休日の朝くらい、仕事のことを忘れて眠っていたい。
だが、世界の市場は、人間の休日や生活時間に合わせて止まってはくれない。
東京が眠っている間にも、ロンドンやヒューストンでは、金融やエネルギーの取引が続いている。こうした市場を相手にする企業の財務担当者は、いつ眠るのだろうか。
そんなことを考えたのは、6月末に発表されたJERA Global Marketsのニュースがきっかけだった。
JERAは、東京電力グループと中部電力が50%ずつ出資する、日本最大の発電会社だ。そのグループで、LNGや電力、石炭などを世界各地で取引しているのがJERA Global Markets。シンガポールを本拠に、東京、ロンドン、ヒューストン、ブリスベンにも拠点を置いている。
そのJERA Global Marketsは、J.P.モルガンの「Blockchain Deposit Account(BDA)」を円建てで利用する最初の企業になった。
BDAは、一言で表せば、ブロックチェーンを使って24時間資金を動かせる企業向けの銀行預金口座だ。
通常の銀行の締め時間を過ぎても資金を動かせるのみならず、あらかじめ決めた条件に基づいて、資金移動を自動化することもできる。世界の市場や時間帯をまたいで取引するJERA Global Marketsにとっては、事業を支える新たな金融インフラになり得る。
とはいえ、J.P.モルガンという巨大銀行と、世界を舞台にするエネルギー企業による先進的な事例で、一般企業に広がるのは、まだ先かもしれない。
ところが今週、別のニュースが追いかけてきた。
国際決済銀行(BIS)などが進める「Project Agorá(プロジェクト・アゴラ)」が、実際の価値を持つお金を使った国際決済のテストを行った。
プロジェクト・アゴラは、中央銀行のお金と商業銀行の預金をデジタル化し、複数の国や通貨をまたいで動かす仕組みを検証している。今回のテストでは、金融機関と中央銀行の計28機関が約80万スイスフラン(約1億6000万円)相当の取引を実施した。
プロトタイプ上では、支払いの指示から決済まで平均80秒。かなり速い。
もっとも、JERA Global Marketsが使うJ.P.モルガンのBDAと、プロジェクト・アゴラは同じ仕組みではない。また、プロジェクト・アゴラも、まだ完成した商用サービスではなく、管理された環境で行われた実験だ。
それでも、向かっている方向は重なっている。
銀行が開いている時間にお金を動かすのではなく、企業や金融機関が必要とする時間に動かす。国や通貨をまたぐ複数の処理を、できるだけ1つの流れにつなげる。
企業のお金が少しずつ、24時間動く「眠らないお金」へ変わろうとしている。
では、お金が24時間動くようになったら、企業の財務部門や銀行で働く人たちは、24時間眠れなくなるのだろうか。「24時間戦えますか」とCMが呼びかけた時代がまたやってくるのだろうか。
プロジェクト・アゴラの実験では、決済前のコンプライアンス確認や、一部の為替取引の手動での確認も行われている。お金がプログラマブルになり、資金移動が自動化されても、人による確認や判断がなくなるわけではない。
むしろ、最初のうちは仕事が増えるかもしれない。新しい仕組みを導入し、権限や上限額を決め、異常な取引を監視する。何か起きたときに、誰が対応するのかも決めなければならない。
だが、目指す先は、人間が24時間眠らずに働く世界ではないはずだ。
日常的な資金移動は、あらかじめ決めたルールに沿って進む。人はすべての取引を1件ずつ処理するのではなく、例外や重要な判断に集中する。
そうなって初めて、「眠らないお金」は人間にとって便利で、快適なものになる。
企業のお金は、銀行の営業時間に制約されるものから、ビジネスが必要とするときに動くものへ変わり始めている。オンチェーン金融のニュースを伝えていると、そうした世界が少し現実味を帯びて見えてくる。
さて、日曜日の朝、私はこの原稿を仕上げている。書き終えたら、今日はもうPCから離れよう。
|文:増田隆幸
|画像:生成AIによるイメージ


