【ST最前線】不動産STのその先へ──大和証券・澤氏が描くオンチェーン資本市場

国内初の公募型不動産セキュリティ・トークン(ST)が誕生して約5年。不動産ST市場は着実に拡大を続け、300億円規模の大型案件も登場するなど、新たな成長段階に入った。

一方、市場関係者の視線はすでにその先へ向かい始めている。二次流通市場の整備、ステーブルコインやトークン化預金を活用した決済インフラの構築、さらには株式や国債など対象資産の拡大──。個別の取り組みが一つにつながったとき、資本市場そのものがオンチェーンへ移行する可能性がある。

今年の4月から大和証券グループのデジタルアセットビジネスを担当する澤氏に、不動産ST市場の現在地と、その先に見据える「オンチェーン資本市場」の姿を聞いた。

不動産ST市場は次のステージへ

──今年4月から新たにデジタルアセットビジネスを担当されています。現在の市場環境などを踏まえ、大和証券グループのデジタルアセット戦略を今後どのように進めていくお考えでしょうか。また、過去約5年間の不動産ST市場をどのように評価されていますか。

澤氏:担当が変わっても大和証券グループとして目指す方向は変わりません。当社が中期経営計画で掲げているのは「お客様の資産価値最大化」です。デジタルアセットも、そのためのひとつの手段ですし、業界全体でインフラを整備していくという考え方も変わっていません。

一方で、変わったのは市場のフェーズです。

これまでは、不動産STという市場を立ち上げるフェーズでした。現在は市場そのものが成長し、次のステージへ進みつつあります。今後は、不動産だけでなく対象資産を広げること、二次流通市場を育てること、さらに決済インフラを高度化することが重要なテーマになると考えています。

私自身は長く債券市場に携わってきました。その立場から見ても、ブロックチェーンの価値は非常に大きいと感じています。従来の資本市場では、約定から決済まで一定の時間がかかり、その間はカウンターパーティーリスクや資金調達コストが発生します。証券の権利移転と資金決済を同時に完結できるブロックチェーンは、資本市場の仕組みそのものを変える可能性を持っています。

不動産ST市場については、5年前に、ここまで成長すると考えていた人は少ないのではないでしょうか。案件規模は年々大きくなり、オフィスだけでなくホテルや物流施設など、投資対象も広がっています。インフレ環境の中で、株式や債券とは異なる新しいアセットを個人投資家に提供できたことも、市場拡大の一因になったと考えています。

──7月に発表した「品川・オフィス&ホテル」案件には、どのような特徴がありますか。

澤氏:今回の案件は、品川という立地に加え、オフィスとホテルを組み合わせた複合アセットであることが大きな特徴です。ホテル部分には変動賃料を取り入れており、ホテル事業の成長も投資家に還元できる設計になっています。

投資家の皆さまに提供したい価値は、何よりも「魅力的な不動産へ投資できる機会」です。まず物件として魅力があることが大前提であり、その上でブロックチェーンという技術を活用している、という順番だと考えています。

「流通」と「決済」が市場を変える

Asian man in a navy blazer and light blue shirt speaks in a conference room, wearing an SDG pin on his lapel.

──二次流通市場をさらに成長させるためには、何が必要になるのでしょうか。

澤氏:決済インフラの進化が非常に重要だと考えています。

不動産ST市場の成長により、資産のトークン化は着実に進んでいますが、決済に使う「お金」のオンチェーン化はまだ十分ではありません。セキュリティ・トークンを購入しても、決済は従来どおりの銀行振込で行われるケースがほとんどで、それが現在の市場の姿です。

ステーブルコインやトークン化預金が普及すれば、証券と資金を同じブロックチェーン上で同時に受け渡すDvP(Delivery versus Payment)が可能になります。

私が債券市場で長年課題と感じてきた決済リスクや資金調達コストの問題も、それによって大きく改善される可能性があります。

ブロックチェーンは、こうした資本市場の課題を根本から変える可能性を持った仕組みだと思っています。

──ステーブルコインやトークン化預金を活用した実証も進んでいます。今後の展望をどのように見ていますか。

澤氏:大和証券でも、業界横断でさまざまな実証実験に参加しています。ステーブルコインを用いたDvP実証や、トークン化預金を活用した実証など、金融機関やインフラ事業者が連携する取り組みが進んでいます。

