メルカリ×コインチェックが描く“日常アプリ”に溶け込む暗号資産──交換業のAPI開放は業界構造を変えるか
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国内最大手のフリマアプリ「メルカリ」と、マネックスグループ傘下の暗号資産(仮想通貨)取引所コインチェック(Coincheck)は6月8日、メルカリアプリ上でコインチェックが扱う暗号資産12銘柄の取引が可能になると発表した。

メルカリ子会社のメルコインは2023年から、メルカリアプリ上で暗号資産が取引できるサービスを開始。利用者がメルカリで得た売上金(メルペイ残高)やポイントを活用し、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、エックスアールピー(XRP)を購入できるサービスを展開。暗号資産に触れたことがない初心者ユーザーを抱えることに成功し、3年で累計口座数は400万を突破した。 

今回は新たに、シバイヌ(SHIB)やドージコイン(DOGE)など計12銘柄が追加され、メルカリアプリ内で取引できる暗号資産は計15銘柄に拡大。昨年8月に発表されていた両社の提携が、約10カ月を経て具体的なサービスとして形になった。

新サービスの内容は既報の通りだが、今回の発表はアプリ上で取引できる銘柄が増えたことにとどまらない。

▶関連記事:メルカリ、コインチェック取扱の12銘柄が取引可能に──Coincheck CaaS提供開始

コインチェックは同日、暗号資産の売買やカストディ(保管)といった交換業機能をAPIとして外部企業に提供する「クリプト・アズ・ア・サービス(CaaS:Crypto as a Service)」を開始したと発表。今回追加された12銘柄の取引は、このCaaSを通じて提供される。銀行が持つ口座開設や決済などの金融機能を外部に提供する「バンキング・アズ・ア・サービス(BaaS:Banking as a Service)」の暗号資産版とも言える仕組みだ。

この日の会見には、メルコイン代表取締役CEOの中村奎太氏と、コインチェック取締役社長執行役員の井坂友之氏が登壇。NADA NEWSは会見後、両氏に個別取材を行った。本記事では記者発表と独自取材をもとに、両社が描く”日常アプリ”と暗号資産の融合の先にあるビジョンに迫る。

「最初の一歩」を引き出したメルコイン

メルカリの月間利用者数は約2300万人。その多くは、必ずしも暗号資産に詳しいユーザーではない。

そうした一般層に対しメルコインは、フリマで得た売上金やポイントを活用し、普段使っているアプリの延長線上で暗号資産を保有できる体験を提供してきた。

中村氏は会見で、利用者の約85%が暗号資産取引の未経験者だったと指摘。「自分に関係ない」と思っていた人たちの「最初の一歩」を引き出してきたと振り返った。

これまで取り扱い銘柄をBTC、ETH、XRPの3種類に絞ってきた理由についても、「迷わず、分かりやすく始められること」を重視していたためだと説明した。

〈メルコインの記者発表の資料より〉

一方、今回のコインチェックとの連携による12銘柄追加は、そうした“入口戦略”の次のフェーズにあたる。

中村氏は「400万口座」という形で、最初のハードルを下げる役割は十分果たせたとし、今後はユーザーが自分の興味に応じて銘柄を「選び、集め、楽しむ」段階に入っていくと述べた。

実際、今回追加されたシバイヌやドージコインは、価格変動だけでなく、コミュニティ性やカルチャー的な熱量を持つ銘柄として知られる。

中村氏は個別取材に、メルカリユーザー特有の暗号資産との向き合い方についても言及。「キャラクターを育てるような感覚で暗号資産を見ているユーザーもいる」と語った。

値動きを見守ったり、少額でコレクションのように集めたりする行為そのものを楽しむユーザーもいるという。金融商品としてリターンを追うというより、たまごっちやポケモンのような愛着を持って育てる感覚に近い側面がうかがえる。

