暗号資産の税制改正を巡る議論が、大きく前進している。
BCCC(ブロックチェーン推進協会)のXスペース「BCCC Blockchain Lounge」では、自民党税制調査会インナーを務める井林たつのり衆議院議員を迎え、暗号資産税制改正の現在地や20%分離課税の実現時期、損失繰越、さらに日本版ビットコインETFの可能性について議論した。筆者は、今回のファシリテート役として参加したので、記事にしようと思う。
今回の対話で印象的だったのは、単に「暗号資産の税率を下げる」という話にとどまらなかったことだ。
そもそも税制調査会は何を議論する場所なのか。税金は何のために存在するのか。そして、制度を整備することでビットコインやステーブルコインなどのデジタル資産を実体経済の活性化につなげられるのか。
暗号資産政策は「投資家の税負担」の議論から、「日本にデジタル資産市場をどう作るのか」という次の段階へ入りつつある。
暗号資産の分離課税、具体的には2028年1月から
井林氏によると、令和8年度税制改正により、改正金融商品取引法の施行を前提として、一定の暗号資産取引に申告分離課税が適用されることになる。

対象となるのは、居住者などが暗号資産取引業者の取り扱う一定の暗号資産を、暗号資産取引業者に対して譲渡等した場合だ。
注目されるのが、その適用時期である。
分離課税の適用は「改正金融商品取引法の施行日の翌年1月1日から開始」とされており、具体的には2028年1月1日からの適用が見込まれている。
現在、個人の暗号資産売却益は原則として雑所得となり、給与所得などと合算する総合課税の対象となる。
これが株式などと同様に20%程度の申告分離課税となれば、日本の暗号資産投資環境にとって大きな転換点となる。
ただし、重要なのは「すべての暗号資産取引が一律20%になる」という単純な制度ではないという点だ。
対象となる暗号資産や取引の範囲は、改正金融商品取引法による制度整備と連動することになる。
したがって、今後は「20%になるか」だけではなく、「どの暗号資産、どの取引が分離課税の対象となるのか」も重要な論点になる。
損失は3年間の繰越控除へ
もう一つ重要なのが、損失の取り扱いだ。
分離課税の対象となる暗号資産取引によって発生した損失については、3年間の繰越控除が認められることになる。
これは暗号資産投資家から長年求められてきた制度の一つだ。
例えば、ある年に大きな損失を出し、その翌年に利益が発生した場合、前年の損失を繰り越して翌年以降の利益から控除できる。
価格変動の大きい暗号資産においては、単に税率が下がることと同様に重要な制度変更といえる。
税率だけでなく損失の扱いも含めて、暗号資産投資を取り巻く税制が既存の金融商品に近づいていくことになる。
まだ残る「損益通算」という論点
一方、今回の税制改正ですべての問題が解決するわけではない。
その代表的な論点が、レンディングやステーキング報酬との損益通算だ。
例えば、暗号資産の売買で損失が発生する一方、保有する暗号資産をレンディングしたり、ステーキングしたりすることで報酬を得るケースがある。
暗号資産の譲渡損益が分離課税となっても、レンディングやステーキング報酬が総合課税・雑所得として扱われれば、両者は課税方式や所得区分が異なる。
同じ暗号資産から生じた損益であっても、そのまま相殺できるとは限らない。
こうした異なる所得区分をまたいだ損益通算については、特例を設けることの是非も含め、慎重な検討が必要となる。
20%分離課税は大きな前進だが、暗号資産税制にはまだ次の論点が残されている。
そもそも税制調査会は何を決めているのか
今回のスペースでは、個別の税率だけでなく、自民党税制調査会が果たす役割についても議論した。
税金には、国や自治体が公共サービスを提供するための財源を確保する役割がある。
しかし、税制にはもう一つ重要な側面がある。
どの経済活動を促し、どのような産業を育て、社会や経済をどの方向へ導いていくのかという政策手段としての役割だ。
