8月26日、ブロックチェーン開発企業スタークウェアは、ビットコインで初の量子耐性取引が成立したと発表した。
翌27日、ビットコインは一時8万ドルを回復している。数日前から続いていた上昇の途中で、量子をめぐる話題が値動きに影を落とした様子はない。
「ビットコインが量子コンピューターに破られる」。この種の報道は2026年に入って何度もあった。
ならば、そのたびに相場はどう動いていたのか。
年初からのニュースを、価格と並べて振り返ってみる。
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口火を切ったのは1月17日、米証券大手ジェフリーズだった。
株式戦略の責任者が、量子技術の進展を理由に、モデルポートフォリオから10%分のビットコインを外し、金と金鉱株に振り替えた。だが相場に反応は見られなかった。
2月6日にはコインシェアーズが、古い形式のウォレットにあって量子に狙われうるビットコインは約160万枚、うち攻撃する価値のあるまとまった量はわずか1万BTC程度にとどまると推定した。
同月12日には、量子に弱いとされる部分を外す改善提案(BIP-360)の改訂版が公表された。
当時のビットコインは9万ドルから6万6000ドル台へ急落していたが、この下げの原因は量子ではない。
最大の材料が出た3月31日
最も騒がれたのが3月31日である。
GoogleのQuantum AIチームが、ビットコインの暗号解読は「想定よりも容易」だとするホワイトペーパーを公開した。
暗号を破るのに必要な量子ビット(量子計算の最小単位)は、従来「数百万個」とされてきたが、50万個未満で足りる可能性があるという。
公開鍵が露出したビットコインは約680万BTCに上ると推定した。コインシェアーズの1万BTCとは、680倍の開きがある。
この1年で最大の売り材料になってもおかしくなかった。
では相場はどうだったかー。
31日のCoinDeskによると、ビットコインは6万8000ドル超から6万6250ドルへ、2%あまり下げただけだった。
しかもこの日は、イランを巡る地政学リスクも重なっている。暗号が破られうるという論文に対して、市場の反応は”その程度”だった。
唯一「量子で下げた」と語られるのは、2024年12月のGoogleの量子チップ「Willow(ウィロー)」発表時の下落だ。
ビットコインは4%超下げた。ただしCoinDeskは当時、量子への不安が原因かどうかは分からないとしている。
過熱していた相場が冷え、過剰なレバレッジをかけたアルトコイン取引の清算局面でもあった。
そして1週間後の12月16日、ビットコインは史上最高値(当時)を更新している。
「動かない理由」とは
理由はそれほど複雑ではないように思う。
いつ起きるのか、どこまで被害が及ぶのか。どちらも、外から眺めているかぎりピンとこない。
時期の予測は2029年から2040年代まで散らばり、危ないビットコインの量も160万枚から680万枚まで、推計によって開きがある。
3月の論文を受けて、シンガポールの投資会社QCPキャピタルは、これは長期の課題であって、いま相場を動かす材料ではないと述べている。
正直なところ、筆者も量子コンピューターに詳しいわけではない。ただ、これだけ数字に開きがあると、身構えようにも構えようがない。売り買いの判断に落とし込める形の脅威には、まだなっていないのだ。
もっとも、業界が静観しているわけではない。
動いているのは価格ではなく開発の現場のほうで、7月にはストラテジーやブラックロックなど9社が、量子対策の開発支援に3年間で1500万ドルの拠出を表明した。
初の量子耐性取引を手がけたスタークウェアのベン=サソンCEOは27日、Xに「備えは程遠い」と書いた。
値動きに手がかりがない以上、量子とビットコインの距離は、こうした言葉から測るほかない。
|文:栃山直樹
|画像:Adobe Stock、文中のチャートは生成AIを活用


