ビザのステーブルコイン清算額が10倍に拡大──市場残高は減少も、企業決済への導入が加速【エックスウィン】

世界のステーブルコイン市場が、新たな成長段階に入りつつある。

これまでステーブルコインは、暗号資産取引やDeFi(分散型金融)で利用されることが中心だった。しかし現在、ビザやマスターカードなどの国際決済企業が本格的に参入し、銀行送金、企業の資金管理、会計システムへと活用領域が広がっている。

注目すべきは、ステーブルコインの発行残高が足元で減少している一方、実際の決済利用は大きく伸びていることだ。エックスウィンは、今回の動きを単なる暗号資産市場の拡大ではなく、世界の金融インフラが変化する重要な転換点として捉えている。

ビザのステーブルコイン清算額、前年比10倍に拡大

米決済大手ビザは10月27日、2026年度第4四半期の決算説明会で、ステーブルコインによる清算額が年換算250億ドル(約3.9兆円)を突破し、前年同期の10倍に拡大したと発表した。

対応するブロックチェーンは10種類に増え、USDC、USDG、EURC、PYUSD、SBCの5銘柄を利用できる体制を整えている。ただし、250億ドルは現在の取扱ペースを年間に換算した数値であり、過去12カ月間の実績額ではない。また、消費者が店舗で支払った総額でもなく、金融機関などとの清算に関する数字である点に注意したい。

さらに重要なのが、10月15日に発表された「Visa Direct」のステーブルコイン事前入金機能の商用運用開始だ。

決済インフラ企業Inyo Globalを最初の導入先として、対象事業者がUSDCを利用して国際送金の原資を迅速に補充できる仕組みを実現した。

従来の国際送金では、銀行の営業時間や送金先の国ごとに必要となる資金の確保が課題だった。ステーブルコインを利用することで、企業は必要なタイミングで資金を移動させ、海外に事前配置する資金を減らせる可能性がある。

これは送金速度の改善だけでなく、企業の運転資金そのものを効率化する取り組みといえる。

市場残高は減少、それでも決済利用は45%増加

一方、ステーブルコイン市場全体には興味深い変化が起きている。

DeFiLlamaの10月29日時点のデータでは、ステーブルコイン市場の時価総額は約2,979億ドルで、直近30日間に約2%減少した。最大手のUSDTは約1,808億ドル、USDCは約713億ドルで、両銘柄だけで市場全体の約84.6%を占める。

しかし、発行残高が減少しているからといって、利用も縮小しているわけではない。オンチェーン分析企業Alliumが10月15日に公表した2026年第3四半期の調査では、1月から9月までのステーブルコイン決済額は4,820億ドルに達し、前年同期比45%増加した。

決済件数も10億4,000万件となり、71%増加している。一方、9月末の発行残高は3,050億ドルで、年初からわずか0.4%の増加にとどまった。

つまり、ステーブルコインの残高が大きく増えなくても、同じ資金が繰り返し決済に利用されることで、経済活動が拡大している可能性がある。なお、同調査ではブロックチェーン上の記録上の送金総額が97.9兆ドルに達する一方、取引所やDeFiなどの内部的な資金移動を除いた調整済み移転額は2.4兆ドルだった。

決済額4,820億ドルは、その中から決済として分類された金額である。

オンチェーン上の送金額をすべて実際の商取引とみなさず、経済活動の実態を見極めることが重要になる。

マスターカード、サークル、JPモルガンも相次いで参入

企業によるステーブルコイン導入も加速している。

10月7日には、USDC発行体のCircleがSAP関連企業Tereinaとの提携を発表した。企業が普段利用する会計・業務システムから、USDCやEURCによる決済を行える環境の整備を進める。

10月15日にはMastercardとBVNKが、法定通貨とステーブルコインを一つのAPIで管理する「Global Money Platform」の商用提供を開始した。

さらに10月19日には、JPモルガンが銀行預金をトークン化したJPM CoinをEthereum上に展開。機関投資家向けのオンチェーン決済基盤を拡張している。

これらの動きに共通するのは、企業に新しい金融システムを一から覚えてもらうのではなく、既存の銀行口座、会計ソフト、決済ネットワークの内部にステーブルコインを組み込もうとしていることだ。

また、9月30日にはStripe傘下のBridgeが発行する「Open USD(OUSD)」も稼働した。Coinbase、Mastercard、Shopify、Stripe、Visaなどが参加するOpen Standardの取り組みであり、利用拡大に貢献する企業への報酬や持分取得の機会が設けられている。

