Circle、野村ホールディングスとデジタル金融で協業へ──改正資金決済法の施行と、動き出す日本のステーブルコイン決済【MCB FinTechカタログ通信】

2026年6月26日、野村ホールディングス株式会社が、米Circle(Circle Internet Financial)とデジタル金融分野での協業に関する基本合意書(MOU)を締結したと発表しました。Circleは、米ドル建てステーブルコイン「USDC」を発行する企業です。両社は日本を含むグローバル市場で、ステーブルコインを使ったオンチェーン金融や決済インフラなどの領域での協業を検討するとしています。

この発表は、日本のステーブルコイン制度がさらに一歩進んだ時期と重なります。今回は、協業の中身とUSDC決済の仕組みを、2026年6月に施行された改正資金決済法の動きとあわせて解説します。

※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。

海外送金の課題と、進む日本のステーブルコイン制度

企業の海外送金は、これまで銀行が相互にコルレス(銀行どうしが送金・決済を取り次ぐ契約)を結んだネットワークを経由してきました。複数の銀行を中継するため、着金までに2〜3営業日かかり、中継ごとに手数料が積み上がります。日本の外国為替取引は1日あたり約4,400億ドル規模に上ります(BIS 2025年調査)。海外子会社への送金や外貨建ての仕入先への支払いを日常的に行う企業にとって、この時間とコストは資金繰りの負担になります。

その代替として注目されているのが、価格を法定通貨に連動させたステーブルコインによる決済です。日本では2023年の資金決済法改正でステーブルコインが電子決済手段として位置づけられ、これを扱うための土台はすでにできていました。そこにさらに、2026年6月1日に施行された改正資金決済法が加わります。

この改正では、信託型のステーブルコインについて、裏付け資産を要求払預貯金だけでなく、一定の国債や中途解約できる定期預金でも運用できるようになり、その上限は発行総額の50%までとされました。あわせて、媒介だけを担う仲介業が新たに設けられ、利用者の資産を守る保全制度も整えられています(金融庁)。

これにより、ステーブルコインを扱える段階から、裏付けで収益を生み、複数の担い手が役割を分担して事業として組み立てる段階へと、制度が一歩進んだといえます。

Circle・野村ホールディングスの協業と、USDC決済の仕組み

今回の発表は、あくまで基本合意書(MOU)の締結です。野村ホールディングスのリリースによると、両社が検討する協業領域は、ステーブルコインを使ったオンチェーン金融・資本市場取引、オンチェーンでの担保管理・送金・決済インフラ、そしてステーブルコインの流通に必要な信託機能(資産の保全や担保管理)とされています。両社は今後、規制・法務・技術・事業の各面を踏まえて、より詳細な協議を進めるとしています。

野村ホールディングスは証券・資本市場や信託を手がける大手です。協業領域に資本市場での取引や、資産の保全・担保管理といった信託機能が並ぶのは、今回の狙いが送金だけでなく、ステーブルコインを使った証券・担保の取引や、流通を支える信託の仕組みづくりまで視野に入れていることをうかがわせます。送金にとどまらず、ステーブルコインを軸とした金融サービス全体を見据えた協業だといえます。

提携の具体的な中身については、日本経済新聞が、2027年にも日本企業が円をUSDCに交換し、クロスボーダーの支払いや海外子会社間の送金を行えるサービスを想定していると報じています。ただし、こうした時期や用途は野村ホールディングスの公式リリースには明記されておらず、現時点では一部で報道されている情報として捉えられます。

USDCを使った国際送金の仕組み自体は、Circleが提供するCircle Payments Network(CPN)として公開されています。CPNは、銀行・決済事業者・暗号資産交換業者などをつなぎ、ステーブルコインでリアルタイムに決済するネットワークです。送金側の金融機関が顧客確認を行ったうえで現地通貨をステーブルコインに換えて送り、受取側の金融機関がそれを現地の法定通貨に戻して相手に支払います。

この構図では、送金の途中で通貨がいったんUSDCに姿を変え、それを介して受け渡される形になります。Circleは、参加する金融機関が各国の口座に資金を前もって積んでおく必要を減らせると説明しています。資金を各国に寝かせておく負担が小さくなれば、その分だけ中継のコストや時間を圧縮できる余地が生まれます。野村ホールディングスとの協業で挙がった送金・決済インフラは、CPNのような仕組みが対象とする領域と重なります。両社がCPNを用いると公式に示してはいませんが、今回の協業にCPNが用いられる可能性もあると推測されます。

円建てステーブルコインとの棲み分け

USDCは米ドルに連動するステーブルコインで、Circleによると、2026年6月22日時点で流通量は約743億ドルに上ります。発行はグローバルで、国境を越えた取引で広く使われている点が特徴です。

一方、円に連動する国内のステーブルコインも動き出しています。三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の3行は、信託の仕組みを使った円建てのステーブルコインの共同発行に取り組んでおり、2026年度中の実取引開始をめざしています。3行を共同の委託者、信託銀行を発行体とする信託型で、企業間の決済や、株式・投資信託の売買にともなう決済での利用が想定されています。

ここから見えてくるのは、通貨による用途の棲み分けです。国内の企業間決済では為替リスクのない円建てが扱いやすく、海外の取引先への支払いや外貨建ての資金移動では、国際取引の基軸であるドルに連動するUSDCなどのステーブルコインが有用だといえます。

今回の協業がクロスボーダーを主眼に語られているのは、この棲み分けに沿った動きといえます。円建てが国内を、ドル建てが国境をまたぐ決済を担う、という役割分担を示す事例が、日本でも少しずつ現れ始めています。

考察

ここで見えてくるのは、ステーブルコイン決済を事業として組み立てる動きが、円建てとドル建ての両側で同時に進み始めていることです。円建てではメガバンク3行が共同発行をめざし、ドル建てでは野村ホールディングスとCircleが協業に踏み出しました。いずれも、2026年6月の改正資金決済法が整えた土台の上にある動きです。

ステーブルコインの発行そのものは、すでに難しくなくなっています。競争の焦点は、発行できるかどうかから、どの枠組みで、誰が事業を組むかへと移りつつあります。信託や資本市場を担う大手が円建て・ドル建ての両側で動き始めたことは、その表れといえるでしょう。

|画像:Shutterstock

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