AIエージェントが拓くWeb4の未来──ブロックチェーンは「機械のための銀行」になる【アニモカ会長・ヤット・シウ氏来日インタビュー前編】
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5月中旬、NFTやメタバースを活用したデジタル資産の企画・開発などを手掛けるアニモカ・ブランズの共同創業者兼会長、ヤット・シウ(Yat Siu)氏が来日した。今回の来日の目的は、AIとブロックチェーンをめぐる関係者との面会や、今後の事業戦略に関する議論だったという。

NADA NEWSは5月16日、来日中のシウ氏に独占取材を行った。インタビューでは、ユーザーの代わりに行動するAIエージェントを軸に、Web3の次に訪れるインターネットの姿、AIエージェント時代におけるブロックチェーンの役割、そしてデジタルIDが担う信用のあり方について聞いた。

前編では、AIエージェント、Web4、Moca IDを中心に、AIとブロックチェーンが交差する未来を探る。

Web3からWeb4、主役は人間からAIエージェントへ

──昨年8月に取材した際には「日本はWeb3投資に消極的」との指摘もあったが、今回の来日の目的は。また、日本におけるAIやWeb3の現状をどう見ているか。

シウ氏:今回の来日は、AIとブロックチェーンをめぐる関係者との面会や、戦略的な議論が主な目的だった。

日本では、AIへの関心は高まっている。一方で、AIを単なるツールとして使う段階から、ユーザーの代わりに行動するエージェントとして使う段階へは、これから移っていくところだろう。Web3についても、そうした実用的な入口が重要になると考えている。

──AIエージェントには、どのような可能性を感じているのか。

シウ氏:アニモカは、AIエージェント基盤「Minds by Animoca Brands」を展開している。メール、Telegram、WhatsAppなど複数のチャネルで利用できるサービスだ。単なるパーソナルアシスタントではなく、個人的な友人や同僚に近い存在で、法務のような業務にも関わることができる。裏側にはウォレットがあり、暗号資産やブロックチェーンの技術と接続する仕組みになっている。

日本では、AIをChatGPTのような「ツール」として使うケースが多いと感じている。質問を入力し、回答を受け取るという使い方だ。一方で、AIエージェントとしての使い方はまだ広がり始めた段階だろう。

AIを検索ツールとして使う場合、答えを返した時点で処理は止まる。結果が出て、それで終わりだ。AIエージェントは違う。最初の結果を出した後も動き続け、1時間後に新しい結果を、さらにその後には改善された提案を返してくる。ユーザーが細かく指示し続けなくても、状況に応じて作業を進めていく。

スケジュール管理だけでなく、計画づくりにも活用できる。特に強力だと感じているのは法務の領域だ。契約書の作成や確認のような作業にも使える可能性がある。

これまでは、AIに契約書を読み込ませ、ユーザーがその都度指示を出す必要があった。しかし、メールで送るだけで複数のエージェントを同じグループに入れ、互いに会話させながら作業を進めることもできる。非常に大きな可能性を感じている。

ブロックチェーンが使われる必然性

──AIエージェントがユーザーに代わってネット上で行動するようになれば、Web3やブロックチェーンの使われ方も変わっていくのか。

シウ氏:私たちは、AIエージェントがWeb3からWeb4への移行を促していくと考えている。人間が自分で検索し、判断し、行動するだけでなく、AIエージェントがユーザーに代わってネット上で動くようになる。その変化が、次のインターネットの形をつくっていくということだ。

将来的には、インターネット上に1000億を超えるAIエージェントが存在するようになる可能性がある。人間よりはるかに多い数のエージェントが、さまざまな場所でユーザーに代わって作業をこなすようになるだろう。

私自身も、カレンダーやスケジュール管理にAIエージェントを使っている。今回宿泊しているホテルも、AIエージェントが見つけてくれた。新しいホテルだったので、自分では知らなかった場所だ。

「時は金なり」という言葉がある。AIエージェントの価値は、まさに時間を生み出すことにある。通常の検索は、「質問して答えを受け取る」だけだ。強力なAIエージェントは、ユーザーが質問する前に動いている。

例えば、ニューヨークで食事をしようとしていた時のことだ。検索でいくつかのレストラン候補は見つかっていたが、その日はセントパトリックス・デーで交通渋滞がひどかった。すると夕食の2時間前に、AIエージェントから「交通が非常に混雑しているので、歩いて行ける距離の店で食事をした方がいいかもしれない」とメールが届いていた。私は何も尋ねていない。AIエージェントが自ら提案してきたのだ。

そのまま友人と歩いて食事に向かい、ニューヨークでタクシーに乗るよりも時間もお金も節約できた。

今年の夏には、バンクーバーに行く予定がある。チケットなどの手配は秘書が進めていたが、AIエージェントは「7月に行くのなら、ワールドカップがある。混雑するので、今のうちにレストランを予約した方がいい」と知らせてきた。私のアシスタントはカナダに住んでいるわけではないため、その時期に現地で何があるかまでは把握していなかった。

