SEC、暗号資産の新規則案「Regulation Crypto Assets」を公表──2つの登録免除と「投資契約」終了のセーフハーバー【MCB FinTechカタログ通信】

2026年8月18日、米証券取引委員会(SEC)が、暗号資産を対象とする投資契約に合わせた新しい規則案「Regulation Crypto Assets」を公表しました。証券法の登録義務を免除する2つの資金調達枠と、暗号資産が「投資契約」の対象から外れる時点を定めるセーフハーバー、州証券法の適用除外の4つを主要な論点とする提案です。

今回は、規則案を構成する4つの論点を中心に、2026年3月の解釈指針やピアース委員の構想から続く経緯を解説します。あわせて、CLARITY法の審議状況と、7月に成立した日本の改正金融商品取引法との対比についても確認します。

※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。

Howeyテストによる個別判断と、20263月の解釈指針が示した「投資契約」の整理

米国では、暗号資産の発行・販売が証券規制の対象になるかどうかは、1946年の最高裁判決に由来する「Howeyテスト」で個別に判断されてきました。他者の経営努力による利益を期待して共同事業に資金を投じる取引は「投資契約」という証券に該当し、連邦証券法が適用されます。

SECは規則案の中で、この従来の手法の難点を2つ挙げています。1つは、Howeyテストの当てはめ自体が難しいことです。SECはこれまで規則で基準を定めず、個別の摘発や訴訟といった法執行活動(エンフォースメント)で姿勢を示してきました。ウエダ委員(Mark Uyeda)は声明で、確立されていない法解釈が適用され、事業者は摘発事例から自社の扱いを推測するしかなかったと振り返っています。

もう1つは、既存の規則がこうした募集の実態に合っていないことです。アトキンス委員長は声明で、既存の規則はこの資産を念頭に作られておらず、多くは1930年代に由来すると述べています。

株式や債券は性質が時間とともに変わらないため、証券法が適用されるかどうかの判断が後から変わることはありません。一方、暗号資産は、当初は投資契約の対象として販売されても、発行者の開発が完了すれば、後に投資契約とみなされなくなることがありえます。既存の規則はこの変化を想定していないと規則案は指摘しています。

こうした既存の規則が見直されるきっかけとなったのは、アトキンス委員長が2025年7月末に打ち出した証券規則の近代化の取り組み「Project Crypto」です。委員長はスタッフに対し、ICO・エアドロップ・ネットワーク報酬を含む暗号資産取引に合わせた開示・免除・セーフハーバーの立案を指示しました。セーフハーバーとは、定められた条件を満たせば規制違反に問われないことをあらかじめ保証する仕組みです。

これを受けてSECは2026年3月、暗号資産への証券法の適用を整理した解釈指針を公表しました。暗号資産をデジタルコモディティ、デジタルコレクティブル、デジタルツール、ステーブルコイン、デジタル証券の5つに分類し、このうちステーブルコインとデジタル証券を除く3つは、それ自体は証券でないとの見解を示しています。

同時に解釈指針は、証券でない暗号資産も、証券である投資契約の対象として募集・販売されうると整理しました。開発中のトークンを「今後の開発で価値を高める」と約束して売れば、その販売は証券規制の対象になる一方、トークンそのものは証券ではない、という整理です。今回の規則案は、この投資契約に的を絞った新しい免除規則群にあたります。

2つの登録免除と投資契約セーフハーバー、州証券法の適用除外の仕組み

1つ目の論点である「スタートアップ免除(startup exemption)」は、証券法の登録義務からの免除です。規則案では、SECへの利用届出から最長4年間、累計500万ドルまでの募集を認めます(ファクトシート)。同じ暗号資産については1回限りしか使えません。発行者は期間中、投資契約や暗号資産に関する開示を無償のウェブサイトに掲示し続け、期間の終了までに移行報告書を提出します。

このスタートアップ免除が対象とする取引は、通常の募集に限られません。規則案の条文は、エアドロップや、ネットワークの運営・ガバナンス・セキュリティ確保への報酬としてのトークン配布も対象に含めています。Project Cryptoでの委員長の指示が、そのまま条文に反映された形です。発行者は法人に限られず個人やグループでも利用でき、免除に依拠しても詐欺禁止・相場操縦禁止の規定は適用され続けます。

2つ目の「資金調達免除(fundraising exemption)」は、小規模な公募制度であるRegulation Aをモデルにした2層構造の案です。12ヶ月間で2,000万ドルまでのTier 1と、7,500万ドルまでのTier 2に分かれ、販売前に募集書類のSECによる審査を受ける必要があります。

2つの層は開示の重さで区別されています。監査済み財務諸表が求められるのはTier 2のみですが、審査を通った発行者には、Tierを問わず年次・半期・臨時の継続報告義務が課されます。また、資産や収入の基準を満たす「適格投資家」でない投資家の購入額は、年収または純資産の大きい方の10%までに制限されます。

このほか、役員・取締役の過半数が米国市民または居住者であることなど、米国内の発行者要件が付くのも資金調達免除のみです。この要件がないスタートアップ免除は、米国外の発行者にも開かれています。

金額や報告の枠組みが2つの免除で異なる一方、開示の中身は共通です。投資契約の条件と発行者が約束した経営努力の進捗、トークンの供給量や生成・焼却の仕組み、ガバナンスなど、暗号資産に固有の10分野で構成され、ソースコードが公開されている場合はそのURLも記載します。このうち経営努力の進捗は、次に述べるセーフハーバーの判定と対になる開示です。

3つ目の「投資契約セーフハーバー」は、規則案の中心にあたります。条件は、発行者がホワイトペーパー等で約束した開発や運営(本質的な経営努力:essential managerial efforts)をすべて完了または恒久的に停止し、新たな約束もしないことです。そのうえで根拠となる分析を付した移行報告書を提出すると、投資契約は消滅したとみなされ、暗号資産は証券の定義上の投資契約の対象から外れます。

