●今週は、米国のTIC統計、FOMC議事要旨、日本のCPIという3つの重要イベントが集中する。共通するテーマは「世界の金利と流動性が再び引き締まるのか」である。
●特に注目したいのは日本CPIだ。上振れすれば日銀の追加利上げ観測が強まり、円高を通じて円キャリートレードの巻き戻しが起こる可能性がある。
●オンチェーンでは、SOPR Ratio(LTH-SOPR/STH-SOPR)が足元0.96前後と1付近にある。長期保有者の利益確定が短期保有者を大きく上回る状態ではなく、今週は「マクロショックが短期保有者の損失確定へ波及するか」が重要になる。
今週の金融市場では、わずか数日の間に3つの重要なマクロイベントが集中する。
1つ目は、米財務省が8月17日午後4時(米東部時間、日本時間18日午前5時)に発表する6月のTIC(対米証券投資)統計。
2つ目が、8月19日に公表される7月28~29日開催分のFOMC議事要旨。そして3つ目が、日本時間8月21日午前8時30分に発表される7月の全国消費者物価指数(CPI)だ。
一見すると別々の指標だが、ビットコイン市場から見ると共通している。「世界の金利と流動性が、再び引き締まるのか」という問題である。
米国債への海外需要は弱くなっているのか
まず注目されるのがTIC統計だ。直近5月のデータでは、日本の米国債保有額は1兆2,099億ドルから1兆1,431億ドルへ668億ドル減少した。一方、中国本土は6,511億ドルから6,593億ドルへ82億ドル増加している。
このため、「日本と中国が同時に米国債を大量売却している」という理解は正確ではない。さらに、外国人投資家全体では5月に長期米国証券を2,628億ドル買い越していた。米財務省も、国別の保有統計は主にカストディー・データに基づくため、第三国経由の保有などを含め、実際の所有者を完全には特定できないと説明している。
したがって今週見るべきなのは、日本や中国の数字だけではない。「外国人による米国の長期証券需要が弱くなっているか」が重要になる。海外投資家の需要低下が確認されれば、米10年・30年債利回りには上昇圧力がかかりやすい。長期金利や実質金利の上昇は金融環境を引き締め、ビットコインを含むリスク資産には逆風になりやすい。
反対に、海外勢による米国債需要が維持され、長期金利が低下するのであれば、ビットコインにとっては流動性面の追い風となる。
FOMC議事要旨は「利下げ」より「追加利上げ」の議論に注意
次の焦点がFOMC議事要旨だ。7月29日のFOMCでは政策金利を3.50~3.75%に据え置いたが、採決は9対3だった。しかも反対した3人は利下げではなく、0.25%の追加利上げを主張していた。FRBは声明でも、インフレが2%目標に対して依然高いとの認識を示している。
このため議事要旨で重要なのは、単純に「利下げ派が何人いたか」ではない。むしろ、据え置きに賛成したメンバーの中にもインフレへの警戒や追加引き締めを意識する参加者がどの程度いたのかが焦点になる。
もし議事要旨から、インフレへの警戒が想定以上に広がっていたことが確認されれば、米2年債利回りや実質金利が上昇し、ドル高につながる可能性がある。これはビットコインにとって典型的な逆風となる。
一方、労働市場や景気減速への懸念が強く、将来的な金融緩和を意識する議論が予想以上に多ければ、米金利低下、ドル安、株高を通じてビットコインにも買い戻しが入りやすくなる。
最大の伏兵は「日本CPI」
今回、ビットコイン市場にとって最も警戒したいのが日本のCPIだ。7月の全国コアCPIについて、ロイター調査では前年比1.8%への上昇が予想されている。6月の1.6%から2カ月連続で加速する見通しで、8月21日に公表される。
日銀は、基調的な物価上昇率が2%へ向かうという見通しが実現すれば、金融緩和の度合いを調整していく方針を示している。市場では9月会合での追加利上げ観測も強まっている。
したがってCPIが予想を上回れば、
日本CPI上昇
→ 日銀利上げ観測上昇
→ 日米金利差縮小
→ 円高
→ 円キャリートレード縮小
という連鎖が起こる可能性がある。
低金利の円を調達して海外の株式や高利回り資産へ投資する円キャリートレードが巻き戻されれば、投資家はポジション全体のリスクを落とす必要がある。その際、24時間取引され流動性の高いビットコインも、世界的なレバレッジ縮小の影響を受ける可能性がある。
オンチェーンが示す「長期保有者売り」以外のリスク
ここでマクロ環境だけではなく、ビットコイン内部の需給構造も確認しておきたい。

