8月のビットコイン(BTC)相場は、月初に6万3000ドル台で取引を開始すると、米国とイランの関係改善を背景とした原油価格の下落を追い風に、6万5000ドル周辺まで値を戻した。もっとも、第2週に入るとホルムズ海峡の主権を巡って両国の対立が再び強まり、原油価格も反発。BTCもリスク回避の流れに押され、月初からの上げ幅を概ね吐き出した。
こうした中、相場の流れが大きく変わったのが月中旬以降だった。ベッセント米財務長官が、米長期国債の買い戻し規模を従来の20億ドルから最低40億ドルへ引き上げる方針を示したことを切っ掛けに、米国の財政運営や国債市場への懸念が意識された。法定通貨や特定国家の信用に依存しない「無国籍アセット」としてのBTCに資金が向かい、相場は19日から21日にかけて6万ドル台中盤から7万9000ドルまで急伸した。
さらに24日には、国債買い戻しの原資として米財務省一般勘定(TGA)が利用される可能性があるとの報道を受け、相場は8万ドルを試す展開となった。翌25日には一時8万1200ドル近辺まで上昇し、8月の高値を更新した。
その後はジャクソンホール会議を控えた利益確定売りなどから7万ドル台後半へ反落したものの、急騰後としては底堅い値動きを維持している。月初には6万ドル台前半で推移していたBTCは、地政学リスクや原油相場に振らされながらも、月後半には米財政を巡る思惑を材料に水準を大きく切り上げた格好だ。
足元では米国の財政を巡る懸念がBTC相場の追い風となっているが、国家の財政や信用に対する不安が相場を押し上げる構図は今回に限った話ではない。昨年10月には米連邦政府の予算期限切れによって政府機関の一部閉鎖が発生したが、この際にもBTCは上昇し、史上最高値となる12万6000ドルを記録した。
米国の財政状況を巡っては、2026会計年度の利払い費がGDP比で3.3%と過去最高水準に達する見通しとなっているほか、政府債務も40兆ドルに達している。膨張を続ける財政赤字と利払い負担は、長期的には米国の財政余力に対する懸念を高める要因となり、特定国家の信用に依存しないBTCにとって追い風と言えよう。
一方、これまでBTCの中長期的なトレンドを左右してきたFRBの金融政策については、依然として不透明感が強い。6月のFOMCで公表された経済見通しでは、年内1回の25bpの利上げが示唆された。その後、5月以降のインフレ指標は物価上昇率の鈍化を示しているものの、米国とイランの停戦交渉が膠着するなか原油価格は高止まりしており、今後の物価への波及には留意したい。市場が織り込む9月FOMCの金利決定についても、据え置きと利上げが概ね6対4となっており、先行きの政策パスを織り込み切れていない状況と言える。
その傍ら、8月のBTC相場はテクニカル・需給の双方でトレンド転換を示唆する動きを見せている。相場は長期トレンドの分水嶺として意識される200日移動平均線を上抜けたほか、短期保有者の平均取得価格も回復した。短期保有者の平均取得価格は相場の「トレンドの境目」として機能することが多く、価格が同水準を上回って推移する局面では上昇基調、下回る局面では下降基調となりやすい。さらに、足元では短期保有者の平均取得価格そのものが200日線を上回っており、需給面でも相場の地合いが改善しつつあることが窺える。

加えて、半減期サイクルの観点からも相場は重要な局面に差し掛かっている。現在のBTC相場は、過去の半減期サイクルにおいて下降トレンドの大底が形成されてきた期間に既に突入している。無論、過去のサイクルが今回もそのまま再現される保証はないが、テクニカルや需給の改善と合わせて考えれば、少なくともこれまで続いてきた下降トレンドが終盤に差し掛かっている可能性は意識されよう。

もっとも、FRBの政策見通しが定まらないなか、BTCが直ちに本格的な上昇トレンドへ移行するとみるのは早計だろう。他方、仮にFRBが一段とタカ派に傾斜すれば、金利上昇を通じて米政府の利払い負担が増加し、財政懸念がむしろBTCの支援材料となる可能性もある。金融引き締めへの警戒感と財政不安による無国籍アセット需要が綱引きとなるなか、当面のBTC相場は急速な上値追いよりも、中期的な上昇トレンドへの移行を見据えて値固めを進める展開となる公算が大きいと見ている。
|文:長谷川友哉/bitbankマーケット・アナリスト
|編集:NADA NEWS編集部
|トップ画像:Shutterstock


