ファンは“顧客”ではなく“参加者”へ ──トークン時代のエンゲージメント再定義【N.Avenue club 3期9回ラウンドテーブル・レポート】

スポーツやエンタメの世界では長年、「ファンクラブ会員数」「シーズンチケット販売数」などがエンゲージメントを可視化した指標として重視されてきた。しかし、こうした指標だけでは、たとえば「コアなファン以外にどう接点を作るか」「ローカルに閉じたコミュニティをどうグローバルへ広げるのか」といった悩みにはこたえられなかった。

そこで注目されるのが、ブロックチェーンとファントークンを活用した”参加型”のエンゲージメント設計だ。すでにクラブの悩みや課題に対応し、トークンを活用して新たなファンを獲得し、クラブビジネスの規模を拡大する施策が生まれており、海外のトップスポーツクラブを中心に新たな潮流となっている。

日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指すN.Avenue clubは、2026年4月のラウンドテーブルでこのテーマにフォーカス。世界の70近いトップクラブとファントークンを展開する企業のほか、鉄道、LINEミニアプリ開発、金融グループ、エンタメ企業など、立場の異なる実践者を招き、ファンエンゲージメント再定義の現在地と「Why Web3?」への向き合い方を議論した。

N.Avenue clubは国内外のゲスト講師を招いた月1回の「ラウンドテーブル(研究会)」や、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」などを開催しているが、ラウンドテーブルは会員限定のイベントのため、一部を抜粋してレポートする。

Chiliz ラビノヴィッチ氏:ファントークンは既存ファンクラブの置き換えではない

冒頭のブリーフィングセッションでは、Chiliz / Socios.comのチーフストラテジーオフィサー(CSO)、Max Rabinovitch(マックス・ラビノヴィッチ)氏がオンラインで登壇した。

Chilizは2018年設立、PSG、ユベントス、FCバルセロナ、UFC、ACミラン、ASローマなど世界約70のトップクラブとファントークンを展開、170以上の取引所に上場している。

ラビノヴィッチ氏は、ファントークンが従来のシーズンチケットや有料ファンクラブを「置き換える」ものではなく、無料トークン付与などで既存メンバーシップに価値を上乗せする”補完”するものだと指摘。最大の差別化ポイントは、ローカルの現地ファンに閉じない「グローバルなリーチ」と、設計を柔軟に変更できる「コンポーザビリティ」だと説明した。

なお、Chilizが重視するKPIは保有のリテンションで、たとえばPSGでは、保有者の70%弱が1年以上、売却していないそうだ。

なお、日本市場では最近、Jリーグの「東京ヴェルディ」と、日本国内でのファントークン導入に向けた共同研究に関する基本合意書(MOU)を締結したばかりだ。

JR九州 牛島氏:「Web3はコラボしやすい」──きっかけは印字が消えてしまう切符

メインセッションのトップバッターは、JR九州NFTプロジェクトファウンダーの牛島卓二氏。同社はWeb3/NFTありきではなく、リアル接点でのファンコミュニケーション課題を起点にデジタル領域へ着手、きっかけは「切符」だったと述べた。

感熱紙で印字が消え、ただの”緑の紙”になってしまうという課題に対し、「サービス終了後もユーザーの手元に残せる」点にブロックチェーンの価値を見出した。

2026年3月のリブランドでは「九州」と「NFT」を名称から外し、全国向けの一般デジタルサービス「Next Favorite Things」へ仕切り直した。

また、ここまで続けられた要因として牛島氏は「ほぼ一人で運用し、コストを抑えつつ、月1ペースのプレスリリースで社内外へのアピールを継続したこと」を挙げ、「Why Web3?」という命題への答えは、「やめても残せること」「マルチチェーン対応によるコラボのしやすさ」を挙げた。

Marbull X 小川氏:「Why Web3?」と問われる状態は、手段が目的化しているシグナル

続いて登壇したMarbull X代表の小川翔太郎氏は、裏側でNFT技術を使うLINEミニアプリ構築ソリューション「Marbull Connect」を展開している。

設計の核は継続利用してもらうことで、サービスグロース理論「フックモデル」(トリガー→アクション→リワード→ビルドアップ)の4サイクルをワンストップで提供できるサービス。LINEトークでの配信がメルマガやアプリのプッシュと比べて強いトリガーとなるという。

小川氏は「Why Web3?」(Web3/ブロックチェーンを使って事業を展開する意味)について丁寧に言及。

当初、「When Web3 becomes invisible」をビジョンに掲げて2年運営した結果、「Why Web3?と問われる状態自体が、サービス価値よりNFTという手段が会話の前面に出てしまっているシグナルではないか」との仮説にたどりついたと述べた。

