今年4月、1つの新興レイヤー1ブロックチェーンの開発を進めるプロジェクトが、4400万ドル(約70億円)規模の資金調達を完了した。投資家の中には、日本を代表する大手総合商社の住友商事の名もある。同社は子会社を通じ、戦略的投資家として参加した。
プロジェクトの名は「Pharos(ファロス)」。金融分野に特化し、不動産など現実資産(RWA)のオンチェーン活用を目指す。4月28日にメインネット「Pacific Ocean」を稼働させた。開発には、中国で10億人以上が利用するQRコード決済サービス「Alipay(アリペイ)」を運営するAnt Group(アントグループ)出身のメンバーらが関わっている。
このプロジェクトに、なぜ日本の大企業も期待を寄せているのか。
NADA NEWSは7月14日、来日したファロスの最高戦略責任者(CSO)、デビット・ダイ(David Dai)氏に取材した。金融特化型L1を立ち上げた狙いや日本の低金利環境を活用した「スプレッド戦略」について聞いた。
伝統金融のDNA
──Pharosを立ち上げた狙いについて教えてほしい。
ダイ氏:私自身は伝統的な金融機関で金融商品の組成やオリジネーションなどを担当してきた。TradFiの出身だ。
チームの多くも同様に金融領域のバックグラウンドを持つが、大きな強みは共同創設者たちの経歴にある。
彼らは、アントグループで最高技術責任者(CTO)やチーフサイエンティストを務め、数億人規模の決済インフラやブロックチェーンをゼロから設計・構築してきた。

私たちが目指しているのは、RWA(現実資産)を単にブロックチェーン上に持ってくることではない。メインネットのローンチから3カ月ほど経過したところだが、私たちは「実際に金融市場で機能し、流通するユースケース」を作ることに特化している。
資産をオンチェーン化するだけのトークン化ではなく、二次市場での取引やレンディングを可能にし、ユーザーが実際に資産を活用できるインフラを構築する点が、他プロジェクトとの違いだ。
──イーサリアムなど既存のレイヤー1チェーンでもRWAのトークン化は可能だ。あえて新たなチェーンを立ち上げた理由は。
ダイ氏:既存チェーンでは乗り越えられない障壁が主に3つある。
第一に、ユーザーの参入障壁だ。現在、現実資産を裏付けとしたオンチェーンの金融商品を利用するには、自身で秘密鍵を管理するセルフカストディウォレットを作成し、DeFiプロトコルを利用するなど、暗号資産に慣れたユーザーを前提とした操作が求められる。一般の金融ユーザーにとってはハードルが高く、普及の妨げになっている。
第二に、リスク管理の欠如がある。現在オンチェーンにある資金の多くは、高APY(年率利回り)やインセンティブを追う投機的な資金で、伝統金融で前提となる「リスク調整後リターン」の考え方が根付いていない。過去に多発したDeFiのセキュリティ事故の多くも、多くの金融機関で求められるようなリスク管理が整備されていないことが背景にある。
第三に、データの不透明性だ。暗号資産は取引履歴や保有状況などのデータをブロックチェーン上で確認できる一方、RWAは実体がオフチェーンにあるためブラックボックス化しやすい。発行体が情報を開示するまでのタイムラグがあり、資産の状況をリアルタイムで把握するのは難しい。

Pharosは、こうした参入障壁やリスク管理、データの透明性といった課題をL1レベルの金融インフラから解決することを目指している。
AIエージェントが金融取引を主導
──Pharosは「AI」の活用にも力を入れているが、ブロックチェーンとAIを掛け合わせることで何が可能となるのか。
ダイ氏:私たちは、中長期的にデジタル資産を動かすメインユーザーは人間ではなく「AIエージェント」になると確信している。彼らが自律的にブロックチェーンやdAppsとやり取りし、取引や決済をより効率的に行うようになるだろう。
その未来に備え、私たちはすでにAIエージェントを制御する独自のプログラムを開発している。世間は「AIに何ができるか」ばかりを議論しているが、金融の世界で本当に重要なのは「AIに何をさせてはいけないか」を決めることだ。
AIの行動をどうコントロールし、損失を防ぎ、何か問題が起きた時の責任の所在をどこにするかをはっきりさせる。Pharosはこれをチェーンの基本インフラとして組み込んでいる。
日本の低金利を逆手に
──日本を代表する総合商社の「住友商事」も子会社を通じて出資している。日本市場にはどのような期待をしているか。
ダイ氏:住友商事をはじめとする日本のパートナーは、私たちの日本市場展開において極めて重要な存在だ。日本は、他国にはない非常にユニークで魅力的なマクロ環境を持っている。それは「資金調達コストが低い水準にある」という点だ。

日本円(JPY)であれば約2〜3%という極めて低い金利で資金を調達できる。ここに、JPYSCなど日本円建てのステーブルコインを組み合わせるのが、私たちの戦略だ。
例えば、日本国内で2〜3%で日本円(またはJPYSC)を調達し、Pharos上で提供される新興国の消費者ローンを裏付けとしたRWA商品で運用すれば、円の保有者はボラティリティを抑えながら数%規模のスプレッド(利ざや)を得られる可能性がある。
その一例が「APC(Axil Prime Credit)」だ。Pharos上で提供されるこのRWA運用商品は、タイやメキシコなどの個人向け小口ローンを裏付け資産とし、目標年間利回り約14%を掲げている。
現在はSBIホールディングスなど、日本の主要金融プレイヤーと、この魅力的なスプレッドモデルや日本円建てステーブルコインの活用について具体的な対話を進めているところだ。
銀座の高級ホテルや北海道のスキーリゾート
──日本市場での具体的なロードマップはあるか。
ダイ氏:日本の不動産のRWA化は、海外の投資家にとって非常に強力なアセットになると見ている。例えば、銀座周辺にある稼働率95%〜100%の高級ホテルや北海道のスキーリゾートなど、日本には世界最高峰の優良アセットが多数存在する。
一方で、海外投資家にとっては、こうした投資機会へのアクセスは容易ではない。日本円での資金調達や為替リスクの管理といった課題もある。
私たちは日本企業や不動産会社とも対話を進めており、こうした優良アセットをオンチェーンで活用し、海外投資家がアクセスしやすい投資の仕組みを構築したいと考えている。
日本市場への参入を急ぐつもりはない。まずは規制やコンプライアンス、商習慣への理解を深め、現地のパートナーやステークホルダーとの信頼関係を築いていきたい。その上で、日本の優良アセットと海外の資金をつなぐエコシステムを育てていきたい。
|取材・文・写真:橋本祐樹
|トップ写真:Pharos(ファロス)で最高戦略責任者を務めるデビット・ダイ(David Dai)氏


