「機関投資家はX(旧Twitter)ではなく、データを見る」
今月発足したばかりの非営利団体「Ethereum Institutional」の共同創業者Matthew Dawson(マシュー・ドーソン)氏は、機関投資家がEthereum(イーサリアム)を評価する基準をそう表現した。
同氏は12日、東京・渋谷で開催された「Japan Blockchain Week Summit 2026(JBWS 2026)」の「Ethereum Special Session」に登壇。BitMine Immersion Technologies会長のThomas Lee(トム・リー)氏、JBW共同創設者でzERC20の創業者兼CEOでもある藤本真衣氏と議論を交わした。
ステーブルコインの普及やRWA(現実資産)のトークン化が進み、金融機関によるブロックチェーン活用が本格化するなか、機関投資家は何を見てイーサリアムを選ぶのか──。セッションでは、新組織Ethereum Institutionalの役割や、日本市場への期待も含めて議論が交わされた。モデレーターは、Fracton Venturesの鈴木雄大氏が務めた。
Ethereum Institutionalとは何か
Ethereum Institutionalは、Ethereum Foundation(EF)の機関投資家向け活動を発展させる形で設立された新組織だ。BitMineなどの支援を受けながら、特定のL2やDeFiプロトコルに属さない中立的な立場で、機関投資家とイーサリアムエコシステムをつなぐ役割を担う。
ドーソン氏は、「イーサリアムは分散型ネットワークであり、企業ではない。そのため、機関投資家が普段接するような”窓口”が存在しなかった」と設立の背景を説明した。
EFは今後もプロトコル開発や研究といった中核領域に注力する一方、Ethereum Institutionalは、企業や金融機関への教育や導入支援、実装段階での課題解決など、機関投資家との橋渡し役を担う。
特徴として繰り返し強調したのが「中立性」だ。
「もちろんイーサリアムを支持しているが、私たちの関心はレイヤー1としてのイーサリアムとエコシステム全体の成功にある。特定のL2やDeFiプロトコルに縛られない中立的な立場だからこそ、機関投資家の最善の利益のために行動できる」とドーソン氏は語った。
BitMineが支援する理由
リー氏も、Ethereum Institutionalの強みは「中立性」にあると説明した。
「機関投資家はブロックチェーンや暗号資産を真剣に検討している。しかし金融システムは一枚岩ではなく、多くの企業がそれぞれ異なる利害を持っている。だからこそ、機関投資家同士をつなぐ結節点となる組織が重要になる」
そのうえで、BitMineがEthereum Institutionalを支援する理由について、「私たち自身はDeFiプロトコルやレイヤー2など、特定のサービスを展開しているわけではない。最大の関心は、イーサリアムエコシステム全体が他チェーンに対して優位に立ち、ETHの価値が高まることだ。そのため、特定のプロジェクトに偏ることなく、中立的な立場で支援できる」と語った。
「銀行との協業は象狩り」
金融機関との協業を目指すビルダー(開発会社)への助言も印象的だった。
リー氏は、「銀行に技術を売り込めば済む話ではない」と語る。
「銀行は、その先に顧客がおり、規制当局がおり、長年使い続けてきたシステムも抱えている。優れた技術があっても、それだけで採用されるわけではない」
そのうえで、「銀行への営業は”象狩り(elephant hunt)“のようなものだ」と表現し、巨大組織への導入には長い時間と多くの関係者の合意が必要になるとの見方を示した。
「機関投資家はXではなくデータを見る」
会場からは、「FinTechイベントではRipple(リップル)の存在感が目立つが、イーサリアムをどう一般へ広げていくのか」との質問が寄せられた。
ドーソン氏は、「イーサリアムはこれまで自らを積極的に売り込む文化を持ってこなかった」と認めつつも、「機関投資家はX(旧Twitter)ではなくデータを見る」と語った。
さらに「機関投資家が重視するのは流動性、安全性、信頼性だ。実際にデータを見ると、多くのステーブルコインやRWAがイーサリアム上で展開されており、『一度も停止したことがないチェーンはイーサリアムだけ』という点も評価されている。だからこそ、機関投資家はイーサリアムを選ぶ」と続けた。
「機関投資家の世界ではEthereumはヘビー級」
リー氏も、一般市場と機関投資家ではイーサリアムの認知度が大きく異なると説明した。
「暗号資産業界では、Rippleはストーリーを伝えるのが非常にうまい企業だ」と評価する一方、「Gallup調査では、一般消費者が認知している暗号資産はビットコインが約64%、イーサリアムが約34%で、それ以外はほとんど知られていない」と紹介した。
しかし、「機関投資家の世界では事情がまったく異なる」と続け、「ほぼ100%がイーサリアムを知っている。イーサリアムは機関投資家の世界ではヘビー級の存在だ」と語った。
一方、zERC20創業者兼CEOの藤本真衣氏は、ステーブルコインの普及が進むなかで、プライバシー技術の重要性にも言及した。
藤本氏は、自身がNFT保有をSNSで公開したことをきっかけに脅迫を受けた経験を紹介し、「家族や友人が安心して暗号資産を利用できる環境が必要だ」と述べ、プライバシー技術の重要性を訴えた。
日本市場にも期待
ドーソン氏とリー氏は、日本市場への期待も語った。
ドーソン氏は、ソニーのレイヤー2「Soneium」などを挙げ、「イーサリアムはすでに日本で良いプレゼンスを築いている。今後はアジア、日本でチームを拡充していく」と述べた。
リー氏も、「AI時代に重要となる経済圏は米国、中国、韓国、日本だ。暗号資産とAIは並行して発展していく」とし、「日本は非常に重要な市場になる」と語った。
最後にドーソン氏は、「Ethereum Institutionalの目的は機関投資家との連携だが、イーサリアムを支えているのはビルダーコミュニティでもある。機関投資家であれビルダーであれ、ぜひ一緒に取り組みたい」と呼びかけた。
一方、リー氏は「暗号資産の最良の日々はまだこれからだ。現在は1995年のインターネットのような段階にある」と述べ、今後の普及に期待を示してセッションを締めくくった。
|文・撮影:増田隆幸


