・イーサリアムの研究者らは、ステーキング参加率の上昇に応じてバリデーター報酬の一部を段階的に焼却し、ETH供給量の約半分がステーキングされた時点で、新規発行によるインセンティブをなくす新たな報酬メカニズムを提案した。
・提案では、過度なステーキングはネットワークの安全性を高めるのではなく、取引所やETF、ステーキング事業者などへのETHの集中を招き、イーサリアムの分散性を損なう可能性があると指摘している。
・ValidatorQueueのデータによると、2026年8月4日時点では、ETH供給量の約34%に当たる約4140万ETHがステーキングされている。提案を巡る議論が広がる中、ETH価格は1,870ドル近辺で推移した。
イーサリアム研究者、ステーキング拡大がセキュリティリスクとなる前に抑制へ
イーサリアム財団の研究者ジャスティン・ドレイク氏を含むイーサリアム・エコシステムの貢献者らは、2026年8月4日、ビーコンチェーン上で、ステーキング比率の上昇に伴う新規発行による追加ステーキングのインセンティブを抑えるイーサリアム改善提案「EIP-8363」の草案を公表した。
この提案は、ネットワークへの参加率が上昇するにつれて、バリデーター報酬のうち焼却する割合を段階的に引き上げ、ステーキング報酬の配分方法を変更するものだ。
バリデーターの利回りを直接引き下げる従来の提案とは異なり、新たな「Tapered Issuance Burn(発行量逓減型バーン)」の仕組みでは、現行の仕組みに基づいて報酬を計算したうえで、各バリデーターに割り当てられた職務ごとに、理想化報酬の一定割合を残高から差し引き、そのETHを焼却する。
焼却率はETHのステーキング比率に応じて上昇し、ETH供給量の約50%がステーキングされた時点で、コンセンサスレイヤーの新規発行報酬が焼却分によって相殺され、純報酬がゼロになる仕組みとなっている。

提案者らは、この仕組みの目的について、ステーキング量に厳格な上限を設けることではなく、ステーキング参加が際限なく拡大する経済的インセンティブを取り除くことだと強調している。
そのうえで、投資家がステーキングに伴うリスクを負うために必要とする利回りに応じて、市場原理によって50%を下回る水準で自然に均衡が形成されるべきだと主張している。
記事執筆時点では、ValidatorQueue.comによると、イーサリアム上で約4140万ETHがステーキングされており、ETH供給量の約34%に相当する。
提案が想定する飽和点までは依然として余裕があるものの、提案者らは、現行の新規発行モデルでは、バリデーター群がどれほど拡大しても追加のステーキングが促され続けると指摘している。
提案によると、一定の水準を超えた追加ステーキングは、イーサリアムの安全性を高めるどころか、ETH供給量のより大きな割合を、大口保有者や中央集権型取引所、カストディアン、デジタル資産を準備資産として保有する企業、ETF発行会社、リキッドステーキング・プロトコルなどの管理下に集中させる可能性がある。
草案では、こうした集中がイーサリアムの「ソーシャルレイヤー」を弱体化させると説明している。
具体的には、重大なセキュリティ事故が発生した際に、ソーシャルリカバリー・フォークや、社会的合意に基づくフォークを通じて、攻撃側のステークを無効化する「ソーシャル・スラッシング」などの対応に向けて連携できる、独立したETH保有者の数が減少する可能性があるという。
同時に、バリデーター報酬としてETHの新規発行が続けば、ステーキングをしていない保有者の持ち分は希薄化する。そのため、購買力の低下を避けるためだけにステーキングへ参加する保有者が増え、集中の循環がさらに強まると指摘している。
提案には、バリデーターの採算に影響を及ぼす可能性を考慮し、18カ月間の移行期間が盛り込まれている。
移行当初のバリデーター報酬は現在に近い水準に維持され、その後、新たな発行曲線へと段階的に収束する。これにより、ステーキング事業者やインフラ運営者が対応するための時間を確保するとしている。
イーサリアム財団は前週、長年セキュリティ研究に携わってきたパスカル・カベルサッチオ氏(ハンドルネーム:pcaversaccio)を理事に任命したと発表した。
2026年8月時点で、同氏は宮口あや氏、ヴィタリック・ブテリン氏、パトリック・ストルヒェネッガー氏とともに、イーサリアム財団の理事を務めている。
Lido幹部、提案がバリデーター運営の集約を加速させる恐れを指摘
この提案はすでに、イーサリアムの「マージ」以降で最も重要な通貨発行政策を巡る議論の一つを巻き起こしている。
支持者は、ネットワークの安全性を維持するために、ETHのステーキング比率を際限なく高め続ける必要はないと主張している。
一方、Obol共同創業者のオイシン・カイン氏は、到達可能なステーキング水準で利回りがゼロになる仕組みは、資金力があり価格変動への感応度が低い大規模事業者が、採算を重視する他の参加者を締め出し、かえってバリデーター運営の集中を招く恐れがあると批判した。─オイシン・カイン氏のX、2026年8月4日
また、Lido Financeのステーキング責任者を務めるイシドロス・「イジー」・パサディス氏は、より広範な経済的影響を十分にモデル化しないまま、新たな問題を生み出す恐れがあるとして批判した。
Lidoはイーサリアム最大のリキッドステーキング・プロトコルであり、Lido経由で880万ETH超がステーキングされている。その価値は2026年8月上旬の価格で約163億ドルに相当する。
ベンチャーキャピタル企業Dragonflyのデータ責任者ヒルデベルト・ムーリエ氏が公表したDune Analyticsのデータによると、Lido経由でステーキングされているETHは、イーサリアムネットワーク全体でステーキングされているETHの約21%を占める。

パサディス氏は、提案発表に対するX上の投稿で、この提案が複数の目的を同時に達成しようとしていると指摘した。
同氏が特に懸念しているのは、ステーキング参加率が50%の飽和点に近づいた場合、コンセンサスレイヤーの新規発行に由来する純利回りがゼロに近づく可能性がある点だ。
その場合、独立系の運営者が採算を確保することは一段と難しくなる一方、ごく低い利幅でも運営できる大規模機関がバリデーター業務を支配しやすくなると述べた。
Ethereum Magicians上では、投稿者のgregk氏が、Hegotáの検討対象に含めるためのPFI期限まで48時間を切った段階で草案が公開されたことについて、通貨発行政策の重大な変更を検討するには十分な時間がないと指摘した。
同氏は、イーサリアムのロードマップに組み込まれる前に、コミュニティによるさらなる検討を経るべきだと主張している。
バリデーターの収益性以外にも、ネイティブステーキングの利回りが魅力を失った場合、投資家が別の利回りを提供する中央集権的なカストディ商品へ移行する可能性があるとの批判も出ている。
その場合、集中リスクを軽減するどころか、かえって高める結果になりかねない。

現時点で市場は、この提案を短期的な価格材料ではなく、長期的なガバナンスを巡る議論として受け止めているようだ。
イーサリアムのステーキング経済の将来を巡る議論が活発化する中でも、ETH価格は8月4日に1,870ドルをわずかに下回る水準を維持し、過去24時間の狭い取引レンジ内でもみ合った。


