今週、少し不思議に思ったことがある。Startale Japanが募集を始めた個人向けデジタル社債だ。
年利5%。利払いと償還には、信託型の円建てステーブルコイン「JPYSC」を使う。
ここまでは分かりやすい。
ところが、このデジタル社債そのものと、利払いや償還に使うJPYSCは、同じブロックチェーン上にはない。社債はHyperledger Fabricを使った基盤で管理され、JPYSCはEthereum(イーサリアム)上で発行される。
社債と「お金」は別の場所にある
従来の金融でも、証券とお金は別々の仕組みで管理されている。「証券レグ」「資金レグ」などと呼ばれる。株や債券には証券の台帳があり、お金には銀行預金の台帳がある。売買するときには、その2つの記録を突き合わせながら決済する。
ブロックチェーンを使えば、すべてを1つの台帳に載せることができ、決済も簡単になる──。
以前は、そんな将来像を想像することもあった。だが、Startaleのデジタル社債を見ていると、むしろ金融はこれからも「複数の台帳」の上に成り立っていくのではないかと思えてくる。
証券には証券に適した基盤があり、ステーブルコインにはステーブルコインに適した基盤がある。すべてを1つに載せ替えるのではなく、それぞれの基盤が役割を分けながら存在する。
そう考えると、オンチェーン金融とは「1つの巨大な台帳を作ること」ではなく、複数の台帳を前提に金融を組み直すことなのかもしれない。
もっとも、今回の構成がStartaleの描く最終形というわけではない。同社は、水平分業によって生じる「接続コスト」を課題と捉え、オンチェーン金融に特化したブロックチェーン「Strium(ストリウム)」などの基盤層から、JPYSC、ウォレットなどのアプリケーションまでを一体で提供する「垂直統合戦略」を掲げている。
つまり、今回の取り組みは、「ステーブルコイン普及債」の名前の通り、JPYSCの普及に向けた現時点での形であり、将来的には資産と資金を同じ経済圏の中で、より一体的に動かすことを目指している。
複数の基盤が併存する世界
ブロックチェーンの世界では長い間、「どのチェーンが勝つのか」という議論が続いてきた。イーサリアムなのか。Solana(ソラナ)なのか。あるいはCanton(カントン)、さらにはサークル(Circle)やストライプ(Stripe)が手がける金融特化型チェーンなのか。
だが、さまざまなニュースを見ていると、どれか1つに集約される未来は、だんだん想像しにくくなっている。
金融機関には既存のシステムがある。そこに、パブリックチェーンやプライベートチェーンが加わり、ステーブルコインやトークン化預金、デジタル証券が載っていく。
すべてを1つのチェーンに載せ替える──。そんなことは、おそらく起きない。
DvPも複数チェーンをまたぐ
最近、似たような話が多いと感じている。例えば今週は、セキュリティ・トークンの取引におけるステーブルコインを使ったDvP(Delivery versus Payment)決済の実証実験に関するニュースもあった。
現状、決済と証券の引き渡しは必ずしも同時には行われていない。「T+2」などと呼ばれるタイムラグがあり、この時間差はリスクにつながりかねない。
決済と証券の引き渡しを同時に成立させるのがDvPだ。
従来は、決済に使うステーブルコインとデジタル証券を同じブロックチェーン上で扱う方が、DvPを実現しやすいと考えられてきた。だが、前述の実証実験が目指したのは、別々のチェーンにある証券とステーブルコインを使ってDvPを実現することだ。
すべてを同じチェーンに載せる世界ではない。証券と資金が別々の基盤にあることを前提に、それらを同時に動かす仕組みをどう作るか、という課題だ。
「どのチェーンが勝つか」ではない
Startaleの社債と今回のDvP実証を見ていると、オンチェーン金融の姿がこれまでとは違って見えてくる。
これまでは、「どのブロックチェーンが金融の標準になるのか」という見方をしがちだった。
だが現実には、証券には証券の基盤があり、お金にはお金の基盤がある。それぞれの用途や制度に応じて、パブリックチェーンもプライベートチェーンも使われる。
金融全体で見れば、重要になるのは、それらを1つに統一することよりも、異なる台帳やネットワークを、安全に、確実につなぐことだろう。
Startaleのデジタル社債はHyperledger Fabric。利払いや償還に使うJPYSCはイーサリアム。
金融は、1つのチェーンにはならない。
むしろ、複数の台帳やネットワークが併存することを前提に、その間で資産や資金をどう動かすか。オンチェーン金融の次の課題は、そこにあるのかもしれない。
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|文:増田隆幸
|画像:生成AIで作成


