三井住友もブラックロックも──暗号資産事業は減収、それでもなぜSBIは“オンチェーン金融”を攻めるのか【編集長コラム】

週の後半になると、編集長コラムのテーマを考えるのだが、最近はニュースがありすぎて悩むことが多い。今週も、書きたい話がいくつもあった。

アメリカの中間選挙では民主党が大きく議席を伸ばした。三菱UFJ銀行やJ.P. Morgan(JPモルガン)などは、トークン化した証券や預金を異なる取引基盤で扱うための共通標準づくりに乗り出した。

そしてSBIホールディングスは、上半期として過去最高の決算を発表した。

売上高は前年同期比17.2%増の1兆575億円。税引前利益は52.9%増の3243億円。親会社の所有者に帰属する中間利益も2306億円となった。その決算資料を眺めていて、1つだけ逆方向に動いている数字が気になった。

暗号資産事業だ。

売上高は前年同期比30.1%減の231億円。税引前損益は16億円の赤字だった。だが、SBIは今、暗号資産やオンチェーン金融から距離を置くどころか、むしろアクセルを踏んでいる。

三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は、円建てステーブルコイン「JPYSC」の普及を担うSBI Startale Marketingに出資することで合意した。世界最大級の資産運用会社BlackRock(ブラックロック)とは、JPYSCとトークン化MMFの連携を検討する基本合意を結んだ。

海外ではデジタルアセット取引所や決済網への投資を広げ、SBI新生信託銀行にステーブルコインの発行とデジタル資産のカストディ機能を集約しようとしている。

なぜ、足元の暗号資産事業が減収・赤字のときに、ここまで攻めているのか。

暗号資産事業とオンチェーン金融は同じではない

SBIの暗号資産事業には、SBI VCトレード、ビットバンク、機関投資家向け暗号資産マーケットメーカーのB2C2などが含まれる。暗号資産市場が低迷したり、取引量が減ったりすれば、業績に直接響く。実際、今回の上半期決算で暗号資産事業は減収、赤字となった。

一方、SBIが決算説明資料で「重点的に取り組んでいる戦略的施策」の1つとして掲げたのが、「SBI APACデジタル経済圏」の実現に向けたオンチェーン金融インフラの構築だ。

そこでは3つの柱が示されている。

●オンチェーン対応の取引所を国内外で整備すること。
●トークン化金融商品を国内外で流通させること。
●JPYSCを国内外で流通させること。

この3つだ。つまり狙っているのは、「暗号資産の売買を増やす」ことだけではない。銀行預金、ステーブルコイン、証券、投資信託、決済、カストディ、取引所を、ブロックチェーンを使って、つなぎ直そうとしている。

JPYSCは何のためのステーブルコインなのか

その中心に置かれているのがJPYSCだ。

6月に発行が始まった信託型の円建てステーブルコインで、資金移動業型のステーブルコインに課される送金・滞留100万円の上限を受けない。ただ、現時点では外部ウォレットへ自由に移して使える状態にはなっていない。

信託型ステーブルコインには、受益者が変わるたびに信託銀行が税務上の調書などを提出する制度があり、不特定多数のウォレット間を転々と流通する仕組みと相性が悪いからだ。

SBIは、この提出義務を不要にする措置を早期に適用するよう政府に求めている。

ここだけを見れば、「まずJPYSCを外で使えるようにしないと始まらない」という話になる。だが、SBIがJPYSCの周囲に並べ始めたプレイヤーを見ると、その先の狙いが見えてくる。

ブラックロックとつなぐのは「運用」

10月27日、SBIとスターテイルはブラックロックと、トークン化MMFとJPYSCの連携を検討する基本合意を結んだ。決算資料では、ステーブルコインでトークン化MMFを申し込み・償還することや、オンチェーンでの相互交換などが検討項目として示されている。

ステーブルコインというと、どうしても「支払いに使うお金」というイメージが先に立つ。

コンビニで払う。企業間で送金する。海外に送る。もちろん、それも重要だ。だがブラックロックとの連携が実現すれば、想定される用途は決済だけではないはずだ。

例えば、企業の余剰資金をトークン化MMFで運用する。支払いが必要になればJPYSCに戻す。そして取引先へ送る──。これがスムーズにつながれば、「運用するお金」と「使うお金」の境界はかなり薄くなる。

いま企業が銀行口座に置いている待機資金の一部が、支払いに使う直前までオンチェーン上の金融商品で運用されるようになるかもしれない。

三井住友とつなぐのは「顧客」

そして10月30日、SMFGがSBI Startale Marketingに5%出資することで合意したと発表した。

5%という数字だけを見ると、小さく見える。だが、SBI側の決算資料には、その先として「OliveへのJPYSC組み込みを目指す」と記されている。

ここでBlackRockとの役割の違いが見えてくる。

BlackRockは「運用商品」を持つ。SMFGは「顧客との接点」を持つ。SBIはJPYSCや証券、銀行、暗号資産取引所などの金融機能を持つ。スターテイルはオンチェーン金融の技術基盤を持つ。

