米国株を買うために、もう夜更かししなくていい。
SBI証券や楽天証券などネット証券大手5社が、米国株を日本の日中にも売買できるようにすると日本経済新聞が12日、報じた。
これまで米国株をリアルタイムで取引しようと思えば、日本では夜になった。
米国市場が開くのは、日本時間の午後10時30分(夏時間)か午後11時30分(冬時間)。ニューヨーク市場のオープニングを見届けようとすると、どうしても夜更かしになる。
それが変わろうとしている。背景にあるのが、米国で進む株式市場の取引時間延長だ。
ナスダックは、米国株などの取引時間を平日1日23時間に延長する計画を進めている。SEC(米証券取引委員会)は今年4月、ナスダックの23時間取引に向けたルール変更を承認。2026年12月の開始が予定されている。
現在のナスダックの取引時間は、米東部時間の午前4時から午後8時まで。そこに午後9時から翌朝4時までの「夜間」を加える。午後8時から9時までの1時間だけをシステム処理などのために休み、残る23時間は取引できる市場になる。
日本から見れば、この「米国の夜間」が、ちょうど昼間にあたる。
株式市場から「営業時間」が消えていく
コンビニは24時間営業、インターネットも24時間動いている。
だが、株式市場には、朝に始まり、夕方に終わる、といった営業時間がある。もちろん、理由はある。
取引が終われば、その日の取引を処理しなければならない。売買された株式とお金を受け渡すための清算・決済が必要だ。企業が配当や株式分割を行えば、その処理も必要になる。
ナスダックも1時間の休止時間を設け、システム処理や次の取引日への移行などに使う。だが、「市場は夜になったら閉まる」という常識は崩れ始めている。
ナスダックだけではない。ニューヨーク証券取引所(NYSE)傘下のNYSE Arcaや、米大手取引所Cboeも同じ方向に進んでいる。
なぜ、取引時間を延長するのか? 理由は、米国株がもはや「米国人が取引する株」ではないからだ。東京の投資家も、シンガポールの投資家も、ロンドンの投資家も米国株を買う。
これまでは、世界中の投資家がニューヨークの時計に合わせてきた。これからは、市場の方が世界中の時計に合わせるようになる。
クリプトでは、すでに当たり前だった
クリプトでは、24/365は当たり前だ。ビットコイン市場に営業時間はない。土曜日の朝でも、日曜日の深夜でも取引できる。ゴールデンウイークだから市場が休み、ということもない。
ブロックチェーンは24時間365日動いている。だから株式市場もオンチェーン化が進み、いずれ24/365になる、という単純な話ではない。
株式には発行企業があり、取引所があり、証券会社があり、清算・決済機関がある。市場を長時間動かすには、そうしたインフラも一緒に対応しなければならない。
それでも、「いつでも取引できる市場」は、もはやクリプトだけの世界ではなくなりつつある。
上場する企業にも国境がなくなる?
そして、23時間取引でもう一つ気になるのが、株式を発行する企業への影響だ。
今年3月、PayPayは米ナスダックに上場した。日本を代表する決済サービスの一つが、日本ではなく米国の株式市場を上場先に選んだ。
もちろん、一社の事例だけで「日本企業が米国市場へ向かっている」と一般化することはできない。だが、象徴的な出来事であることに間違いはない。
さらに興味深いことは、米国に上場したからといって、日本の個人投資家から遠い存在になったわけではなかったことだ。
PayPayのIPOでは日本国内でも売り出しが行われ、PayPayアプリから申し込むことができた。多くの人が日常的に使っているアプリが窓口となった。
企業は米国に上場する。
投資家は日本にいる。
その間を、スマートフォンのアプリがつないだ。
米国市場は、ますます「世界の市場」になる
23時間取引が始まれば、米国市場はさらにグローバルな市場になるだろう。
日本の投資家は日本の昼間に取引する。欧州の投資家は欧州の昼間に取引する。米国の投資家は米国の昼間に取引する。
市場の時間に人間が合わせるのではなく、人間の時間に市場が合わせる。そうなれば、世界中の投資家を引きつける米国市場の求心力は、さらに高まっていくはずだ。
そして、世界中の投資家が集まる市場には、世界中の企業も集まる。日本企業にとっても、「どこに上場するのか」という選択は、これまで以上に重要になるだろう。
7月、このコラムで「お金が24時間動き出したら、人間はいつ眠るのか」と書いた。
金融が24時間動くようになれば、そこで働く人たちの負担も増えるのではないか、という話だった。今回は、同じ「24時間化」の別の側面が見える。
市場が23時間開いているからといって、人間まで23時間、市場を見続ける必要はない。むしろ逆だ。
市場の時間に人間が合わせるのではなく、人間の時間に市場が合わせる。そして、企業も投資家も、ますますボーダレスになっていく。
そう考えると、次に気になるのは、市場を支えるインフラだ。
取引時間を23時間に延ばしても、その裏側では証券会社、取引所、清算・決済機関などが動いている。市場をさらに長く、世界中から使えるものにしようとすれば、こうした仕組みも変わっていく必要がある。
ブロックチェーンは最初から24時間365日動くことを前提としている。米国では株式のトークン化をめぐる動きも始まった。
23時間市場はゴールではないだろう。
|文:増田隆幸
|トップ画像:生成AIで作成