ステーブルコイン市場の競争は、単に発行残高を増やす段階から、実際の利用者を獲得し、決済サービスとして継続的に利用してもらう段階へと移りつつある。

日本のJPYCも発行開始1周年──次の課題は継続利用

日本でも、円建てステーブルコインの社会実装が進んでいる。10月27日、円建てステーブルコイン「JPYC」は発行開始1周年を迎えた。累計発行額は120億円を超え、流通額は約30億円超、口座開設数は2万8,000件以上に達した。

また、JPYCの普及を支えるウォレット環境も広がっている。Bitget Wallet、HashPort Wallet、マイナウォレットなどが日本市場での利用環境を整備しており、特にHashPort Walletやマイナウォレットでは、JPYCの発行・償還をアプリ内から行えるようになった。

こうしたウォレットの進化は、一般利用者がステーブルコインをより身近に使えるようになるための重要な一歩といえる。

また、150以上の事業者がJPYC決済を導入している。10月21日には、JPYC、SBJ銀行、LINE NEXTの3社が、銀行口座とデジタルウォレットを連携させる新たなチャージ機能の概念実証に向けた覚書を発表した。利用者が複雑なウォレット操作を意識せず、銀行口座から自然にJPYCを利用できるようになれば、普及の大きな転機になる可能性がある。

法人向けの取り組みとして注目されるのが、アステリアが4月1日から提供を開始した「JPYC Gateway」だ。同サービスは、企業がJPYCを送金・受領・管理するためのプラットフォームで、送金手数料は1件8円。暗号資産によるガス代の準備を不要にする仕組みや、企業向けのウォレット管理、承認権限の設定などに対応している。

さらに、アステリアのデータ連携ツール「ASTERIA Warp」を通じ、既存の会計システムや基幹システムとの連携も可能となる。企業がブロックチェーンを意識せず、日常業務の中でJPYCを活用できる環境が整いつつある。

また、Progmatが進める「Project Trinity」では、デジタル証券とステーブルコインを異なるブロックチェーン間で同時に受け渡す仕組みの検証が進んでいる。今後は一般消費者の支払いだけでなく、企業間送金、経費精算、証券決済などにも利用が広がることが期待される。

JPYCの普及を左右するのは、発行額の増加だけではない。個人が簡単に使える環境と、企業が既存業務に組み込める仕組みの両方が整うことが、日本円ステーブルコインの社会実装を加速させる鍵になるだろう。

エックスウィンの見解──ステーブルコインは「保有するもの」から「使うもの」へ

エックスウィン代表の荒澤文寛は、今回の変化について次のように分析する。「ステーブルコイン市場は、発行残高の拡大だけを競う時代から、実際の経済活動でどれだけ使われるかを競う時代へ移行しつつあると考えています。

特に注目しているのは、ビザやマスターカードが既存の金融インフラにステーブルコインを組み込み始めたことです。利用者がブロックチェーンを意識しなくても、裏側ではステーブルコインによって資金が移動する。これこそが、社会実装の一つの完成形ではないでしょうか」

一方で、ステーブルコインの利用拡大が、そのままビットコインなどの暗号資産価格の上昇につながるとは限らない。企業決済に利用される資金と、暗号資産市場への投資資金は区別して分析する必要がある。

また、発行体の収益も決済額だけで決まるわけではない。準備資産から得られる利息収入、平均発行残高、提携企業への報酬など、複数の要因に左右される。規制面でも、米国では10月21日にOCCがGENIUS法の最終実施規則を公表し、2027年1月18日の施行に向けて制度整備が進んでいる。

今後の競争では、利便性に加えて、償還の確実性、準備資産の透明性、規制への対応が企業の信頼性を左右することになるだろう。

私は、「日本のJPYCにとっても、今後の最大の課題は発行額そのものではなく、実際に利用される経済圏をどれだけ構築できるかだと考えます。日本語で使いやすいウォレット、銀行口座との接続、円とドルの交換流動性、そしてDeFiを含む新しい金融サービスとの連携が重要になります。

エックスウィンとしても、エックスウィンキャピタル(DeFiプラットフォーム)などを通して、利用者が安心してデジタル資産にアクセスできる環境づくりに取り組んでいきたいと考えています」

ステーブルコインは、暗号資産取引を支える補助的な存在から、国際送金、企業決済、資金管理、そしてデジタル証券を支える金融インフラへと進化し始めている。これからの市場分析では、発行残高だけでなく、実際の決済額、継続利用、資金の流動性、そして金融サービスへの組み込み状況を追うことがますます重要になる。

2026年は、ステーブルコインが「保有するデジタルドル」から「経済を動かす決済インフラ」へと変化する重要な年として記憶されるかもしれない。

ショート動画

ビザのステーブルコイン清算額が10倍に!世界の決済革命と日本のJPYC

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