとも重なる。

暗号資産(仮想通貨)投資会社ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)が9月に公開した集計を見てみる。

2026年4〜6月期に、VCが暗号資産・ブロックチェーン企業に投じた資金は56億8300万ドル(約9000億円、1ドル=158円換算)だった。前の3カ月から31%増え、案件数は384件にのぼった。

Infographic line-and-bar chart titled 'Crypto VC Capital Invested & Deal Count'; blue bars show capital invested, black line shows deal count; data spans 2016–2020 (monthly/quarterly intervals); source: Galaxy Research.
Galaxy Researchから

このペースが続けば、2026年通年は約200億ドル(約3兆1600億円)になると同社は試算している。相場が低迷した2023〜2024年の多くの時期を上回る。

VCのお金が、この分野から逃げ出しているわけではない。変わったのは、お金の行き先だ。

同社によると、4〜6月期の資金の約8割は、事業が軌道に乗った成長後期(後期ステージ)の企業に向かった。創業前後のごく初期の段階(シード、プレシード)への投資は7%にとどまった。

Line and stacked bar chart of crypto VC funding by stage (pre-seed to later stages) from 2016 to 2028; includes percentage lines for all later stages and later stages.
Galaxy Researchから

分野別では、暗号資産の取引所や、投資、貸し借り(レンディング)を手がける企業が約35億2300万ドル(約5500億円)を集め、全体の6割近くを占めた。

一方、VCのお金全体を見ると、暗号資産とは別の場所で、桁違いの規模の資金が動いている。そう、AIだ。

米調査会社クランチベース(Crunchbase)によると、2026年上半期の世界のスタートアップ投資は過去最高の5100億ドル(約80兆5800億円)に達した。特に4〜6月期は、その7割超がAI企業に向かった。

Bar chart of AI funding by quarter from Q1 2023 to Q2 2026, ending with a sharp spike to 7B in Q2 2026.
Crunchbaseから

集計元が異なるため単純には比べられないが、暗号資産・ブロックチェーン企業への上半期の投資額約100億ドル(ギャラクシーの集計)を、世界全体の5100億ドル(クランチベースの集計)と比べると、2%ほどにとどまる。

国内も構図は似ている。

国内スタートアップ資金調達額上位20社(2026年上半期)を示す表。企業名・事業内容・調達額・評価額などの列がある黒背景の見出し付き表です。
Speeda 総額増の裏で深まる選別―2026年上半期スタートアップ資金調達動向から

スピーダがまとめた2026年上半期の国内スタートアップの調達額上位20社のうち、ブロックチェーンを主な事業とするのは、日本円建てステーブルコインを発行するJPYC(49億3000万円、10位)の1社だけだった。

数字を並べてみると、冒頭のVCの判断と同じ優先順位が見えてくる。

世界では取引所やレンディング、国内ではステーブルコインといった金融の事業に、まずお金が集まる。結果が見えにくい新しい試みは後回しになる。そして全体のお金は、AIに大きく振り向けられている。

ブロックチェーンへの投資は、消えたのでも戻ったのでもない。VCの中で、順番が入れ替わったのだと筆者は考える。

ブロックチェーンは「順番待ち」の列に並ぶ

話を聞いた相手も、ブロックチェーンを手放したわけではない。

同氏は7月、京都で開かれたIVSで、AIエージェント基盤の構想を発表した。そこにはブロックチェーンを使う想定も盛り込まれていた。

公開前の技術情報や実証実験の結果など、外に出せない情報を相手ごとに見せる範囲を選んで渡せる(選択的開示)タイプのブロックチェーンだ。いまは搭載していない。「そこまでアーリー(初期)の段階では必要ないと分かった」からだという。

基盤の目的は、日本のスタートアップや研究者を、海外の投資家や事業会社とつなぐことにある。つなぐ相手を探し始めたばかりの段階では、見せる範囲を細かく選ぶ必要はまだない。

相手が絞られ、話が具体的になると事情が変わる。関心を引くために一部は見せたいが、すべては明かしたくない情報が出てくるからだ。

ブロックチェーンを必要とする場面は「いつか出てくる」とも話した。

AIエージェント同士が条件を交渉し、最後はステーブルコインで支払いまで済ませる。そこまでを見すえた構想だ。

「ビジネスケースファースト。AIは必然で、ブロックチェーンは必要なときに使う」

同氏はこう言い、テクノロジーが前に出てはいけない、と付け加えた。

取材を通じて見えてきたのは、VCがブロックチェーンや暗号資産の分野そのものを見限ったのではなく、「いま必要とされているか」「お金になるか」で順番を決めているということだ。

ブロックチェーンは、VCの優先リストから消えたわけではない。順番待ちの列に、並び直している。

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|文:栃山直樹
|画像:生成AIで作成

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