2026年に入り、予測市場は機関投資家の参加拡大を原動力に成長してきた。Polymarketでは、ユーザーの2%未満が全取引高の88%を生み出している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、主要な予測市場プラットフォームでは、全アカウントのわずか0.1%が累計利益の67%を獲得していると報じた。これは、機関投資家クラスの市場参加者が大きな存在感を示し、市場に不均衡なほど強い影響力を及ぼしていることを物語っている。
しかし、こうした市場を支えるインフラは依然として分断されている。そのため、すでに参入している機関投資家は非効率な業務プロセスに頼らざるを得ず、ほかの機関投資家は参入を見送ったままだ。
従来の金融市場では、機関投資家はブローカーや第三者のインフラ事業者が提供する注文・執行管理システム(OEMS)を利用し、自社の取引戦略や組織構造に応じてアカウントを編成・管理している。
一方、現在の主要な分散型予測市場には、階層型アカウント構造に対応する統合OEMSレイヤーが存在しない。その結果、複数の従業員や取引チームを抱える機関は、取引市場ごとに異なるアカウント、ウォレット認証、API、権限管理システム、決済体系を個別に扱わなければならない。
ParlayXは、この問題の解決を目指す予測市場向けの機関投資家用取引プラットフォームだ。2026年8月に正式サービスを開始し、機関投資家のトレーディングデスクが資金を「Pod」と呼ばれる内部の独立区画、すなわちサブアカウントに分割できる仕組みを提供している。これにより、複数のクオンツ戦略をそれぞれ独立して管理・追跡できる。
ParlayXは2026年6月、SBC Summit Americasの「First Pitch」コンペティションで優勝し、10万ドル相当の賞品パッケージを獲得した。主要な予測市場を横断して、機関投資家の注文ルーティングと流動性を集約する統合取引インフラを披露したことが評価された。
今回のNADA NEWS独占インタビューでは、ParlayXのCEO兼共同創業者であるアンドリュー・ゴンザレス氏が、こうした運用上の制約が機関投資家の参入をどのように妨げ、資金を市場の外に滞留させているのかを説明した。
また、ParlayXのノンカストディアル型アーキテクチャ、資金分離システム「Pods」、PolymarketとKalshiの違い、自動注文ルーティングの限界、拡大する機関投資家の需要、そして今後12~18カ月で予測市場のインフラがどのように進化する可能性があるのかについても語った。
機関投資家向けインフラと資金管理
質問1:ParlayXを予測市場向けの「機関投資家用管理基盤」と位置づけている。分断された流動性、カストディー、資金配分、コンプライアンス、注文執行のうち、最も解決が難しかった課題は何か。
アンドリュー: 正直に言えば、それぞれを単独で見れば、どれもそれほど難しくない。注文執行も、カストディーも、コンプライアンスも個別には解決できる。難しいのは、それらすべてのバランスを同時に取ることだ。それぞれの制約が互いに衝突するからだ。
当社はノンカストディアル方式を採用しており、この決定があらゆる部分に影響する。注文執行だけを最適化するなら、顧客資産を預かって内部で相殺するのが簡単な答えだが、当社はその選択肢を排除している。資金配分や流動性の分断についても同じで、顧客資金を一切保有せずに問題を解決しなければならない。
もう一つの問題は、土台として利用できる既存インフラがないことだ。プライムブローカーのレイヤーも、取引市場間で共有される市場識別子も、標準化された権限管理の仕組みも存在しない。すべてをゼロから構築する必要がある。
質問2:予測市場はこれまで、個人単位のアカウントとウォレットを通じて運営されてきた。従来の「1ウォレット・1アカウント」モデルは、予測市場への参加をどのように制限しているのか。
アンドリュー: このモデルは、個人投資家向けの基本的な仕組みだ。認証情報を持つ人物と、リスクを負う人物が同一であることを前提としている。個人ならそれで問題ないが、ファンドではそうはいかない。
トレーディングデスクには、ポートフォリオマネージャー、複数のトレーダー、リスク管理部門、オペレーション部門が存在する。一つのログイン情報しかなければ、全員が同じ認証情報を共有することになる。あるトレーダーにアクセス権を与えると、すべてへのアクセス権を与えることになる。特定の担当者の権限を特定の戦略だけに限定することも、一人の権限を取り消すためにデスク全体の認証情報を変更せずに済ませることもできない。
さらに、誰がどの操作を行ったのかを特定できない。アカウント上では、実行者が誰であっても、すべての操作が同じように見えるからだ。