資料・商談からNFTの語を完全に外して「文化を、次の関係性へ」を掲げてリブランド後、引き合いが増えたという。

SBI Chiliz 杉山氏:日本市場の二面性に挑む──ヴェルディ齋藤氏も解説

SBIホールディングス デジタルスペース室副室長/SBI Chiliz 取締役の杉山拓也氏は、SBI側の視点でジョイントベンチャー戦略を語った。

SBI Chilizのミッションは「ファンとIPの関係を再構築」、3つのキーワードは「参加型」「競争型」「体験」、ビジョンは「アジアを代表するファンエンゲージメントのプラットフォーマー」だ。

杉山氏が強調したのは、日本市場の二面性──応援への高いロイヤリティと、暗号資産への慎重さ。

「投機性ではなくエンゲージメントにどう価値を感じてもらうか」が核心だと位置付け、ファントークンの価値は価格ではなく、投票による意思表示や限定体験を通じて「ファンが当事者になる」点にあると語った。

東京ヴェルディ経営戦略部の齋藤祐太氏もマイクを握り、「年間ホームゲームは365日のうち20試合しか開催しない。残り345日でキャッシュポイントを作れないのが課題だった」と、ファントークン導入の背景を率直に語った。

YOAKE entertainment 森山氏:ブロックチェーンを意識させずに”熱量”を可視化する

最後に登壇したのは、YOAKE entertainment代表の森山聡太氏。

メイン事業「IDOL RUNWAY COLLECTION Supported by TGC」は、「アイドルが歩くTGC」をコンセプトに、乃木坂46、FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE、CUTIE STREETら100人超が出演する日本最大級のアイドル×ファッションの祭典だ。

2026年3月に代々木第一体育館で開催した際は、総来場者10,900人、20代以下66%、女性比率53.5%、広告換算値は約20.3億円に達したという。

森山氏が見据える今後の展望は「権利のトークン化」で、IPの金融資産化と、スマートコントラクトによるクリエイター権利分配の二側面を見据えるが、最重要視するのは「クリエーターがいなければエンタメは作れない」というクリエーター・ファースト思想にある。

ブロックチェーン技術は、ファンエンゲージメントを加速させるか?

ラウンドテーブルの後半は、参加者全員がいくつかのテーブルに分かれディスカッションした。

テーマは「ブロックチェーン技術は、ファンエンゲージメントを加速させるか?」と「自社が世界的に人気のキャラクターIPを保有していたら、ブロックチェーンでどうマネタイズ最大化する?」の2つで、登壇者も各テーブルに加わった。

ディスカッション後、各テーブルの代表者が話し合った内容を発表。「絶対ブロックチェーンでなきゃいけないという根拠は現時点では乏しい」「ユーザーが全員ウォレットを持ちウォレットコネクトする世界が来れば未来は変わるが、誰もがメタマスクを使いこなす世界はまだ来ていない」と、率直なダウンサイドを指摘する声があった一方、「AIエージェントがウォレットを使う未来は当然来る。人間には早くてもAIエージェント経由なら自然に使えるようになる」などと、AIに期待する仮説も提示された。

また「可能性は無限大」「ボーダーレス」というキーワードも浮上。コラボの相手を場所・企業・国を問わず広げられるほか、コンテンツとお金の両方を扱える技術であることから、インバウンドや、ステーブルコインでの通貨切り替えにおいても可能性があるとの指摘もあった。

N.Avenue club事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンへの参加を呼び掛けている。

次回のテーマは、今話題の「予測市場」。企業リーダー向けの参加応募枠(抽選)を設けており、本日5月15日(金)まで応募を受け付けている。

関連記事:【N.Avenue club 3期10回ラウンドテーブル】​「予測市場」は日本で成立するのか──その可能性と制度・ビジネスの論点とは

|文:瑞澤 圭
|編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑

PR

ボーナスで始めるのにおすすめな国内暗号資産取引所3選

取引所名特徴

Coincheck
500円の少額投資から試せる!】
国内の暗号資産アプリダウンロード数.No1
銘柄数も最大級 、手数料も安い
無料で口座開設する

bitbank
【たくさんの銘柄で取引する人向け】
◆40種類以上の銘柄を用意
◆1万円以上の入金で現金1,000円獲得
無料で口座開設する

bitFlyer
初心者にもおすすめ】
◆国内最大級の取引量
◆トップレベルのセキュリティ意識を持つ
無料で口座開設する