これらがつながれば、JPYSCは単独のステーブルコインではなくなる。

顧客が金融サービスに入ってくるところから、資金を保有し、運用し、決済し、別の資産へ移すところまでをつなぐ「マネーのレイヤー」になり得る。

三井住友はなぜSBIとも組むのか

SMFGの動きも興味深い。

三井住友銀行は、三菱UFJ銀行、みずほ銀行などと、いわゆる「3メガ・ステーブルコイン」の共同発行に向けた取り組みも進めている。それなのに、SBIのJPYSCにも関わる。自行が発行体となるステーブルコインの検討も進めている。

一見すると、重複が多いように思える。だが、今の状況を踏まえると、合理的な判断かもしれない。

どのステーブルコインが主流になるのか。どのブロックチェーンが残るのか。銀行預金がどこまでトークン化されるのか。まだ誰にも分からない。であれば、1つの仕組みに賭けるより、複数のルートに接続しておいた方がいい。

発行だけでなく「保管」も押さえる

もう1つ見逃せない動きがある。SBI新生信託銀行とSBIクリアリング信託の合併計画だ。

SBI新生信託銀行はJPYSCを発行する。一方、SBIクリアリング信託は暗号資産の信託やカストディのノウハウを持つ。両社を統合し、SBI新生信託銀行を「デジタル金融領域の中核」と位置づける方針だ。

これによってSBIは、ステーブルコインを発行するだけでなく、各種デジタル資産やトークンの保管・管理まで提供できる体制を作ろうとしている。オンチェーン金融では、何を発行するかと同じくらい、「誰が安全に持つのか」が重要になる。

先週の編集長コラムで、バイナンスから約1兆円規模の資産が流出した事件を取り上げたばかりだ。

ブロックチェーンが安全でも、それだけでは金融サービスは安全にならない。カストディ、権限管理、ウォレット、システム運用まで含めた全体が必要になる。SBIの信託銀行再編は、その部分を取りに行く動きにも見える。

海外にも円を持っていく

SBIの視線は国内だけではない。

シンガポールの暗号資産取引所Coinhakoを傘下に入れ、JPYSCとUSDCやRLUSDなどのドル建てステーブルコインを組み合わせた円・ドルのクロスボーダー決済を目指す。

米国ではCross River Bankを傘下に持つCRB Groupとの提携を進める。さらに米国でJPYSCを流通させるため、米GENIUS法との制度上の同等性認定も視野に入れる。

SBIの資料には、「国境や通貨の壁を越えた取引こそSBI APACデジタル経済圏の核心」とある。

ここまで来ると、JPYSCを単なる「日本のステーブルコイン」と見るだけでは足りないのかもしれない。円をオンチェーン金融の世界へ持ち出すための道具として位置づけているように見える。

一方では「共通標準」を作る動きも

そして今週、もう1つ象徴的なニュースがあった。

三菱UFJ銀行、J.P. MorganのKinexys、HSBC、Societe Generale-FORGE、Standard Charteredの5つの大手金融機関が、シンガポールにGlobal Layer One Organisation(GL1 Org)を設立した。

目的は、トークン化した証券や預金を、異なる取引基盤の間でも扱えるようにするための共通標準を作ることだ。

本人確認が済んだ取引相手なのか。資産を移転してよい相手なのか。取引基盤の運営者は十分なリスク管理を行っているのか──。そうした情報やルールを、異なる金融ネットワーク間で共有できる仕組みを作ろうとしている。

これはSBIの動きと対立するものではない。むしろ、別の角度から同じ未来を見ているように思える。

SBIは、JPYSCを中心に自らの金融・決済・運用ネットワークを広げようとしている。三菱UFJ銀行やJ.P. Morganなどは、複数のネットワークをつなぐための共通標準を作ろうとしている。

オンチェーン金融の競争は、「どのブロックチェーンが勝つのか」だけではなくなった。

どのマネーを流すのか。どの資産とつなぐのか。誰が顧客との入口を持つのか。誰が資産を保管するのか。そして、異なる経済圏を誰がつなぐのか。

オンチェーン金融は(すでに何度も書いている気がするが)、次のフェーズに入っている。

暗号資産の次

こう考えると、SBIの暗号資産事業が上半期に30%減収だったことと、オンチェーン金融への投資を加速していることは、必ずしも矛盾しない。

銀行。証券。資産運用。信託。カストディ。ステーブルコイン。暗号資産取引所。そして海外の決済網。これらをオンチェーンでつなぐことができれば、収益源は「暗号資産を売買してもらうこと」だけではなくなる。

週末になると書くことが多すぎて困る、と冒頭に書いた。だが、今週のニュースを並べてみると、実は別々の話ではなかったのかもしれない。

SBIが攻めているのは、暗号資産市場そのものではない。銀行、証券、運用、決済、保管をつなぐ次の金融インフラだ。

そして大手金融機関はすでに、そのインフラのどこを握るのかを競い始めているように見える。

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|文:増田隆幸
|トップ画像:生成AIで作成

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