セキュリティ上のリスクもある。共有された認証情報は単一障害点になる。監査証跡もないため、問題が起きても、誰が何をしたのかを再現できない。
つまり、機関投資家が予測市場を検討したうえで、そこに投資機会がないと判断したわけではない。アカウントモデルのせいで、実務上利用できなかったのだ。機関投資家は、一般消費者向けのインフラで機関資金を運用するよう求められている。
質問3:単純に複数のアカウントやウォレットを持つ場合と比べて、「Pods」にはどのような利点があるのか。また、機関投資家にとって資金の分離が重要なのはなぜか。
アンドリュー: Podは、資金が分離された一つの運用単位だ。Podを作成し、利用する取引市場を接続し、その中で取引するトレーダーを割り当てる。それぞれのトレーダーには個別に権限が設定されたIDが付与されるため、誰が何を取引しているのかをリアルタイムで把握でき、運用成績も実行者単位で帰属させられる。
別の方法として、戦略ごとに異なるアカウントやウォレットを用意することもできる。それでも資金は分離できるが、その負担がオペレーション部門にのしかかる。誰かが複数のアカウントや取引市場から明細を取得し、データ形式を統一し、異なる市場に存在する同一の予測市場を対応づけ、一つの画面に集約して照合しなければならない。
Podsでは、すべての取引市場におけるポジション、約定、損益が自動的に一つの統合画面へ集約される。資金の分離は、社内ルールではなく、インフラそのものによって強制される。
質問4:ParlayXのノンカストディアル型鍵管理は、どのような仕組みになっているのか。トレーディングデスクが資金を完全に管理できることを、どのように保証しているのか。また、単一障害点のリスクをどう軽減しているのか。
アンドリュー: 当社は資産を預からない。中央集権型の取引市場では、企業が自社のAPIキーを持ち込み、当社は取引所の上位レイヤーとして機能する。オンチェーン取引については、ウォレットインフラとしてFireblocksとDynamicを利用しているため、鍵は顧客側で生成・管理される。
当社は一連の手続きが円滑に進むよう支援するが、顧客はいつでも秘密鍵をエクスポートできる。ParlayXの利用をやめる場合も、顧客は鍵と資金を保持したまま離脱できる。
単一障害点について言えば、従来のアカウントモデルそのものが障害点だった。そのため、解決策の大部分は構造的なものになる。それぞれのトレーダーが権限範囲を限定された固有のIDで操作するため、一つの認証情報が侵害されても、影響は一つのPod内の一人に限定され、デスク全体には及ばない。
そのうえで、シングルサインオン(SSO)、二要素認証(2FA)、きめ細かなチーム権限設定、全操作の監査証跡を導入している。従来の金融業界では、どれも珍しいものではない。ただ、予測市場ではこれまで標準になっていなかっただけだ。
注文執行、流動性、テクノロジー
質問5:ParlayXはPolymarketとKalshiへの対応からスタートした。両者の市場構造、API、決済の仕組みには、どのような違いがあるのか。また、これらを一つの注文執行レイヤーに統合する際、どのような技術的課題が生じるのか。
アンドリュー: 最大の構造的な違いは、一つのイベントをどのように市場へ分解するかだ。Polymarketでは通常、それぞれの結果候補について、Yes/Noの二択市場が一つ設けられる。一方、Kalshiでは一つのイベントが複数の二択市場に分割されるため、一つのイベントが四つの市場になることもある。この違いは、市場の対応づけ、表示方法、単一イベントへのエクスポージャーの捉え方に表れる。
決済の仕組みは、人々が想像するほど大きくは違わない。細かな差はあるが、機能的には近い。APIは全体的にKalshiの方がやや整理されている。検索についてはPolymarketに分がある。
当社は、それぞれの取引市場の違いを消そうとしているわけではない。認証方式、リクエスト形式、レスポンス形式を統一し、二つのシステム連携を個別に保守しなくても済むようにしているだけだ。一方で、各市場を特徴づける部分まで均一化するつもりはない。
マーケットメーカーが求めるのは、情報を減らすことではなく、より細かな情報だ。市場固有の挙動を覆い隠すような抽象化は、当社が対象とする利用者にとって、かえって不便になる。
質問6:二つの取引市場で価格が異なるうえ、流動性、手数料、決済方式、カウンターパーティーリスクも異なる場合、「最良執行」をどのように判断するのか。
アンドリュー: 当社はスマート・オーダー・ルーティングを行っていない。注文を自動的に振り分けることもない。