こうした実証が積み重なり、実用化が進めば、決済リスクや資金調達コストはさらに低下し、24時間365日動く資本市場も現実味を帯びてくるのではないでしょうか。複数のトークン化資産を組み合わせた取引など、より高度な金融サービスも視野に入ってきます。

資産と「お金」の双方がオンチェーン化されなければ、本当の意味で市場は変わりません。今は、まさにその2つが結び付くフェーズに入ろうとしていると感じています。

オンチェーン市場は国境を越える

ST(セキュリティ・トークン)とはを説明するウェブページ。3つのポイントをイラスト付きで紹介。1) 少額で資産投資可能 2) 分配金等のリターン 3) 法律に準拠した金融商品
大和証券のセキュリティ・トークン紹介ページより

──パブリックブロックチェーンとステーブルコインを活用したクロスボーダー流通の実証にも取り組まれています。なぜ今、クロスボーダーなのでしょうか。

澤氏:不動産ST市場は国内で着実に成長していますが、市場をさらに発展させるためには、海外の投資家にも日本の資産へアクセスしてもらうことが重要だと考えています。ブロックチェーンの大きな特徴は、国境を越えた資産の流通を比較的低コストで実現できる可能性があることです。その意味で、クロスボーダーは次のテーマだと思っています。

日本の不動産や金融市場は、法制度や投資家保護の仕組みが整っており、海外から見ても信頼性の高い市場です。日本の不動産に投資したいというニーズは以前からありますが、これまでは手続きや流通の仕組みが十分ではありませんでした。

STによって投資単位を小さくし、デジタルで流通できるようになれば、海外投資家にとっても日本市場へ参加しやすくなる可能性があります。

──実現に向けては、どのような課題があるのでしょうか。

澤氏:もちろん、技術だけで実現できる話ではありません。

国ごとに証券規制や税制が異なりますし、本人確認(KYC)やマネーロンダリング対策(AML)への対応も必要になります。海外で販売する以上、日本の制度だけでは完結せず、それぞれの国の制度に対応しなければなりません。

そのため、現地の金融機関やパートナー企業と連携しながら、一つひとつ制度面を整理していくことが重要になります。今回の実証でも海外パートナーと連携し、日本の資産を海外市場へ届ける仕組みづくりを検討しています。

パブリックブロックチェーンやステーブルコインは、そのための有力な選択肢になると考えています。

オンチェーン資本市場の次の5年

Smiling man in a navy blazer and light blue shirt sits at a laptop in an office, wearing a circular SDG pin on his lapel.

──不動産ST市場の次には、どのような資産のオンチェーン化が進むと考えていますか。

澤氏:不動産STはこれからも重要な市場であり続けると思います。一方で、それだけでオンチェーン資本市場が完成するわけではありません。

海外ではMMFや株式など、さまざまな金融商品のトークン化が進み始めています。日本でも、今後は不動産以外の資産へと広がっていくでしょう。

個人的には、国債のような市場規模が大きく、決済の効率化によるメリットが大きい資産に期待しています。もちろん制度面の整理は必要ですが、ブロックチェーンを活用する意義を考えたとき、こうした金融商品は有力な候補になると思います。

──オンチェーン資本市場を実現するために、今後最も重要になることは何でしょうか。

澤氏:資産だけをトークン化しても、市場全体は変わりません。

流通市場が育ち、決済インフラがオンチェーン化されて初めて、本来の価値が発揮されます。資産、流通、決済がそれぞれ独立して進化するのではなく、ひとつの市場として結び付くことが重要です。

日本ではこれまで、不動産STという「資産」の部分が先行して発展してきました。これからは二次流通市場の成熟や、ステーブルコイン、トークン化預金などによる決済のオンチェーン化も進み、それぞれが連携する段階に入っていくと考えています。

──その中で、大和証券グループはどのような役割を担っていきたいと考えていますか。

澤氏:私たちは、単に商品を販売するだけではなく、発行、流通、決済を含めた市場全体の仕組みづくりに貢献していきたいと考えています。

もちろん、1社だけでオンチェーン資本市場をつくることはできません。金融機関、インフラ事業者、テクノロジー企業など、多くのプレーヤーが連携しながら市場を育てていくことが必要です。 今後は、資産の種類が広がり、二次流通市場が成熟し、決済のオンチェーン化も進んでいく。その中で、日本の資本市場がどこまで変わっていくのか、これからの数年間は非常に重要だと考えています。

|文:NADA NEWS 広告制作チーム
|撮影:多田圭佑