IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWSは7月1日、パネルセッション「ウォレットは、次世代スーパーアプリの本命か」を開催した。
セッションには、au Coincheck Digital Assets(auコインチェックデジタルアセッツ)代表取締役社長の笠井道彦氏、PayPay金融戦略本部副本部長の神宮司有樹氏、LINE NEXT(ラインネクスト)日本事業リーダーの李眞榮氏が登壇。NADA NEWS記者の橋本祐樹がモデレーターを務めた。
ステーブルコインやトークン化資産、AIエージェントによる取引が広がれば、利用者がオンチェーン金融に触れる入口としてウォレットの重要性は高まる。議論の中心にあったのは、ウォレットが暗号資産(仮想通貨)やNFTを保管するためのツールから、決済、資産管理、ID、コミュニティまで取り込む次世代のユーザー接点になれるのかという問いだった。
ウォレットの役割は「保管」から「現実の利用」へ

笠井氏は、ウォレットの役割が大きく変わりつつあると指摘した。
これまでウォレットは、暗号資産やNFTを格納し、保存しておくものというイメージが強かった。しかし、ステーブルコインの活用や、現実資産のトークン化が進めば、ウォレットは単なる保管先ではなく、日常的な取引や決済を支える接点になっていく。
「単純に保管していくというところから、いろんな現実の利用というところにウォレットの機能が広がってきている」
笠井氏はそう述べたうえで、AIエージェントの普及もウォレットの重要性を高める要因になると説明した。AIが人の代わりに取引したり、AI同士が取引したりする時代には、AIに銀行口座の情報をすべて渡すことは難しい。その代替として、ウォレットとステーブルコインを組み合わせた決済が注目されるという。

au Coincheck Digital Assetsは、KDDI、auフィナンシャルホールディングス、コインチェックが設立した合弁会社だ。ブロックチェーンを活用した次世代金融事業の推進を目的としており、2026年夏に暗号資産ウォレットを中核事業として提供する予定としている。
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笠井氏は、通信キャリアの役割についても触れた。通信会社は、これまでもインターネット上の認証、決済、コンテンツ利用などを一般利用者につなぐ役割を担ってきた。SNSや動画配信など新しいデジタルサービスが登場した際にも、分かりにくさや利用料金の不安を取り除き、利用しやすい形にして届けてきたという。
オンチェーン金融でも同じ構図がある。利用者にとって、ステーブルコインをどう持つのか、ウォレットをどう使うのか、秘密鍵をどう管理するのかはまだ分かりにくい。笠井氏は、そうした難しさを意識させず、サービスの裏側にウォレット機能を溶け込ませることが重要だとした。
「ウォレットを使っているという感覚というよりは、いろんなサービスで送金がすごく早くなっているとか、手間がすごく減っている。その裏側で動いているようなものになるといい」と述べた。
暗号資産に対する「怖さ」をどう消すか

PayPayの神宮司氏は、Web3領域に取り組む理由について、同社がスーパーアプリを目指すなかで、Web3だけが未接続の領域だったと説明した。
PayPayは2025年、Binance Japan(バイナンスジャパン)に40%出資した。神宮司氏は、同社との連携を通じて、暗号資産をより身近に使える体験をつくる考えを示した。
神宮司氏が強調したのは、暗号資産の購入、売却、送金に対する利用者の不安だ。
暗号資産交換業者に銀行振込で資金を送る場合、振込名義の変更や銀行側の審査など、利用者にとって分かりにくい手続きが発生することがある。神宮司氏は、こうした体験が「自分のお金はどこに行ってしまったのか」という怖さにつながると話した。
PayPayとBinance Japanの連携では、PayPayのウォレットを介して暗号資産を購入したり、Binance側にPayPay残高を移して、相場を見ながら好きなタイミングで購入したりできる体験を目指している。
「ユーザーの皆様にとって不安を与えない。ちゃんとお金がどこにあるか分かる。即時で決済される。買ったら自分のウォレットに即時で反映される。売ったら自分のウォレットに反映される。そういうシンプルな体験を作っていこうとしている」
一方で、PayPayアプリ内で暗号資産の売買や運用まで完結させる構想については、慎重な姿勢も示した。神宮司氏は、PayPayが日常の買い物やタクシー利用などで使われる決済アプリであり、暗号資産を買うためだけに開かれるアプリではないと指摘した。
そのため、PayPay上にWeb3機能を載せる場合には、顧客適合性や年齢制限、リスク説明などを丁寧に設計する必要があるという。
「PayPayを使ってリスク資産に手を出してしまい、ユーザーの皆様の財産を傷つけることになれば、二度とPayPayを使ってくれなくなる怖さがある。エンジンとブレーキのバランスが重要だ」と語った。
LINE上の「Unifi」でJPYCを日常の支払い手段に