この移行報告書は、スタートアップ免除の終了時に提出する書類と同じものです。つまり、免除期間を終える手続きが、そのままセーフハーバーの適用を求める手続きを兼ねています。条文はSECによる個別の審査・承認の手続きを置いておらず、発行者が公開の書類で自ら証明する仕組みです。4年の期間内に経営努力が完了しない場合は、その後の新たな募集にこの免除を使えず、登録か別の免除に依拠することになります。

最後の論点が州証券法の適用除外です。米国には連邦の証券法とは別に州ごとの証券登録制度があり、複数の州にまたがる募集では州ごとの対応が必要でした。規則案は、この規則に基づく募集の買い手を、州が登録・資格審査を上乗せできない連邦法上の区分である「適格購入者(qualified purchaser)」と定義することで、州法の適用を外します。

この適用除外は、発行者・引受人・ディーラー以外が行う流通市場の取引にも及びます。ただし、それは発行者が継続開示を履行している間に限られます。発行者が開示を止めれば、流通しているトークンの取引は再び州ごとの規制の対象になりうるため、開示を続けることがトークンの流通を支える前提になる設計です。

ピアース委員の2020年提案との違い、SECの利用試算とCLARITY法の審議

セーフハーバーの発想自体は新しいものではありません。ピアース委員(Hester Peirce)は2020年2月、開発チームに3年間の猶予期間を与えて証券登録を免除し、期間の終了時にネットワークが分散化または機能する状態に達していれば、以後その取引を証券取引としない「Token Safe Harbor」構想を提案していました。

アトキンス委員長は声明で、今回の提案はピアース委員の構想の実現だと述べています。ただし、判定の基準は変わりました。ピアース委員の構想がネットワークの成熟を証券法の適用除外とする条件としたのに対し、今回の規則案は発行者自身の経営努力の完了・恒久停止を条件に据えています。ネットワークの状態ではなく、発行者の約束が果たされたかどうかで判定する枠組みです。

SECは規則案の中で利用規模の試算も示しています。2024年の募集実績に基づき、2つの免除による募集は年間約130件(スタートアップ免除99件、資金調達免除31件)という推計です。セーフハーバーの利用は、2024年に立ち上がった3,165件の暗号資産プロジェクトの15%が利用すると仮定して年間475件と置き、実際の対象はこの推計より多くなる可能性が高いとも述べています。

議会側の市場構造法案「CLARITY法」は、2025年7月に下院を294対134で通過し、2026年5月に上院銀行委員会を通過しました。8月8日に本会議での討論打ち切りを求める動議が提出されたまま夏季休会に入り、採決は休会明けに持ち越されています。アトキンス委員長は同じ声明の中で、規則を将来の方針転換から守るには立法が不可欠だという立場も示しています。

今回の採決は公開の場を経ていません。規則案を審議する予定だった8月14日の公開会合は連邦官報の告示で中止されました。規則案は8月18日、アトキンス委員長・ピアース委員・ウエダ委員の現任3委員全員の承認で提案されています(SECの採決記録)。記録上、反対票や反対意見はなく、規則案は委員会内で争点になっていません。

考察

今回の規則案の特徴は、新たな資金調達の枠組みにとどまらず、証券規制の適用から外れるための条件と手続きを規則の形で定めた点にあると考えられます。3月の解釈指針は、投資契約が消滅しうるという考え方までは示していましたが、それを判定する手続きはありませんでした。SECの試算も、募集の年130件に対してセーフハーバーの利用を年475件と、適用終了の需要の方を大きく見込んでいます。

このため今回の枠組みは、新規の調達制度である以上に、既に流通している暗号資産の法的地位を確定させる仕組みとして機能する可能性があります。開示の面でも、トークンの経済設計やソースコードまで含む暗号資産固有の開示の型が示されており、最終規則になれば、免除を使わない発行者や米国外の実務にとっても参照点になることが想定されます。

日本でも、同じ論点への制度対応が一足先に法律になっています。2026年7月に成立した改正金融商品取引法は、暗号資産の規制を資金決済法から金商法へ移管し、有価証券とは別の金融商品と位置づけました。そのうえで発行者に、募集・売出し時の情報公表と、臨時・定期の継続的な情報公表を義務づけています。発行者に対する法定の開示義務は、この改正で初めて設けられます。

両制度の出発点は逆方向です。日本は暗号資産を証券とは別の金融商品として金商法の枠内に取り込み、米国は証券法の枠内に置いたまま、投資契約から切り離す仕組みを設けました。それでも、発行者に固有の開示を課したうえで、開示義務を終了させる手続きをあらかじめ用意する発想は共通しています。

ただし、判定の主体と効果の範囲は異なります。日本では、暗号資産の分権化等について内閣総理大臣の承認を受けた発行者が継続的な情報公表義務を免除されるのに対し、SECのセーフハーバーは発行者の自己証明で「投資契約の終了」まで判定します。また、日本の発行者から見れば、米国内の発行者要件がないスタートアップ免除は、将来の米国での小規模調達の選択肢になりえます。

規則案のコメント期間は2026年10月20日までで、最終規則化にはさらに期間を要します。CLARITY法が成立すれば法定の資産分類によって規則の前提が変わるため、規則案と議会立法のどちらが先に確定するかが、米国の暗号資産の資金調達実務を左右することになるでしょう。日本の改正金商法の施行日も公布から1年以内の政令指定日としてこれから定まり、日米の新制度は近い時期に相次いで動き出す可能性があります。

|トップ画像:Adobe Stock

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