7月に公表された高市政権の「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)」には、資産運用立国の項目に「オンチェーン金融の推進」との文言が初めて盛り込まれた。
株式や不動産、預金といったあらゆる資産をデジタル化し、ブロックチェーン上で一体的に流通・取引する仕組みを指すオンチェーン金融。同方針の注釈にはその定義が書かれており、ステーブルコインやトークン化預金といった具体名も登場する。
この明記のきっかけとなったのが、今年3月に自民党内で発足した「次世代AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム(PT)」だ。発起人の平将明議員は当時から、伝統金融にブロックチェーンとAIエージェントが融合する世界観を示し、ホワイトペーパー作成を通じて国家戦略として打ち出す狙いを描いていた。
平氏は8月下旬、自身が会長代行を務める自民党の「ブロックチェーン推進議員連盟」の視察として、同議連の幹部でもある神田潤一議員らとともに米国のワシントンDCとニューヨークに赴いた。ブータンでのデジタルID戦略、ニュージーランドでのサイバー安全保障の調査を経て、最後に訪れた米国の地。目的は、日本に先駆けて進むオンチェーン金融の最前線を確認することだったという。
ドル建てステーブルコインUSDCを発行するサークル(Circle)社をはじめ、ブラックロック(BlackRock)やJPMorganなどの主要民間企業、さらに証券取引委員会(SEC)や商品先物取引委員会(CFTC)といった規制当局を精力的に巡った。NADA NEWSは9月10日、帰国した平氏に視察の成果と今後の展望を聞いた。
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——8月の海外出張について。ブータン、ニュージーランドを経て訪問した米国視察の背景は。
平氏: 今年の3月、自民党のデジタル社会推進本部の中に「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」を作った。私の問題意識で設立したPTで、木原誠二議員に座長を、村井英樹議員に事務局長を務めてもらい、5月19日に提言を公表している。
これは金融界や金融庁にも激震が走るくらい、結構衝撃的な内容だったと思う。提言にはトークン化預金やステーブルコインといった言葉が出てくるが、この分野では米国が最も進んでいることもあり、実際に自分の目で見ておこうと思ったことがきっかけだ。
——具体的にはどこを回ったのか。
平氏: ワシントンDCでは規制当局、具体的にはCFTCとSEC、米財務省、それから世界銀行とIMF(国際通貨基金)も訪問した。
ニューヨークへ移動後はCircleやJPMorgan、暗号資産関連の投資を進めるBlackRockに加え、米国で急速に存在感を増す予測市場のスタートアップであるKalshi(カルシ)やPolymarket(ポリマーケット)にも出向いた。ブロックチェーン分析企業のChainalysis(チェイナリシス)も訪問し、マネーロンダリング対策や被害資産の回復といった、健全な普及に向けた取り組みについても意見交換を行った。
——神田潤一議員も同行したと聞いている。
平氏: 今回は、自民党のブロックチェーン推進議員連盟としての視察であり、神田議員と私で赴いた。日本ブロックチェーン協会(JBA)幹部の皆さんも一緒で、StartaleでCEOを務める渡辺創太さんもニューヨークで合流している。

私や木原議員、神田議員らは、ブロックチェーン議連とAI・オンチェーン金融PT双方の幹部を兼ねている。現場での実態調査を担う議連と、党の正式な政策提言を取りまとめるPTが密接に連携することで、一体となって議論を加速させている。
「アクセスできることが投資家保護」
——木原議員と対談したYoutube配信にて、今回の視察を通じて「PTで立ち上げた方向性の正しさがよく分かった」と発言していた。そう感じた理由は。
平氏: 米国の規制当局や現場の人からも、我々の提言書に対して非常に関心を持ってくれていた。現在必要な論点は、全部この提言に書いてあると思う。
米国では実際にオンチェーン化が進んでいて、ステーブルコインは言うに及ばず、トークン化預金も研究段階ではなくもう実装段階から、さらに拡大するフェーズに入っている。MMF(マネー・マーケット・ファンド)も、トークン化MMFという形でオンチェーン化が当たり前になりつつある。それぞれの取り組みを聞いて、PTのホワイトペーパーは方向性も、網羅している範囲も正しかったと実感できた。
——CircleやJPMorgan、BlackRockを実際に訪問して、印象的だった点は。
平氏: 面白いのは、ステーブルコインのような新興企業と、BlackRockやJPMorganのような伝統的な金融事業者が、いい形で融合していること。
対立していない。日本のメガバンクを例に挙げると、「やらないとまずいからやっている」という印象があるけれど、向こうは違った。
ただ、JPMorganはすごく先進的でトークン化預金をどんどん進めていく一方、大きな銀行だけに行内には色々な意見があるという率直な話も聞けた。だから今なら日本もまだ、色んな形で巻き返せるという印象を受けた。
——規制当局の姿勢は。日本とは真逆だったという趣旨の発言も配信で聞いた。
平氏: 規制当局の人たちのテクノロジーに対する理解がものすごく深くて、一本芯が通っている。現場で何か起きて右往左往するというより、「こういう金融を目指すんだ」という信念を感じた。日本はどうしても受け身になりがちだが、向こうの規制をリードしている人たちは姿勢が違う。
米証券取引委員会(SEC)では、クリプトマム(暗号資産の母)の愛称で知られるヘスター・ピアース(Hester M. Peirce)委員と会談した。
ピアース氏は「(投資家一人一人からの)アクセスを担保することこそが投資家保護である」と言っていた。アクセスさせないのではなく、機会を確保することが投資家保護なのだと。あの国はやはり、どこまで行っても「自己責任の国」ということを実感したが、そうした信念を持ってやっているから動きが速いのだと思う。