LINE NEXTの李氏は、LINEアプリ上で使えるWeb3ウォレット「Unifi(ユニファイ)」と、LINEミニアプリ版「Unifi mini」を軸に、ウォレットのマスアダプションを進める考えを示した。
Unifi miniは、LINEアプリ内で利用できるミニアプリとして提供されている。ユーザーは新しいウォレットアプリをインストールする必要がなく、LINEアカウントにひもづいたウォレットを作成できる。李氏は、MetaMask(メタマスク)などの外部ウォレットを知らない一般利用者でも、LINEアプリを起点にウォレットを利用できる点を強調した。
李氏が特に重視するのが、日本円ステーブルコイン「JPYC」との連携だ。暗号資産は価格変動が大きく、一般利用者には投資対象としてのイメージが強い。これに対し、日本円と連動するJPYCは、日本円と連動するステーブルコインとして、決済・送金・リワードなどで日常利用につながるデジタル資産になり得るという。
「デジタル資産を単なる保管と管理だけではなく、日常生活で実際に使えるようにする。そのための通貨として、ステーブルコイン、JPYCを採択している」
李氏は今後の展開として、JPYCを持つユーザーが海外に行った際、複雑な両替をせずに現地のオンライン加盟店などで使える世界も視野に入れると説明した。日本国内だけでなく、各国のステーブルコインと連携したウォレット提供も構想しているという。
AIエージェント時代にウォレットはどう変わるか

ウォレットの将来像を考えるうえで、AIエージェントも大きな論点になった。
笠井氏は、AI同士が取引したり、人の代わりにAIが取引したりする未来について「遠い将来ではなく、今起こっていてもおかしくない」と述べた。神宮司氏も、AIによる取引は「絶対にやってくるし、目先の話だ」とし、準備の必要性を指摘した。
李氏は、AIがユーザーの資産運用やトランザクション処理を裏側で担うようになっても、利用者には「自分が意思決定している」という安心感が必要だと語った。
たとえば、AIエージェントがLINEの友だちのように存在し、資産運用の提案を行う。意思決定が必要な場面では、LINE上のメッセージでユーザーに確認し、ユーザーが普段使い慣れた動作で承認する。李氏は、こうしたUXを例に挙げ、ブロックチェーンやAIを意識しなくても使える設計が重要だとした。
「技術自体はプログラムもAIも見えないところでシームレスに処理していても、表面的には自分が一番慣れている動作で承認し、意思決定しているという認識を持ってもらうことが大事」と語った。
一方で、AIがどこまで自律的に取引できるのか、利用者がどこで承認すべきなのか、責任分界をどう設計するのかは今後の課題になる。便利さだけを追求すれば、利用者保護とのバランスを欠く可能性もあるからだ。
海外プラットフォームは日本にとって脅威か

議論の終盤では、海外の巨大プラットフォーマーが提供するウォレットや決済サービスに、日本勢がどう向き合うかもテーマになった。
Xは6月25日より、米国の一部利用者向けに「X Money(Xマネー)」の提供を始めている。現時点では暗号資産対応ではなく、法定通貨ベースの個人間送金などから始まっており、将来的に暗号資産やステーブルコインとどう接続するかは注目されるところだ。また、MetaMaskのような海外発のウォレットも、すでにWeb3領域で大きな存在感を持つ。
笠井氏は、金融や決済はデータのやり取りである以上、グローバルプレイヤーが大きな存在感を持つ可能性はあるとし、実際にはローカルな要素も強く残ると指摘した。各国には強い決済手段、有力な金融機関、地域ごとの規制や加盟店網がある。ステーブルコイン決済でも、店舗との関係や法規制、商習慣まで含めた体験設計が必要になるためだ。
「金融や決済に対して、ローカルな部分がすごく残っていく。日本という中で、全体の体験として設計していける部分、そこで競争していける部分はある」
神宮司氏も、海外プラットフォームは脅威だとしながら、日本の利用者に受け入れられるには安心、安全、信頼、自然な日本語UXが欠かせないと述べた。海外サービスを日本語に翻訳しただけでは、微妙な使いづらさが残り、マスには届かないという。
同氏は、暗号資産やWeb3サービスについても「実家にいるおじいちゃんやおばあちゃんに安心して使ってもらえるサービスにしなければならない」と表現した。分かる人だけが使えばいいという発想では、PayPayが抱える大衆的なユーザー接点には合わないという考えだ。
李氏は、Unifiの差別化として、単独のウォレットではなく、パートナー企業と連携したエコシステムを挙げた。ポイント活動、ゲーム、リワードとしてのJPYC獲得、保管、管理、運用、消費までをつなぐ循環を作ることが目標だという。
日本のユーザーにとって、ポイントやリワードを起点にした利用体験はなじみがある。李氏は、こうした日本独自の利用文脈を生かせば、海外の巨大ウォレットやグローバルな流れに対しても、独自の道を探れるとの見方を示した。
|取材・文・撮影:NADA NEWS編集部


