日本でも、ステーブルコインの社会実装がいよいよ現実味を帯びてきた。
改正資金決済法施行によって制度上の位置付けが明確になり、JPYCをはじめ、銀行・信託会社・大手企業による円建てステーブルコインの取り組みが相次いでいる。
一方で、今後重要になるのは「ステーブルコインを導入する企業が増えるか」だけではない。
より重要なのは、
「実証実験で終わる企業」と「実際の事業として使い続ける企業」の違いは何か
という点だ。
私は、その差を生むのはブロックチェーン技術そのものではなく、企業がステーブルコインを「決済手段」としてだけではなく、経営資源の一つとして捉えられるかどうかだと考えている。
そのキーワードが「デジタル資本経営」である。
PoCの成功は、事業の成功ではない
日本企業は新しいテクノロジーに対して、まず実証実験(PoC)から始めるケースが多い。
ステーブルコインについても同様だ。
店舗で決済できるか。既存POSと接続できるか。ブロックチェーン上で送金できるか。会計・法務上どのように処理するのか。
こうした検証はもちろん必要である。
しかし、技術的に「できる」と確認できたことと、その仕組みが企業の中で継続的に「使われる」ことは全く違う。
実証実験終了後に、
「では、どの部署が運用するのか」
「既存業務の何を置き換えるのか」
「顧客にどのような価値があるのか」
「会社としてどのような収益や競争優位につなげるのか」
という議論に進めなければ、PoCはPoCのまま終わってしまう。
つまり、本格導入への最大の壁は技術ではなく、経営と業務への接続なのである。
松屋銀座へのJPYC導入支援で感じたこと
エックスウィングループでは、松屋銀座におけるJPYC導入の取り組みについても支援してきた。
こうしたプロジェクトに関わる中で改めて感じるのは、ステーブルコイン導入を「新しい決済方法を一つ増やす」という発想だけで考えてはいけないということだ。
例えば百貨店であれば、決済だけでなく、インバウンド顧客との接点、デジタル会員証、ポイント、NFT、地域やブランドとの連携、さらには将来的なオンチェーン上の顧客体験まで発展する可能性がある。
ステーブルコインは単独で価値を生むものではない。
企業が持つ顧客基盤、ブランド、店舗、データ、サービスと接続されて初めて価値が生まれる。
ここが実証実験から社会実装へ進めるうえで、非常に重要なポイントだと感じている。
「デジタル資本経営」という視点
私は以前から、AI、データ、ブロックチェーン、デジタル資産などを企業の新しい経営資源として捉える「デジタル資本経営」という考え方を提唱している。
これまで企業経営では、人、モノ、カネ、情報などをいかに有効活用するかが重要だった。
これからは、そこに「デジタル資本」という新しい経営資源が加わる。
ステーブルコインもその一つである。
例えば、ステーブルコインを活用すれば、決済だけでなく、企業間取引、海外送金、プログラマブルな支払い、デジタル資産との交換、AIエージェントによる自動決済など、これまで別々だった経済活動を一つのデジタルネットワーク上でつなげられる可能性がある。
重要なのは、
「ステーブルコインを導入するか」ではなく、「ステーブルコインによって自社のビジネスをどう変えるか」
という問いを持つことだ。
この問いを経営層が持てる企業ほど、PoCから本格導入へ進みやすくなるだろう。
最後は「人」が差をつける
そして、もう一つ見落としてはいけないのが人材育成である。
ステーブルコインを導入すると、関係するのはシステム部門だけではない。
経営企画、財務、経理、法務、コンプライアンス、マーケティング、営業、店舗運営など、多くの部署が関係する。
ところが、社内に「ブロックチェーンとは何か」「ウォレットとは何か」「なぜステーブルコインを使うのか」を理解している人材がほとんどいなければ、プロジェクトは一部の担当者や外部ベンダーに依存してしまう。
これではPoC終了後に社内へ知識が残らない。
だからこそ、本格導入を考える企業は、システム開発と同時に社内人材の育成を進める必要がある。
全社員がブロックチェーンの専門家になる必要はない。
経営層には事業機会を判断できる知識、管理職には既存業務との接続を設計できる知識、実務担当者には安全に運用できる知識が必要になる。
つまり、技術導入と人材育成を別々に考えてはいけないのである。
「技術実証」から「経営実装」へ
日本ではこれから、円建てステーブルコインを使った多くの実証実験が行われるだろう。
しかし、PoCの数そのものがステーブルコイン普及を意味するわけではない。
重要なのは、その後である。
私は、本格導入へ進む企業には大きく4つの条件があると考えている。
1.明確なユースケースがあること
2.既存の顧客・業務・システムと接続できること
3.経営層がデジタル資本として理解していること
4.社内に運用・発展させられる人材を育てること
法制度や技術基盤は、日本でも着実に整いつつある。
次に問われるのは、それを使う企業側の経営能力ではないだろうか。
ステーブルコインの社会実装とは、単に店舗でJPYCが使えるようになることではない。
企業自身がデジタル資本を理解し、それを既存事業と結び付け、新しい顧客価値や収益機会へ変えていくことだ。
日本のステーブルコイン市場が「実証実験の時代」から「実際に使われる時代」へ移れるか。
その成否を決めるのは、ブロックチェーンの性能以上に、企業の経営と人材の変革なのかもしれない。
ショート動画
企業に問われる「デジタル資本経営」と人材育成
https://youtube.com/shorts/vYly1WHOGl4