日銀のボトルネック化を防げ
——ステーブルコイン規制法であるクラリティ法の進展については話題になったか。
平氏: 現在は、クラリティ法が通るか通らないかという話になっているが、これは、どの役所が何を分担するかがはっきりするための法律だ。
トランプ大統領が暗号資産で自身の資産を増やしていることに対し、議会の批判が絡んで揉めており、今の時点で通るかは見通せない。ただ、規制当局と話をした限りでは、法案が通らなくても次の手を考えており、大きなオンチェーン化の流れは止まらないと思うと話していた。
——視察を踏まえて、日本で最も重要だと感じている論点は。
平氏: 日銀の当座預金のトークン化だ。
トークン化預金にしても、銀行の中に閉じているので、銀行をまたぐ決済にはステーブルコインの役割が当然ある。しかし、日銀がちゃんとオンチェーン化に対応してくれないと、結局日銀が全体の足を引っ張ることになりかねない。PTが公表した提言では年内に検討状況を取りまとめて公表すべきだとしているが、もう少し解像度を上げて、スケジュールを作ってもらう必要があると考えている。

——そこまで重要な理由は。
平氏: EUはCBDC(中央銀行デジタル通貨)を着々と進めているし、中国はデジタル人民元に独自路線で突き進んでいる。一方で米国はドルに連動したステーブルコインがかなりの存在感を示している。
では日本はどうするのかと言われたときに、財務省も日銀も、「遅れをとらないように頑張ります」としか言っていない。これでは世界に遅れを取る。放っておけばデジタル人民元やドルのステーブルコインに浸食される可能性がある。
アジアで存在感を示す
——「AI・オンチェーン金融PT」に関して。今後の提言発表のスケジュールは。
平氏: 年内にもう1回くらいはやらなければいけないのかなと思っている。5月の提言は決済の方に主軸を置いたが、次回はアセットサイド、つまり証券や投資信託などの資産のオンチェーン化をさらに深掘りしたい、と木原誠二座長も言っている。
あとはウォレットやウォレット事業者についても議論しなければいけない。大きな提言は年に1回にしても、追加提言というやり方で進めていかないといけないと思っている。
——PTの提言が、7月の骨太の方針にも反映された。ただ、オンチェーン金融の定義の中にDeFi(分散型金融)や予測市場といった言葉は入っていなかった。
平氏: そもそもオンチェーン金融が何かを理解している国会議員がどれだけいるか、というレベルなので、いきなりDeFiや予測市場を入れるともっと揉める。

我々の関心事は、伝統的金融とブロックチェーン、クリプトの融合に、AIエージェントが掛け合わさってくる世界観。そこが一番の本流だ。DeFiだけを目指しているわけでは決してないし、予測市場もその中の大きなエコシステムの一つに過ぎない。
これまで暗号資産やクリプト、Web3といったワードが出てきたが、それを一旦「オンチェーンという言葉で括り直した」ということだ。アジアの中で日本が存在感を示すためにも、円という通貨の使い勝手を良くするためにも、非常に重要なテーマだと思っている。
かなり息の長い、大きな仕事になるので、理解する政治家も増やしていかなければいけない。また、役所の尻を叩いて、必要な規制のデザインをスピードアップして進めていく必要がある。このPTの動きには、今後も注目してほしい。
|取材・文:橋本祐樹
|トップ写真:米国視察の成果を語った自民党の平将明議員(撮影:平木昌宏)
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