添付チャートのSOPR Ratio(LTH-SOPR/STH-SOPR)は、足元で0.96前後と1付近にある。
この指標は、長期保有者のSOPRを短期保有者のSOPRで割ったものであり、長期保有者と短期保有者の利益実現状況を相対的に比較するための指標だ。
重要なのは、「0.96だから短期保有者が損失を出している」と直接判断することはできない点である。0.96はあくまで、長期保有者のSOPRが短期保有者のSOPRをわずかに下回っていることを意味する。
一方、年初にはSOPR Ratioが大きく上昇する局面が複数見られたが、足元では1付近で推移している。少なくとも現在は、長期保有者による利益確定が短期保有者を大きく上回る明確な「分配局面」とは言いにくい。
これは今の市場の弱さを、長期保有者の大規模な利益確定だけでは説明しにくいことを示唆している。
むしろ今週重要なのは、マクロイベントによる価格変動が短期保有者の行動を変えるかどうかだ。
仮に日本CPIやFOMCをきっかけに価格が下落し、短期保有者のSOPR(STH-SOPR)が1を下回る状態が続けば、短期保有者による損失確定が増え、下落を増幅する可能性がある。
逆に価格が下落しても短期保有者の売りが広がらず、取引所へのBTC流入も増えないのであれば、市場内部の売り圧力は限定的と評価できる。
したがって今週は、SOPR Ratioに加えて、
「STH-SOPR」
「取引所へのBTC純流入」
「取引所準備金」
を組み合わせて確認することが重要になる。
見るべきポイントはシンプルだ。
売却可能なBTCが増えているのか。
短期保有者が損失確定を始めているのか。
そして、その売りを吸収する買い手が存在するのか。
マクロショックが発生しても、この3つが悪化しなければ下落は限定的になり得る。逆に、取引所流入増加と短期保有者の損失確定が同時に進めば、マクロ要因がオンチェーン上の売りへ転化したと判断しやすい。
ビットコインにとって最も厳しいシナリオ
今週考えられる中で、ビットコインに最も厳しい組み合わせは、
「海外の米国債需要低下」
「FOMC議事要旨がタカ派」
「日本CPIが上振れ」
「STH-SOPR低下・取引所流入増加」
が重なるケースである。
米長期金利が上昇し、FRBの金融緩和期待が後退する一方、日本では日銀利上げ観測が高まり円が上昇する。そこに短期保有者の損失確定と取引所へのBTC流入が重なれば、外部のマクロショックが暗号資産市場内部の売りへ波及することになる。
つまり、
米国からは「高金利」
日本からは「キャリートレード巻き戻し」
オンチェーンからは「短期保有者の売り」
という3方向から圧力がかかる。
反対に、TICで米国債への海外需要が維持され、FOMC議事要旨が想定ほどタカ派ではなく、日本CPIも予想程度にとどまり、オンチェーンでも短期保有者の投げ売りが確認されなければ、市場環境は改善しやすい。
米金利とドルが低下する中でBTCの取引所流入が増えず、STH-SOPRが改善するのであれば、反発の質はより強いと評価できる。
今週は「ビットコインだけ」を見ない
今週のビットコインを考えるうえで、価格チャートだけを追うのは十分ではない。
特に確認したいのは、
「米2年・10年債利回り」
「ドル指数」
「ドル円」
「米国株」
「STH-SOPR」
「取引所へのBTC流入」
である。
中でも日本CPI発表後にドル円が急低下し、円高と同時に株式とビットコインが下落する場合は注意したい。それは暗号資産固有の売りではなく、世界的なレバレッジ縮小が始まっている可能性があるからだ。
さらに、そのタイミングでSTH-SOPRが悪化し、取引所へのBTC流入が増加するのであれば、マクロショックが実際の売却行動へ変わりつつあることを示す。
反対に、米金利とドルが低下し、株式とビットコインが同時に上昇しながらオンチェーン上の売り圧力も弱いのであれば、金融環境の改善を伴った、より持続性のある反発と評価しやすい。
今週は、米国債、FRB、日本銀行という世界の金融市場を支える3つの歯車に、ビットコイン内部のオンチェーン需給が重なる週になる。
その中でも筆者が最も注目しているのは、日本CPIと短期保有者の反応だ。
「円キャリートレードが維持されるのか、それとも巻き戻されるのか」
そして、
「そのマクロショックをビットコイン市場内部の買い手が吸収できるのか」
この2つが、今週のビットコインの方向性を見極める重要なポイントになる。
ショート動画
今週、ビットコインが動く? 米国債・FOMC・日本CPI「3つの重要イベント」
https://youtube.com/shorts/WGZyWhfsrPw