税率や控除制度を変えれば、人や企業の行動も変わる。
設備投資を促す税制もあれば、企業の研究開発や新しい産業への投資を後押しする税制もある。
暗号資産税制についても、「投資家の税負担をどこまで軽くするか」という一点だけで捉えるべきではない。
制度を変えることによって、日本に資金や企業、人材を呼び込み、新しい経済活動を生み出せるのか。
そこまで含めて考える必要がある。
「20%になったから終わり」ではない
暗号資産業界では長年、20%分離課税を求める声が強かった。
しかし今回の議論から見えてきたのは、分離課税の実現はゴールではなく、その先が問われるということだ。
税制を整備して投資しやすい環境を作ったとしても、それだけで日本経済が成長するわけではない。
ビットコインをはじめとする暗号資産や円建てステーブルコイン、トークン化された資産、ブロックチェーンを使った金融サービスが、実際の企業活動、決済、送金、資金調達、資産運用などにつながって初めて、税制改正の経済的な意味が生まれてくる。
今回の対話でも、制度整備を契機としてデジタル資産が実体経済を活性化する存在になってほしいという期待が語られた。
これは非常に重要な視点だ。
税制によってデジタル資産市場への入口を広げ、その資金を実際の経済活動へ循環させられるか。
政策側が制度を動かすのであれば、次は業界側がその環境をどう活用するのかが問われる。
ビットコインからステーブルコイン、そして実体経済へ
日本では、暗号資産を取り巻く制度整備と並行して、ステーブルコインの社会実装も着実に進み始めている。
その活用領域は、決済や送金にとどまらない。企業間取引、金融サービス、地域経済、インバウンドなど、ブロックチェーン上のデジタル資産と実体経済を接続する可能性は、今後さらに広がっていくだろう。
20%程度の申告分離課税が実現し、暗号資産市場への参加障壁が下がれば、国内の投資家や事業者にとって、デジタル資産を活用しやすい環境が整うことになる。
一方で、税率を引き下げた結果、暗号資産の売買だけが増え、国内産業や実体経済に十分な価値が還元されなければ、制度改正の意義は限定的なものになってしまう。
「20%になったから良かった」で終わるのではなく、その制度を活用して、日本にどのような産業や新しい経済活動を生み出すのか。税制改正と産業政策を一体として考えることが重要である。
また、JPYCの岡部典孝氏を交えた、日本円ステーブルコインによる納税の可能性に関する議論も非常に興味深かった。
井林氏は、JPYCのような日本円建てステーブルコインを納税に活用することについて、今後検討すべき課題の一つであるとの認識を示した。
日本円ステーブルコインによる納税が実現すれば、ステーブルコインは単なる決済手段ではなく、行政や税務を含む社会インフラの一部へと発展する可能性がある。
ビットコインへの投資環境を整え、ステーブルコインを決済や納税、企業活動へつなげ、その価値を実体経済へ循環させる。日本のデジタル資産政策には、こうした一連の流れを見据えた制度設計が求められている。
そして次の焦点は「日本版ビットコインETF」
税制改正と並んで、今後の日本のデジタル資産市場を考えるうえで注目されるのが「日本版ビットコインETF」である。
海外ではすでに暗号資産ETFが上場し、取引が拡大している。
日本では現時点でビットコイン現物ETFは上場していないが、今回の議論では、日本における暗号資産ETFの可能性にも話が及んだ。
ポイントは、ETFだけを単独で解禁するという話ではないことだ。
まず暗号資産そのものについて利用者保護を充実させ、金融商品として扱うための制度環境を整える。
そのうえで、日本でも暗号資産ETFを解禁する方向で検討していくという流れだ。
つまり、20%分離課税と日本版ビットコインETFは、まったく別々の政策ではない。
暗号資産を金融市場の中に位置づけ、投資家保護を整備し、税制や投資商品の選択肢を既存の金融資産に近づけていくという、大きな制度改革の延長線上にある。
