本命はETFの解禁か──日本が暗号資産の金商法移行を進める理由とは

5月22日の「ビットコイン・ピザ・デー」に合わせ、Tokyo Bitcoin Baseでイベント「ビットコインピザデー 2026 by 楽天ウォレット」が開催された。

同イベントはCXRエンジニアリングが主催し、楽天ウォレットが共催したもの。楽天ウォレットシニアアナリストの松田康生氏が登壇し、ビットコイン(BTC)を楽天キャッシュにチャージして楽天ペイでピザを注文する実演のほか、暗号資産をめぐる税制・規制の見直し、国内ビットコインETFの可能性について解説した。

ビットコインでピザは本当に買えるのか

Japanese pizza shop webpage showing four pizza thumbnails under 'Best Seller Pizzas'. Each image labeled with Japanese names like 'アメリカン' and 'マルゲリータ'.

ビットコイン・ピザ・デーは、2010年5月22日にプログラマーのラズロ・ハニエツ氏が1万BTCでピザ2枚を購入した出来事に由来する記念日だ。ビットコインが実際の商品購入に使われた象徴的な出来事として知られている。

イベント冒頭では、松田氏が会場で実際にピザを注文する実演を行った。

松田氏はまず、「ビットコインでピザを買う」といっても、国内のピザ店が直接BTCを受け取るわけではないと説明。楽天ウォレットで保有するBTCを楽天キャッシュにチャージし、その残高を楽天ペイで使う流れを示した。

Presenter slide showing three Rakuten Wallet app screenshots on a smartphone UI, with Japanese labels and blue circled highlights.

実演では、ピザとサイドメニューを選び、支払額分をBTCから楽天キャッシュにチャージ。その後、楽天ペイで決済し、注文を完了した。松田氏は、BTCを単に保有するだけでなく、日常の決済に近い形で使える事例として紹介した。

税率20%だけじゃない──金商法移行で何が変わるのか

続くセミナーでは、暗号資産の税制と規制の見直しがテーマとなった。

現在、個人の暗号資産取引で生じた所得は、原則として雑所得などとして総合課税の対象となる。一方、令和8年度税制改正大綱では、金融商品取引法(金商法)などの改正を前提に、一定の暗号資産取引について20%の申告分離課税へ移行する方向が示されている。

ただし、松田氏は、すべての暗号資産取引が一律に20%課税へ移るわけではない点を強調した。対象は、国内の登録業者を通じた一定の暗号資産の譲渡などが中心になる見通しで、海外業者を使った取引、DeFi(分散型金融)、国内登録業者が取り扱っていない銘柄、ステーキングやレンディングなどについては、今後の制度設計やガイドラインを確認する必要があるとした。

また、税制上は3年間の損失繰越控除も論点となる。これは、ある年に発生した損失を、一定の要件のもとで翌年以後の利益と相殺できるようにする仕組みだ。株式やFXなどに近い申告分離課税の枠組みに整理されれば、税率だけでなく、損失の扱いも変わる。

もっとも、今回の見直しは単なる減税策ではない。松田氏は、20%の申告分離課税は、暗号資産を金融商品取引法(金商法)上の規律に移していくことが前提になっていると説明した。

これまで暗号資産は、主に資金決済法上の決済手段として扱われてきた。しかし、実際には投資対象として売買・保有されるケースが広がっている。金商法への移行は、暗号資産を投資性のある商品として位置付け直し、投資家保護や市場の公正性を高める狙いがある。

具体的には、発行体や交換業者による情報開示、インサイダー取引規制、不公正取引規制、市場監視、交換業者側の管理体制などが重要な論点となる。松田氏は、暗号資産交換業者にとっても、金融商品取引業者としての登録や体制整備が求められる可能性があると指摘した。

国内ビットコインETF実現へ、制度整備の論点

セミナーでは、「なぜ日本は暗号資産の法的位置付けを金商法へ移行しようとしているのか」という論点についても詳しく語られた。

松田氏は、自身の見立てと断ったうえで、「本命はETFだったのではないか」と語った。

ETFとは、証券取引所に上場している投資信託のことだ。現物ビットコインETFが実現すれば、投資家は暗号資産交換業者に口座を開いたり、自分でBTCを保管したりしなくても、証券会社の口座を通じてビットコイン価格に連動する商品へ投資できるようになる。