マーケットメーカーが注文を出す前に、利用可能な板の厚み、適用される手数料、各市場で実際に取引した場合のコストシミュレーションを提示する。その情報を見たうえで、最終的には利用者自身が判断する。
これは意図的な設計だ。「最良執行」は、当社が利用者に代わって一つの数値として算出できるものではない。資金がどの市場に置かれているか、運用方針上どのような取引が認められているか、市場ごとのリスクをどう評価するかによって答えが変わる。
マーケットメーカーは、その判断まで自動化してほしいとは考えていない。正確な判断材料を求め、そのうえで自ら決断したいと考えている。
質問7:ParlayXは、ほかの伝統的金融資産で使われる注文・執行管理システム(OEMS)と比べて、どのような位置づけにあるのか。予測市場向けに新たに構築する必要があったものは何か。
アンドリュー: 株式や暗号資産のOEMSは、プライムブローカー、清算、標準化された識別子、カストディーといった、すでに存在するインフラの上に構築されている。予測市場には、そのどれも存在しない。そのため当社は、従来のOEMSがすでに存在するものとして前提にしている基盤レイヤーそのものを構築している。
さらに本質的な違いは、代替可能性にある。Coinbase上のビットコイン(BTC)とBinance上のビットコインは同じ資産なので、OEMSは複数の取引所を、同一商品を取引する交換可能な場所として扱える。
しかし、Kalshiの契約と、それに類似するPolymarketの契約では、結果判定に用いる情報源、契約の文言、決済時期が異なる場合がある。同一商品として、一方で買ったポジションをもう一方で売って相殺することはできない。これは、従来のOEMS設計が前提としてきた考え方を崩すものだ。
市場をまたいだ相殺はできず、注文を自由に振り分けることもできない。市場の分断は、解消すべき非効率ではなく、構造そのものだ。
したがって、問題の中心は注文ルーティングから、「契約をどう表現・モデル化するか」へと移る。実際に何が同等なのかを対応づけ、同等でないものを明確にし、実際には代替可能でない複数の契約を横断して、トレーディングデスクがエクスポージャーを一元的に把握できるようにする必要がある。
質問8:予測市場は、トレーダー、機関投資家、政策立案者がマクロ経済や地政学上の意思決定を行う際の参考情報として、ますます利用されている。ParlayXは、注文執行データや注文フローデータを通じて、どのような独自の知見を生み出せると考えているか。
アンドリュー: この点については、意図的に慎重な姿勢を取っている。顧客のポジションと注文フローは顧客に帰属するものだ。これは、機関投資家が安心して注文を通せる中立的なレイヤーになるための根本原則だ。
興味深いのは、現時点で誰も正規化していない公開データだ。当社は市場間でイベントを対応づけているため、KalshiとPolymarketで同じイベントにどのような価格差があるのか、また、その差がどの程度持続するのかを確認できる。
手数料体系、板の厚み、結果判定の仕組みが十分に異なるため、同じイベントでも実際に異なる価格水準で取引される。
マクロ経済のシグナルそのものは、当社より上流にある。予測市場が有益なのは、参加者が自らの資金を賭けているからだ。現在欠けているのは、市場を横断した統合ビューであり、当社はその空白を埋めようとしている。
質問9:ParlayXのような機関投資家向け注文執行ツールは、予測市場における利用者の行動や取引戦略をどのように変える可能性があるか。
アンドリュー: 機関投資家にとっては、そもそも取引に参加できるようになることが最大の変化だ。これまでの障壁は関心の欠如ではなく、オンボーディングが実務上煩雑で、「1アカウント」モデルがトレーディングデスクの業務に合っていなかったことだ。
アクセスの問題が解決すれば、より多くの機関資金が流入し、市場の性質も変化する。注文板が厚くなり、スプレッドが縮小し、市場間の相対価値に着目した取引が増える。
ブロック取引や店頭取引(OTC)も増えると考えている。現在の予測市場の多くでは、機関投資家規模の注文をそのまま注文板に出すことが難しい。そのため、注文板を通じて少しずつ執行するのではなく、相対交渉で処理される取引が増えるはずだ。
ターゲット市場と事業拡大の見通し
質問10:現在のParlayXの主な顧客は、クオンツ取引デスク、マーケットメーカー、資産運用会社、それとも別の層なのか。それぞれの顧客層のおおよその割合はどの程度か。
アンドリュー: 中核顧客は、予測市場に流動性を提供する取引会社だ。専業マーケットメーカー、クオンツ取引デスク、自己勘定取引会社、システマティック戦略を運用するファンドなど、幅広い企業が含まれる。