「20%分離課税+ビットコインETF」が日本市場を変える可能性
もし一定の暗号資産取引への20%程度の分離課税と、日本版ビットコインETFが実現すれば、日本の投資環境は大きく変わる可能性がある。
現在、国内でビットコインへ直接投資する場合、暗号資産交換業者を通じて現物を購入する方法が中心となる。
一方、ビットコインETFが解禁されれば、証券市場からビットコイン価格へのエクスポージャーを持つという新しい選択肢が生まれる。
暗号資産交換業者の口座を新たに開設するのではなく、既存の証券市場の仕組みの中でビットコインへアクセスできるようになれば、これまで暗号資産市場へ入りにくかった投資家にとっても新しい入口となり得る。
さらに、国内の金融機関や資産運用会社にとっても、デジタル資産を既存の金融商品の枠組みの中で扱う可能性が広がる。
だからこそ、日本版ビットコインETFの議論は単なる「新しい投資商品を一つ増やす」という話ではない。
日本の伝統的金融市場とデジタル資産市場をつなぐ制度的な橋になる可能性がある。
税制改正とETF、その先に何を作るのか
ここで、今回の議論のテーマが一本につながってくる。
20%分離課税によって、暗号資産を保有・取引する環境を変える。
損失の3年間の繰越控除によって、投資環境を既存の金融商品に近づける。
改正金融商品取引法によって、利用者保護や市場ルールを整える。
さらにその先で、日本版ビットコインETFの可能性を広げる。
そしてステーブルコインやトークン化資産を、決済や企業活動など実体経済へつなげていく。
個別に見ると別々の政策に見えるが、大きく捉えれば、日本にデジタル資産市場を構築するための制度整備としてつながっている。
ただし、制度を作れば自動的に産業が成長するわけではない。
国内に資金、人材、企業を呼び込み、金融サービスを生み出し、それを日本経済の成長へつなげるのは民間側の役割でもある。
政策側が動き始めたからこそ、これからは業界側の実行力も問われることになる。
2028年、「20%分離課税+日本版ビットコインETF」は実現するか
一定の暗号資産取引への分離課税は、改正金融商品取引法の施行を前提に、2028年1月1日からの適用が見込まれている。
対象となる取引で発生した損失については、3年間の繰越控除も認められることになる。
そして、その先に注目されるのが日本版ビットコインETFだ。
暗号資産の利用者保護を強化する。
金融商品としての制度を整える。
税制を既存の金融商品に近づける。
そして、ETFという新しい投資経路を作る。
これらが実現すれば、日本の暗号資産市場はこれまでとは異なるステージへ入る可能性がある。
しかし、本当に重要なのは、「税率が20%になった」「ETFが買えるようになった」ということではない。
制度が整った結果として国内に資金、人材、企業、サービスが集まり、それが実体経済の成長へつながるのか。
ビットコインやステーブルコインを単なる「投資対象」で終わらせず、日本経済の新しい金融インフラ、そして新しいデジタル資本としてどう活用していくのか。
今回の井林氏との議論から見えてきたのは、暗号資産政策が「税金をどうするか」という議論から、「日本にデジタル資産市場をどう作るか」という次の段階へ進み始めていることだ。
20%分離課税も、日本版ビットコインETFもゴールではない。
その制度を使って、日本がどのような新しい経済を作るのか。
むしろ、そこからが本当のスタートになる。
自民党税制調査会インナーの井林たつのり衆議院議員を迎えた今回の議論は、Xスペースのアーカイブで聞くことができる。
https://twitter.com/i/spaces/1kJzDDjEjQdKv?s=20
ショート動画
暗号資産20%分離課税は2028年1月から──次は「日本版ビットコインETF」へ
https://youtube.com/shorts/ddB_aHKsRl8


