今週、暗号資産市場にとって大きなイベントが控えている。
9月11日(金)、米国の8月消費者物価指数(CPI)が発表される。発表は米東部時間午前8時30分、日本時間では午後9時30分。その前日の10日には8月の生産者物価指数(PPI)も予定されており、今週後半は「米国のインフレ」がビットコイン市場を左右する重要なテーマとなりそうだ。
今回のCPIが特に重要なのは、そのわずか数日後、9月15〜16日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されるからである。市場はいま、FRBが再び利上げに動くのか、それとも金利を据え置くのか、その分岐点に立っている。
予想を大きく上回った米雇用統計
その判断を難しくしたのが、9月4日に発表された8月の米雇用統計だ。
非農業部門雇用者数は前月比16万2,000人増となり、市場予想の5万6,000人程度を大きく上回った。失業率も4.1%で横ばいだった。一方、平均時給は前年比3.1%まで鈍化しており、「雇用は強いものの、賃金インフレまで急加速しているわけではない」という内容だった。
それでも市場は敏感に反応した。米2年債利回りは上昇し、9月FOMCでの利上げを織り込む確率も高まった。Reutersによると、強い雇用統計を受けて利上げ確率は約6割まで上昇した。株式市場も下落し、ビットコインにも売りが出た。
つまり市場の次の問いは明確である。「雇用がこれだけ強いなかで、インフレも再び強くなっているのか」である。
「強い雇用+強いインフレ」ならBTCには逆風
7月の米CPIは前月比0.1%、前年比3.4%上昇。食品とエネルギーを除くコアCPIは前月比0.2%、前年比2.5%だった。
ここから8月CPIが再び上振れれば、
強い雇用
+ 強いインフレ
= FRBが金融引き締めを続けやすい環境
となる。
米国債利回りの上昇やドル高につながれば、株式やビットコインなどリスク資産には短期的な逆風となりやすい。
反対に、
強い雇用
+ インフレ鈍化
となれば、景気を維持しながら物価上昇が落ち着く、いわゆるソフトランディングに近い状態になる。こちらは株式市場だけでなく、ビットコインにとっても比較的好ましいシナリオである。
雇用統計とオンチェーンデータをどう結びつけるか
ここでもう一つ重要なのが、オンチェーンデータである。雇用統計やCPIとオンチェーンデータが直接連動するわけではない。
しかし、マクロ経済のニュースを受けて、実際の暗号資産投資家がどう行動したのかを確認できるのがオンチェーン分析の大きな強みだ。
流れとしては、
雇用統計・CPI
↓
FRBの金融政策期待
↓
米国債利回り・ドル
↓
投資家心理
↓
BTCの取引所への入出金
となる。

例えば、強い雇用やCPI上振れによって金利上昇への警戒が高まったとき、BTCのExchange Inflowが増えれば、投資家がBTCを取引所へ移動させていることになる。
CryptoQuantでは、Exchange Inflowは取引所へ送られたBTC量を示し、Exchange Netflowがプラスになれば取引所への流入が流出を上回っている状態を意味する。現物取引所では、一般的に潜在的な売却圧力の増加として注目される。
さらに注目したいのがExchange Inflow Meanである。

これは1回の取引で平均何BTCが取引所へ送られているかを見る指標で、数値が急上昇すれば、大口保有者や機関投資家による比較的大きな送金が増えている可能性がある。
つまり、
強い雇用
+ CPI上振れ
+ 米2年債利回り上昇
+ BTC Exchange Inflow増加
まで重なれば、マクロ環境の悪化に加えて、投資家の実際の売却準備まで確認されることになり、短期的な警戒度は高くなる。
反対に、マクロ環境が悪化しているにもかかわらず、BTCの取引所流入が増えず、保有者が動かなければ、「悪材料が出ても投資家はBTCを手放していない」という市場の底堅さを示している可能性がある。
ステーブルコインも重要な確認材料

もう一つ確認したいのが、取引所に存在するステーブルコインだ。CryptoQuantのStablecoin Exchange Reserveは、取引所に保有されるステーブルコイン量を示し、暗号資産を購入するために利用可能な潜在的な買い余力を見る指標の一つである。
例えばCPI発表後にBTC価格が下落しても、
BTCの取引所流入は限定的
+ ステーブルコインの買い余力が維持
されているなら、単純な弱気相場入りではなく、押し目を待つ資金が残っている可能性も考えられる。
だから私は今回、CPIの数字だけを見るのではなく、「その数字を見た投資家が何をしたのか」まで確認することが重要だと考えている。
その先には11月の中間選挙
さらに視野を広げると、その先には11月3日の米中間選挙がある。米下院は全435議席、上院も約3分の1が改選される。現在の米国では、インフレや生活コストが政治的にも大きなテーマになっている。
特に原油高を背景にガソリン価格が上昇しており、Reuters/Ipsosの調査でも生活費への不満が中間選挙を前に有権者の重要な関心事項となっている。ただし、「中間選挙があるからFRBが金融緩和する」と単純に考えるべきではない。FRBは物価安定と雇用を基準に金融政策を判断する。インフレが再び強くなれば、選挙を前にしても金融引き締めを優先する可能性がある。
一方で政治側にとっては、金利、株価、ガソリン価格、生活コストはいずれも有権者心理に直結する。
今秋の米国市場では、
「インフレを抑えたいFRB」
と、
「生活コストや景気を改善したい政治」
という二つの力を同時に見る必要があるだろう。
今週は「数字」より、その後の市場行動に注目
今回のCPIで私が最も注目しているのは、数字だけではない。
見るべき流れは、
CPI
→ 米2年債利回り
→ ドル
→ 株式市場
→ BTC価格
→ BTCの取引所フロー
→ ステーブルコインの動き
である。先週の雇用統計は、「米国経済は予想以上に強い」というメッセージを市場に与えた。今週金曜日のCPIは、その強い経済の中でインフレまで再加速しているのか、それとも物価は落ち着きつつあるのかを確認する重要な指標となる。そして数日後にはFOMC、その約7週間後には米中間選挙が控えている。
今週は、9月から11月にかけてのビットコイン市場を考えるうえで、大きな分岐点になる可能性がある。マクロ指標を見るだけでは十分ではない。そのニュースを受けて、投資家が実際にBTCを売ろうとしているのか。それとも保有を続け、次の買い場を待っているのか。
今週は、価格、金利、ドル、そしてオンチェーンの4つを同時に確認していきたい。
ショート動画
今週の大イベントに注目──強い雇用の次は米CPI、ビットコインは分岐点へ https://youtube.com/shorts/fUJzIfBh3sw