小さな例に見えるかもしれないが、こうした積み重ねが大きな違いになる。AIエージェントがユーザーに代わって情報を探し、予定を調整し、提案し、やがて支払いや取引まで担うようになれば、ブロックチェーンの役割も変わっていく。AIエージェントの有用性と実用性こそが、人々が最終的にブロックチェーンを使う理由になると考えている。

AI経済圏を支える新たな決済網

──AIエージェントが経済活動を担うようになると、なぜブロックチェーンが必要になるのか。

シウ氏:AIエージェントは、いずれ他のエージェントやサービスに対して支払いを行うようになる。そのときに問題になるのが、支払いの手段だ。

そもそもエージェントには銀行口座がない。本人性を示すデジタルアイデンティティもない。人間のように銀行口座を開き、カードで支払うわけにはいかない。しかし、暗号資産やブロックチェーンがあれば、AIエージェントはウォレットを持つことができる。エージェント同士が支払いを行い、取引することも可能になる。私たちは、こうしたAIエージェントによる商取引を新たな領域として見ている。

AIエージェントもVisaやMastercardを使えばよいと考える人もいるだろう。ただ、考えてみてほしい。私がこのホテルに宿泊して決済するのは1回だ。一方で、AIエージェントは1日に1000回の取引を行う可能性がある。5円、10円、あるいは1円といったマイクロペイメントが、コンテンツごとに、エージェント間で次々と発生する。そこに1%や2.5%の手数料がかかれば、非常に大きな負担になる。

既存のカード決済網は、こうした高頻度の少額決済に必ずしも向いていない。一方で、ブロックチェーンであれば、1円、5円、10円といった少額の取引にも対応しやすい。だから私は、ブロックチェーンを「機械のための銀行システム」と表現している。AIエージェントは、その完璧なユーザーになると考えている。

私の母は、自分で暗号資産を買うことはないだろう。彼女にとっては難しいことだからだ。しかし、AIエージェントに「暗号資産を買ってほしい」「何かをしてほしい」と頼めば、エージェントは実行できる。

購入対象は、必ずしも暗号資産である必要はない。ポケモンカードでも、楽器でも、何でもよい。トークン化されたものであれば、AIエージェントが購入や取引を代わりに進めることができる。

ユーザーは、その裏側でブロックチェーンが使われていることを意識しないかもしれない。それでも、AIエージェントがユーザーに代わって動き、支払い、取引するためには、ブロックチェーンが必要になる。そこが重要だ。

KYCから「KYA」 に

──AIエージェントが支払い、取引するようになれば、次に問題になるのは「そのエージェントを本当に信頼できるのか」という点だ。Web4の世界では、Moca IDのようなデジタルIDが、AIエージェントの本人性や信用を支える基盤になるのか。

シウ氏: それは非常に大きな役割になると考えている。

社会の中で信用がどのように成り立っているかを考えると、信用はアイデンティティと深く結びついている。たとえば、パスポートがある。パスポートには名前が記され、政府が発行している。

日本のパスポートを持っていれば、その人が日本の制度に基づいて本人確認され、政府から旅券を発行された存在であることが分かる。日本のパスポートによって、ビザなしで渡航できる国もある。これは、その個人だけの信用ではなく、「日本のパスポートを持つ人」に対する集合的な信用の延長でもある。

AIエージェントには、こうしたアイデンティティがまだない。たとえば、私たちのプラットフォーム上にも、私ではない「Yat」を名乗るエージェントが多数存在し得る。誰かが自分でエージェントを立ち上げ、好きな名前を付けることができるからだ。

では、それが本物なのか、私自身なのか、あるいは私に属するものなのかをどう判断するのか。ここでデジタルIDが重要になる。今後は、従来の本人確認(KYC:Know Your Customer)にとどまらず、エージェントの身元を保証する「KYA(Know Your Agent)」のような仕組みがより重要になっていくだろう。

日本は、この考え方が比較的理解されやすい場所かもしれない。マンガやアニメだけでなく、日本には大きなSFカルチャーがある。多くのロボットが身の回りに存在する未来を想像することは、日本ではそれほど突飛なことではないだろう。

ただ、私たちは、それが現実世界を歩き回るロボットというより、ウェブ上のAIエージェントとして広がっていくと見ている。AIエージェントは、ユーザーの代わりにさまざまなことを行い、私たちがやり取りする相手にもなる。

だからこそ、信頼できるエージェントとやり取りできることが重要になる。Moca IDは、その課題を解決するための手段になると考えている。

インタビュー|橋本祐樹
文・写真|平木昌宏

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