シーエーシー(CAC)は8月19日、ステーブルコインとRWA(現実資産)トークンをDvP(Delivery versus Payment)決済する基盤「Pactora(パクトラ)」の提供を開始した。
Avalanche(アバランチ)、Solana(ソラナ)、Canton Network(カントン・ネットワーク)など、設計思想の異なる複数のブロックチェーンに対応する。
気になるのは、RWAのトークン化でも広く使われているEthereum(イーサリアム)が含まれていないことだ。なぜ、この3つを選んだのか。
同社金融・SIビジネス本部 デジタルソリューション部 ブロックチェーン推進グループ(BCPG)グループ長の薮下智弘氏は、背景には「金融機関との対話や海外市場の動向」があると説明する。
金融機関の間では、ステーブルコインやRWAトークン化への関心が高まっている一方、設計思想の異なる複数のパブリックチェーンを扱える技術体制は、国内ではまだ限られているという。
「関心はあっても、技術的な検討の入り口に立てていないケースが多い」と薮下氏は述べる。
そこでCACは、具体的な案件が決まってからシステムを構築するのではなく、複数のチェーンで実際に動く基盤を先に用意した。金融機関がオンチェーン金融を検討する際の「土台」となる技術と知見を蓄積する狙いだ。
なぜ「イーサリアム」ではないのか
Pactoraは、不動産や債券などのRWAをトークン化し、RWAトークンの受け渡しとステーブルコインによる代金の支払いを同時に行うための基盤だ。
資産の受け渡しと代金の支払いを同一トランザクション内で実行することで、「代金を支払ったのに資産が届かない」「資産を渡したのに入金されない」といった決済リスクを抑える。
トークンの発行・募集から購入、決済までを一つの基盤で扱い、信託銀行、証券会社、資産運用会社などでの利用を想定している。
対応するチェーンについて、薮下氏は「あえて設計思想の異なる3系統を選びました」と説明する。
EVM互換で企業システムとの親和性が高いAvalanche、高速・低コストを特徴とするSolana、機関金融向けにプライバシーを重視したCanton Network。それぞれで発行・決済ロジックを実装し、性質の異なるチェーンを共通の操作体験で扱えるようにした。
Ethereum(イーサリアム)ではなくAvalancheを選んだ理由について、薮下氏は、金融機関などが自社の要件に合わせた独自のブロックチェーン環境(独自L1)を構築できる点を挙げる。
規制対応やプライバシー要件を持つ金融機関にとって、独自L1を構築できるAvalancheは有力な選択肢であり、今後、特に需要が見込まれると考えているという。
Ethereumをはじめ、Baseなど他のEVM互換チェーンへの対応も視野に入れている。Avalancheでの実装を応用できるため、「比較的速やかに対応可能」としている。
チェーンはまたがない
一方、Pactoraの「マルチチェーン」は、異なるブロックチェーンをまたいで決済する「クロスチェーン」を意味するものではない。
例えば、Avalanche上のRWAトークンをSolana上のステーブルコインで購入するといったDvPには、現時点では対応していない。
資産とステーブルコインを同じチェーン上に置き、そのチェーン内でDvPを完結させる設計だ。これも意図的な判断だという。
チェーン間をつなぐブリッジを介した取引では、過去に大規模な資金流出が相次ぐなど、セキュリティ上のリスクが指摘されてきた。決済の安全性を優先し、まずは同一チェーン内で完結する構成を採用した。
CACは、現時点で想定する金融ユースケースの多くは、資産と決済手段を同一チェーン上に置くことで十分に成立するとみている。
クロスチェーンDvPについては、市場のニーズと安全に実現できる技術の成熟を見極めながら、今後の検討課題とする。
JPYCも利用可能な設計
決済に使うステーブルコインについては、Pactora上で独自に発行するだけでなく、既存のステーブルコインも利用できる設計になっている。
Pactoraは各チェーンの標準的なトークン規格に準拠しており、同じ規格に対応したステーブルコインを決済手段として組み込める。
現在の動作検証では、ドル建てステーブルコイン「USDC」を使用している。さらに円建てステーブルコイン「JPYC」についても、対応チェーンの1つであるAvalanche上ですでに発行されているため、同チェーン上で決済手段として利用可能な設計だという。
ただし、実際の利用には法令上の位置づけや発行体の利用条件などの確認が前提となる。
また、Pactoraは、事業者が独自のステーブルコインを発行するための技術基盤としても利用できる。ただしCACがステーブルコインの発行主体になるわけではなく、裏付け資産の管理や償還スキーム、資金決済法などに基づく登録・免許への対応は発行事業者が担う。
次はファンド、預金、地方債
金融機関への具体的な導入について、CACは明らかにしていない。
現在は第1フェーズとして、トークンの発行から購入、決済までの基本機能の開発を完了した段階だ。
一方、第2フェーズでは、これまでニーズが高く、具体的な課題も寄せられてきたユースケースとして、トークン化ファンド、トークン化預金、デジタル地方債などを挙げている。CACは、それぞれに合わせた拡張やカスタマイズ、デモの準備を進めているという。
|文:増田隆幸
|画像:同社ウェブサイト(キャプチャ)


