(自身の日経新聞コメントを解説)本当に売っているのは誰なのか──ビットコインETFから47億ドル流出【エックスウィン】

● 2026年5月15日以降、米国現物ビットコインETFから約47億ドルが流出したが、その中心は長期投資家ではなくヘッジファンドやブローカーなどの戦術的資金とみられる。
● 今回の流出は2024年のGBTC売りとは異なり、BlackRockのIBITが最大の流出源となっている。一部では裁定取引解消だけでなく、大口投資家による方向性ポジションの売却も示唆されている。
● 現在の市場の問題は「売り圧力」よりも「買い手不足」であり、ETFフロー、Coinbase Premium、機関投資家需要の回復が今後の重要な観測ポイントとなる。

筆者は、『エックスウィンの荒沢文寛社長は「ヘッジファンドなど短期筋を中心に、ビットコインから他の投資機会へ資金を移す動きが活発」と指摘する。」と日経新聞(2026年6月)にコメントさせてもらった。それについて詳しく解説をする。

2026年に入り、ビットコイン市場は厳しい調整局面が続いている。価格は年初から大幅に下落し、米国現物ビットコインETFからは4週連続で資金流出が発生している。

市場では、「機関投資家がビットコインを見捨てた」という声も聞かれる。

確かに数字だけを見るとそう見えるかもしれない。しかし実際にETFフローや機関投資家データを詳しく分析すると、見えてくる景色は少し違う。

今回市場から資金を引き揚げているのは、長期投資家ではなく、ヘッジファンドやブローカーを中心とした短期資金である可能性が高いのだ。

そして、この違いは今後のビットコイン市場を考える上で非常に重要な意味を持つ。

まず理解しておきたいのは、ヘッジファンドは一般投資家や年金基金とは目的が異なるということである。彼らの目的はビットコインを長期保有することではない。最も効率良く利益を上げることだ。

2024年から2025年前半にかけては、ビットコインETFとCME先物の価格差を利用した裁定取引(ベーシス取引)が非常に魅力的だった。ETFを買い、同時に先物を売ることで比較的低リスクな利益を得ることができたため、多くのヘッジファンド資金がビットコインETFへ流入した。

しかし2026年に入ると状況は変化する。価格差は縮小し、裁定取引の利益率は低下した。さらに市場ではAI関連銘柄や大型IPOなど、より高いリターンが期待できる投資先が増え始めている。

ヘッジファンドにとって重要なのは、「ビットコインが好きかどうか」ではなく、「どこが最も儲かるか」である。

そのため、一部のヘッジファンドはビットコインETFのポジションを縮小し、他の投資機会へ資金を移している可能性がある。

実際、5月15日から6月5日までの約3週間で、米国現物ビットコインETFからは約46.8億ドルもの資金が流出した。これは2026年最大級の流出であり、市場心理を大きく悪化させる要因となった。

特に注目すべきは、今回の流出の中心がGBTCではなくIBITだった点である。2024年初頭のETF流出は、主にGBTCからIBITやFBTCへの乗り換え需要だった。高コストのGBTCを売り、低コストETFへ移動する動きだったため、市場全体から資金が抜けたわけではなかった。しかし今回はIBITだけで約34億ドル超の流出となっており、全体流出の約74%を占めている。

つまり今回は単なる商品の乗り換えではなく、より広範な投資家によるポジション縮小が起きている可能性が高い。

では誰が売ったのか。

現時点で最も有力なのは、ヘッジファンドやブローカー、トレーディング勘定などの戦術的マネーである。

添付資料、CoinSharesがまとめたQ1 2026の13F分析によると、プロ投資家全体のビットコインETF保有は前四半期比17%減少した。その削減の大半をヘッジファンドとブローカーが占めていた一方で、アドバイザーや銀行、政府系機関の保有は比較的安定していた。もちろん13Fデータには約45日のタイムラグがあり、今回の5月後半以降の売りを直接確認できるわけではない。

Bar chart of U.S. professional investors' Bitcoin ETF holdings by category (Advisors, Hedge funds, Banks & brokerages, Endowment/government/pensions, Other) from 2025 Q1 to 2026 Q1, showing a steady rise. (CoinShares data)

それでも、「長期投資家が逃げた」というより、「短期資金が縮小していた」という市場構造は見えてくる。

今回の分析で最も興味深いのは、5月26日に発生した約12.6億ドル規模のIBITブロック売りである。市場では当初、「ヘッジファンドによる裁定取引の解消ではないか」

という見方が広がった。裁定取引とは、ETFを買いながら同時にCME先物を売り、その価格差から利益を得る戦略である。もし裁定取引の解消なら、ETFを売ると同時に先物ポジションも反対売買されるため、CME先物市場の出来高も大きく増えるはずだ。

ところがNYDIGは、その時間帯に対応する異常な先物出来高の増加を確認できなかったと指摘している。

つまり今回の売りは、「裁定取引をやめただけ」ではなく、「ビットコインへの投資そのものを縮小した大口投資家」が含まれていた可能性が高いということだ。

一方で、長期投資家が市場を見放したという証拠も見当たらない。Morgan Stanley、Merrill、Schwab、Fidelityなどの大手金融機関は、2025年後半から2026年にかけて暗号資産ETFへのアクセスを拡大している。

またRIA(投資アドバイザー)による採用も継続している。

もし本当に長期投資家がビットコインを見限っているなら、こうした金融機関が販売体制を強化する理由はないだろう。

さらに市場指標を見ると、現在の問題は「売り圧力」よりも「需要不足」であることが分かる。

Coinbase Premiumは大幅なマイナス圏にあり、米国投資家の現物需要は弱い状態が続いている。Fear & Greed Indexも恐怖圏に沈み、ETF流出と整合的な動きを示している。

つまり今の市場は、「みんなが売っている」のではなく、「新しい買い手がいない」状態なのである。

筆者は今回のETF流出を、ビットコイン市場の崩壊シグナルとは見ていない。

むしろ2024年以降に流入したヘッジファンドや戦術的資金が整理されている局面と考えている。今後の最大の注目点は、

・ETF流出が止まるか
・Coinbase Premiumが改善するか
・次回13Fでアドバイザー保有が増加するか
・ヘッジファンドの売却ペースが鈍化するか

Line and bar chart titled Bitcoin: Coinbase Premium Gap, showing Bitcoin price in USD and Coinbase premium gaps over time, with red negative bars and green positive bars.

の4点である。

短期的には厳しい相場が続く可能性が高い。しかし現時点のデータを見る限り、市場全体がビットコインを見放したわけではない。今回起きているのは「長期投資家の降伏」ではなく、「短期資金の撤退」である可能性が高い。

そして歴史的に見ると、多くの弱気相場は、こうした短期資金の整理が終わった後に新たなサイクルへと移行してきたのである。

■ショート動画

(日経新聞でコメント)本当に売ったのは誰だ?-ビットコインETFから47億ドル流出
https://youtube.com/shorts/rkKp4NNh6uU

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