2026年5月15日付の日本経済新聞「中東混迷でビットコイン2割高 株・金上回る上昇率、無国籍性に評価」の記事の中で、筆者は、「主に米国の機関投資家や『クジラ』と呼ばれる大口投資家からの現物需要の強さが読み取れる」とコメントした。実際、今週のビットコイン市場は、単なる価格上昇ではなく、“誰が、どのような心理で市場へ参加しているのか”が極めて重要な意味を持つ局面となっていた。
今週の暗号資産市場は、「恐怖の解消」がそのまま「全面強気」へ直結するわけではないことを、改めて市場参加者へ突きつけた1週間だった。ビットコインは週初に8.0万〜8.2万ドル(約1,250万〜1,290万円)台を回復し、一時はショート清算を伴う急騰も見せた。しかし週後半には、米PPI上振れや長期金利急騰をきっかけに急反落し、再び8万ドル近辺で神経質な値動きとなった。価格そのものよりも、「誰が、どの心理状態で売買していたのか」が非常に重要な局面だったと言える。
今週、市場内部で起きていた本質的な変化は、「恐怖による投げ売り相場」から、「構造改善を見極める検証相場」への移行である。ETFフロー、OTC市場の供給減少、取引所残高低下など、中長期的には供給縮小を示唆するデータが増加した。一方で、短期市場ではOpen Interest(OI)が急増し、Funding Rateもプラス圏へ戻るなど、再びレバレッジ主導の値動きが増え始めていた。
特に印象的だったのは、「現物需要が完全回復したわけではない」という点だ。Coinbase Premium Gapは依然としてマイナス圏が続き、米国現物需要の弱さを示していた。それにもかかわらず価格が高値圏を維持している背景には、クジラ層による静かな吸収や、制度整備期待による“将来先回り型の買い”が存在している可能性がある。つまり現在の市場は、「強気だから上がっている」というより、「将来の構造変化を期待して売り手が減っている」市場に近い。
今週は、CLARITY法案進展も市場心理へ大きな影響を与えた。米上院銀行委員会で超党派可決されたことは、単なるニュース材料ではなく、「暗号資産が制度インフラとして扱われ始めている」という認識を市場へ与え始めている。さらに、JPモルガンによるトークン化MMF推進や、大手金融機関によるETF保有拡大など、“金融商品化”の流れも継続している。
しかし、ここで注意すべきなのは、「制度強気=短期上昇確定」ではないという点である。むしろ今週の市場は、制度面では強気材料が積み上がる一方で、マクロ環境は逆方向へ進み始めていた。米CPI・PPIは市場予想を上回り、30年国債利回りは5%を突破。市場では再利上げリスクや、“高金利長期化”への警戒が急速に広がった。さらに、実質賃金悪化、消費者心理低下、クレジットカード債務増加など、米国家計への圧力も強まっている。
ここで重要なのは、ビットコインが依然として“完全な安全資産”として扱われているわけではない現実だ。実際には、株式市場と同様に流動性や金利の影響を強く受けている。特に今回のように、OIが高水準へ戻り、Fundingも改善している局面では、価格変動以上に「レバレッジの偏り」が市場を不安定化させやすい。
一方で、恐怖そのものは、数か月前とは質が変わり始めている。以前は「市場崩壊への恐怖」が中心だったが、現在は「上昇を取り逃す恐怖」と「再下落への警戒」が共存している。SNS上ではアルトシーズン期待や制度化ブルマーケット論が急増する一方、“ブルトラップ警戒論”も根強く残っている。これは典型的な“疑念の中の回復局面”の特徴でもある。
来週に向けて重要なのは、価格予想そのものではなく、「何が確認されるか」である。第一に、ETFフローが再び安定流入へ戻るか。第二に、Coinbase Premium改善など、米国現物需要回復が確認されるか。第三に、OI増加が単なる投機レバレッジではなく、現物主導と共存できる構造へ変化するかである。
逆に、期待しすぎるべきではない点も明確だ。現在の反発局面は、依然としてショート清算や流動性要因の影響を強く受けている。したがって、「価格が戻った=全面強気復帰」と短絡的に考えるには、まだ確認不足と言える。また、制度整備期待が進んでいることと、短期的なボラティリティ低下は別問題であり、高金利環境下では急変動リスクも依然大きい。
市場は今、「恐怖の終わり」を確認しているのではなく、「新しい強気相場が本当に始まるのか」を試している段階にあるのかもしれない。
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