実際には、それぞれのカテゴリーの境界は曖昧だが、必要としているものは共通している。一方で、顧客層は急速に広がっている。
予測市場によって流動性供給への参入障壁が下がったため、既存の大手企業に加え、中小規模の取引会社が急速に参入している。市場の成熟に伴い、暗号資産を専門とする企業や、従来型のトレーディングデスクも参入し始めている。
権限管理やデータインフラを自前で構築しても、それ自体が彼らの競争力を高めるわけではない。そうした部分は当社が構築し、顧客には本来の仕事である取引に集中してもらう。
質問11:富裕層や高度な取引技術を持つ個人トレーダーも、ParlayXの主要な利用者になると考えているか。
アンドリュー: 富裕層については、それほど期待していない。一方、高度な取引技術を持つ個人トレーダーは利用者になり得る。ただし、ファンドが必要とするような組織管理レイヤーは不要なので、提供するサービスの形は異なる。
今後、製品ラインアップを拡充すれば、そうしたトレーダーに提供できるものも増える。より近い機会は、自己勘定取引会社を通じたB2B市場にある。こうした会社は多数の利用者を管理しており、その全体を横断した会計処理とレポーティングを必要としている。
質問12:従来型の本人確認(KYC)手続きを望まない利用者に、どのように対応するのか。また、利用しやすさと規制順守の境界をどこに引いているのか。
アンドリュー: 当社はソフトウェア事業者だ。顧客は自らのAPIキーとウォレットを持ち込み、すべての取引は各取引所で執行される。オンボーディングと利用資格の確認も取引所側で行われる。
ParlayXで利用できるのは、利用者がすでに各取引市場でアクセスを認められているサービスだけだ。Polymarketで取引できない利用者が、当社を経由することで取引できるようになるわけではない。
質問13:予測市場は、いくつかの国で利用が制限されているか、厳しい規制の対象となっている。そうした地域の顧客から、規制リスク、市場の成熟度、需要について何を学んだか。
アンドリュー: 最大の学びは、需要は国境で止まらないということだ。当社は米国、欧州、アジアのマーケットメーカーと話をしている。
彼らが問うのは、予測市場に参入するかどうかではない。どのように参入するかだ。規制下にある取引市場を通じて参入する企業もあれば、オンチェーン市場を通じて参入する企業もある。
市場自体は、この6カ月で劇的に成熟した。これまで様子を見ていた大規模ファンドも、今ではオンボーディングを始めている。
予測市場の成長と未来
質問14:今後12~18カ月を見据えたとき、取引高、機関投資家による導入、対応する取引市場の数、予測市場の構造への影響という観点から、ParlayXにとっての成功をどのように定義するか。
アンドリュー: 正直に言えば、この市場において12~18カ月は非常に長い。現在連携を進めている取引市場の半数は、1年前には存在すらしていなかった。そのため、私は3~6カ月単位で考えている。それくらいが、現実的に見通しを立てられる時間軸だからだ。
今後3~6カ月の成功は、二つの指標で表せる。
一つは取引高だ。プラットフォームを通じた取引高を10億ドルに到達させたい。もう一つは対応範囲で、主要な予測市場をすべて統合したいと考えている。
現在はProphetXとLimitlessへの対応を進めており、今後はNovig、SportsTrade、Rothera、Fanatics、Underdogにも速やかに対応していく。
目標は単純だ。流動性がどこに現れても、当社の顧客がすでに接続できる状態にしておくことだ。
長期的な成功を測る尺度は、数字ではない。企業が予測市場での取引を決めたとき、最初にParlayXへ接続することが当たり前になるかどうかだ。当社が標準的な入口になれば、それ以外の成果も自然についてくる。
アンドリュー・ゴンザレス
ParlayX CEO
イブラヒム・アジバデ
NADA NEWS
アンドリュー・ゴンザレス氏について

アンドリュー・ゴンザレス氏は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で経済学の学士号を取得した。キャリア初期には、Inception CapitalおよびドバイのM31 Capitalでリサーチアナリストを務め、デジタル資産とベンチャーキャピタルに関する基礎的な専門知識を培った。
ParlayXを創業する前は、ニューヨークの暗号資産マーケットメーカーFlowdeskに勤務していた。同社では数十億ドル規模の取引執行を管理し、コンプライアンス、リスク管理、資金統制に関する機関投資家のトレーディングデスクのニーズを、実務を通じて深く理解した。


