今週の市場は、「外部環境は改善したものの、ビットコインへの確信が広がらなかった一週間」だった。
ビットコインは週前半に65,000ドル前後(約1,030万〜1,040万円)まで上昇し、円建てでは一時約1,040万円まで買われた。しかし、その後は上値を切り下げ、週後半には63,000ドル前後(約1,010万〜1,020万円)まで反落。添付チャートでも、8月10日の高値をピークに、その後は戻りを挟みながら下落する展開が確認できる。
重要なのは、今週の下落が単純な「悪材料による売り」ではなかった点である。むしろマクロ環境には追い風があった。それでも上がれなかったことが、現在の市場構造を象徴している。
市場では、米国現物BTC ETFや一部の機関投資家、巨大クジラによる買いが下値を支えている。一方、短期保有者や一部の長期保有者、企業・マイナーからはBTCが市場へ供給されており、「新しい買い」と「既存保有者の売り」がぶつかる構造になっている。
行動ファイナンスの観点では、この局面で注目したいのが「損失回避」である。下落を経験した短期投資家ほど、価格が戻った際に利益を狙うより、「損失を小さくして退出したい」と考えやすい。その結果、反発局面では戻り売りが発生しやすくなる。
ETFへの資金流入があっても価格が伸びないのは、買い手がいないからではない。買い需要が存在しても、それを上回る、あるいは相殺する供給が出ているからである。
さらに先物需要は改善しているものの、現物需要は依然として弱い。先物だけが先行する上昇は、現物買いを伴う上昇よりも清算によって崩れやすい。現在の市場では「誰が買っているか」だけでなく、「どの市場で買っているか」が重要になっている。
投資家心理は、8月初旬の強い恐怖から「慎重」へ改善したものの、再び迷いが広がっている。
ETFや大口投資家が買っているという安心材料がある一方、BTCが65,000ドル台を維持できなかったことで、「好材料があっても上がらない」という認識が生まれ始めた。
こうした局面では、直近の値動きを将来へ延長して考える心理が働きやすい。ただし、「悲観が強まった=底が近い」と考えるのも早計である。
今回の特徴はパニックではなく、出来高や市場参加が減少した「様子見」に近いことだ。恐怖による投げ売りより、買う理由を見つけられない状態が市場心理を支配している。
今週の重要なポイントは、マクロ環境が改善してもBTCが十分に反応しなかったことである。
7月の米CPIは前月比0.1%、前年比3.4%となり、インフレは緩やかな内容だった。 PPIも前月比横ばいとなり、市場予想を下回ったことで追加利上げへの警戒が後退した。
その結果、米国株には買いが入り、S&P500は8月13日に過去最高値を更新した。
それでもBTCは弱かった。
これは現在のBTCが、マクロ改善だけで自動的に買われる状態ではないことを示している。資金はAI・半導体など株式市場へ向かい、暗号資産への資金配分は限定的である。
また、BTCは依然として完全な安全資産ではない。金利、ドル、株式市場の流動性に影響を受けるリスク資産としての性格も強く残っている。
来週、確認したい条件は三つある。
第一に、Coinbase Premiumや現物出来高が改善し、ETF以外の現物需要まで広がるか。
第二に、ETFへの資金流入とステーブルコインの購買力が継続的に改善するか。
第三に、短期保有者やクジラから取引所へのBTC流入が減少し、現物需要が売りを吸収できるかである。
今、期待しすぎるべきではないのは、「CPIやPPIが良かったからBTCも上がる」「ETFが買っているから上昇相場が始まる」という単純な見方である。
現在の市場に不足しているのは、ニュースではなく需要の広がりである。
ビットコイン市場は、「売り手が圧倒している局面」からは改善している。しかし、「買い手が価格を押し上げる局面」にもまだ到達していない。
来週は価格そのものよりも、ETF・現物・先物の三つの需要が同じ方向へ向かうかを確認することが重要になる。
行動科学・行動ファイナンス(投資家心理)を専門とするアナリスト。暗号資産・デジタルアセット市場を中心に、投資家心理、センチメント循環、行動バイアス、オンチェーンデータを軸とした市場分析を行う。エックスウィンリサーチ(XWIN Research)シニアアナリスト。あわせてエックスウィングループ代表。Crypto Quantの認定アナリストでもある。また、ブロックチェーン推進協会 DeFi部会長として、国内におけるDeFi・ステーブルコイン・Web3領域の制度整備や普及促進にも関与している。
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