暗号資産版「BaaS」を目指す

今回の提携の裏側で動いているのが、コインチェックが新たに打ち出した「CaaS」の仕組みだ。

〈Coincheck CaaSについて説明した井坂氏〉

井坂氏は会見で、「コインチェックの暗号資産の取引機能を、API経由で外部サービスへ組み込める仕組み」だと説明。メルカリアプリ上ではメルコイン側がUI/UXを提供し、その裏側で売買執行やウォレット管理などの取引基盤をコインチェックが担う構造になっているという。

メルコインが従来から扱っていたBTC、ETH、XRPの3銘柄は引き続きメルコイン側で管理される一方、新たに追加された12銘柄については、コインチェックのウォレット基盤上で管理される形となる。

井坂氏は、銀行機能をAPIとして外部企業へ提供する「BaaS」になぞらえ、「組み込み型金融サービスの暗号資産版」だと表現した。

同社がこのタイミングでCaaSを始めた背景には、6月に施行された「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」に関する新制度もある。

▶関連記事:金融庁、暗号資産サービス仲介業の新制度を本日施行

井坂氏は制度整備によって、より多くの事業者が暗号資産サービスへ参入しやすい環境が整いつつあると説明。そのうえで、「制度」だけでは十分ではなく、交換業者側が長年培ってきた技術基盤やノウハウを積極的に開放していく必要があるとの認識を示した。

コインチェックは今回、そうした流れを見据え、自社の交換業インフラをAPIとして外部企業へ提供するCaaSを開始。パートナー企業は、自社アプリ内に暗号資産の売買機能などを組み込めるようになる。

〈コインチェックの記者発表の資料より〉

もっとも、コインチェックのCaaSを通じて暗号資産の売買機能を提供する場合、提供主体となるパートナー企業は、法令上、暗号資産交換業か電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の登録を受けた事業者に限られる。

日常アプリと暗号資産の融合

中村氏は、自社で銘柄追加を進める選択肢もあったとしたうえで、「スピード感と安心安全のクオリティを最高レベルで両立するために、コインチェックの技術基盤を活用した」と説明した。

Two presenters in black suits smile while holding a large banner at a Mercoin event, with a Mercoin backdrop behind them.
〈昨年8月の業務提携発表後、新サービスのローンチを果たした〉

暗号資産取引を、日常的に使われるアプリと連携させる動きは国内でも広がっている。

昨年10月には、キャッシュレス決済大手のPayPayとバイナンスジャパンが資本業務提携を発表。現在、バイナンスジャパンのアプリでは、PayPayマネーを利用した暗号資産購入などが可能になっている。

個別取材でこの流れについて聞くと、両氏とも「非常にポジティブなこと」と位置づけ、暗号資産が日常サービスの延長線上へ入り始めているとの認識を示した。

コインチェックは今回のメルカリとの連携を、今後のCaaS展開に向けた先行事例の一つと位置づけている。

個別取材に井坂氏は、交換業者同士が連携して1つのサービスを構築する事例はまだ多くないとしたうえで、今後は暗号資産サービス仲介業の制度活用が進むことで、交換業機能を持たない事業者が既存交換業者の機能を利用する形が広がっていくとの見方を示した。そのうえで、今回の連携について「業界の中でも中心的な参考事例になっていく」と述べた。

Poster advertising Coincheck × mercoin with Japanese text and a smartphone displaying a crypto app next to it on a stand.
〈12銘柄の取引には、コインチェックの連携口座を申し込む必要がある〉

国内では現在、暗号資産規制を金融商品取引法(金商法)下へ移行する議論が進む。7月17日までの今国会で、金商法の改正案が可決する見通しだ。

制度整備による市場環境の変化と、日常的に使われるアプリを通じたユーザー接点の拡大が重なることで、両氏は暗号資産がさらに一般層へ浸透していくとみていた。

交換業のAPI開放と、日常アプリへの組み込みは今後さらに広がっていく可能性がある。今回のメルカリとコインチェックの提携第一弾の取り組みは、その先行事例の一つとして位置づけられそうだ。

|取材・文:橋本祐樹
|写真:会見のオフィシャル素材から
|トップ写真:コインチェック取締役社長執行役員の井坂友之氏(左)とメルコイン代表取締役CEOの中村奎太氏

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