物流大手のAZ-COM丸和ホールディングスが、協力会社への支払いに円建てステーブルコイン「JPYC」を導入する。
導入を決めた理由や背景については、「アマゾン配送大手AZ-COM丸和は、なぜ2300社への支払いにJPYC導入を決めたのか」を読んでいただきたい。
取材中、話を聞いていると、その理由の「根っこ」にあるものに行き当たった。
同社の創業者が長く抱えてきた、キャッシュフローへの執念である。
請求書まで、肩代わりする
同社は協力会社への支払いを、「月末締め翌月20日払い」としている。
業界のなかではかなり速い部類に入る。ただ、速く払うと決めるだけでは、実際には速く払えない。
取材に応じた執行役員の小穴氏がまず説明してくれたのは、その手前にある業界の事情だった。
自動車運送業界には6万3000社ほどがあるが、車両を1000台以上持つ会社は98社しかないという。
多くは小規模で、事務にあてられる人手が乏しい。発注の確認はいまもファックスで届き、受け取った側はそれをExcelに転記する。
ある程度たまったら税理士にまとめて預け、そこでようやく請求書の形になる。請求が上がってくるまでに時間がかかるのは、いわば構造上の必然だ。
だから同社は、協力会社の請求書に近いものを自ら作り、これで間違いないかと確認を求めるところまでやっている。
相手の事務を肩代わりしてでも請求を早く上げてもらい、支払いを速める。20日払いは、そこまでして成り立っている数字なのだという。
八百屋から、車1台から
この支払いサイクルを考え出したのは、社長の和佐見勝氏だと小穴氏は明かした。
和佐見氏はかつて八百屋を営み、車1台で運送業を始めた人物だ。
常にキャッシュフローと向き合い、苦労を重ねてきたからこそ、業界の課題を解くにはキャッシュフローをどう付けるかが要点になると、身にしみて分かっている。
決済は民間のサービスではあるけれど、社会インフラなのだ。それが和佐見氏の基本にある考え方だと、小穴氏は言う。
支払いの速さは、体面の問題ではない。
現場が最も苦しむのは燃料代でも高速代でもなく、ドライバーへの賃金の支払いだそうだ。
人手不足が深刻ないま、支払いの速さはそのまま人を集める力になる。
Amazonが直接契約で募る配送の担い手は、週末締めの翌水曜日に支払いを受け取る。
速く払える会社が、人を確保できる。
160円が押しとどめるもの
月に1回ではなく2回、3回払ってほしいという声は、現場から絶えず届く。
それでも同社は週払いにも当日払いにも踏み切れずにいる。立ちはだかるのは、振込手数料だ。
1口座あたり平均で160円ほど、地方の信用金庫が相手なら800円かかることもある。
回数を増やせば、その分だけ積み上がっていく。速く払いたいという意志を、160円が押しとどめている。
JPYCへの10億円出資は、この延長線上にある。社内では「10億も出す必要はない」「使うだけでいいのではないか」という反対論も出たそうだ。
それでも和佐見氏は、投資委員会でキャッシュフローをどう付けるかが要点だと繰り返し、現金に代わるものは国内ではJPYCしかない、国策のはずなのになぜ規制ばかりあるのか、と語ったという。
もっとも、支払いはまだ始まっていない。
ウォレットはベンダーを選んでいる途中で、開始は年内、首都圏から小規模に、というのが現時点の見通しだ。
取材の終わり際、小穴氏は、現場で働く海外出身のドライバーが母国への送金に高い手数料を払っている話を持ち出した。そこにも和佐見氏の考えは及んでいるという。銀行に余計な金を取られる必要はない、と。
執念の矛先は、まだ次を向いている。
|文:栃山直樹
|画像:丸和運輸機関 公式ホームページより(キャプチャ)