背景にあるのは、2024年に米国で現物ビットコインETFが承認され、大きな資金流入を集めたことだ。米国に続き、香港では現物ビットコインETFや現物ETH ETFが上場し、英国でも暗号資産ETN(上場投資証券)をめぐる個人投資家向けアクセス解禁の動きが進んでいる。

松田氏は、各国の金融センターが暗号資産市場を取り込もうとするなか、日本も自前でビットコインETFを組成できる制度環境を整える必要が出てきたとの見方を示した。

ただし、国内でビットコインETFを作るには、単に税率を20%にするだけでは不十分だ。

現在の暗号資産は、主に資金決済法上の枠組みで扱われている。これは、暗号資産を決済手段や交換手段として規制する考え方に近い。一方、ETFは投資家が証券会社などを通じて売買する金融商品であり、投資信託や上場商品としての整理が必要になる。

そのため、国内でビットコインETFを実現するには、暗号資産を投資対象としてどう位置付けるのか、投資信託に組み入れられるのか、誰がBTCを安全に保管するのか、どの金融機関が販売できるのか、投資家保護や情報開示をどう設計するのか、といった論点を一体で整理する必要がある。

ここで重要になるのが、金商法への移行だ。

暗号資産を金商法上の規律に移していけば、投資家保護、不公正取引規制、情報開示、販売規制、市場監視といった、金融商品として扱うための枠組みを整えやすくなる。松田氏は、金商法への移行に加え、投信法施行令など関連制度の見直しが進めば、一定の暗号資産を投資対象とするETFへの道が開ける可能性があると説明した。

一方で、ETFの法整備だけを先に認めると、暗号資産業界にとっては大きな問題が生じる。

仮にビットコインETFだけが20%の申告分離課税の対象となり、現物の暗号資産取引が総合課税のまま残れば、投資家は税制面で有利なETFへ流れやすくなる。すると、国内の暗号資産交換業者を通じた現物取引が相対的に不利になり、既存の暗号資産市場から資金が流出する可能性がある。

そのため、国内ビットコインETFの実現と、現物の暗号資産取引を含む税制見直しは、別々の話ではない。ETFを作れる制度を整える一方で、現物取引も一定の条件のもとで申告分離課税の対象にすることで、ETF市場と現物市場のバランスを取る必要があるという見立てだ。

松田氏は、証券業界、投信業界、信託業界、暗号資産業界では、それぞれ立場が異なっていたとも説明した。

証券会社にとっては、ETFやETNを通じて暗号資産へのアクセスを提供できることが魅力となる。投信業界にとっては、暗号資産を投資信託の商品設計にどう組み込むかが論点となる。信託業界にとっては、ETFの裏付けとなるBTCを誰が安全に保管するのかというカストディの問題がある。そして暗号資産業界にとっては、ETFだけが優遇され、現物取引が取り残されることへの懸念がある。

こうした複数の利害をまとめるには、税制だけ、ETFだけ、カストディだけを個別に議論しても足りない。松田氏は、税制改正と金商法改正をセットで進めることで、国内ビットコインETFと現物の暗号資産取引を同じ制度整備の中に位置付けようとしているのではないかとの見方を示した。

国内でビットコインETFが実現すれば、証券会社や銀行など、既存の金融チャネルを通じて暗号資産へのアクセスが広がる可能性がある。暗号資産交換業者に直接口座を開くことに抵抗がある層でも、大手金融機関を通じた商品であれば購入しやすくなるためだ。

一方で、国内ETFの実現時期や具体的な制度設計は、今後の法改正や当局のガイドライン次第となる。松田氏は、税率20%という点だけでなく、その先にあるETFや国内市場の整備まで含めて見る必要があると強調した。

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セミナー終盤には、冒頭で注文したピザが会場に到着。松田氏が「これがビットコインで買ったピザです」と紹介すると、会場は大きく盛り上がった。

その後、参加者はピザを囲みながら交流。最後はピザパーティーの熱気に包まれてイベントは締めくくられた。

|文・撮影:NADA NEWS編集部

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