Ethereum Foundation、政府・機関向けガイドを公開──組織再編で強める、政府・機関への働きかけ【MCB FinTechカタログ通信】

2026年7月1日、イーサリアムの開発を支援する非営利団体Ethereum Foundation(イーサリアム財団)が、政府・機関の意思決定者に向けた解説資料「Ethereum Basics for Governments and Institutions」を公開しました。ブロックチェーンやEthereumの仕組み、ガバナンス、他のインフラとの違いを、技術知識がなくても読めるよう24問の一問一答形式でまとめた入門資料です。

このガイドの公開は、財団が2026年6月に発表した大規模な組織再編の直後にあたります。今回は、まず背景にある財団の組織再編を押さえたうえで、ガイドが政府・機関に何を説いているのか、その中身を詳しく解説します。

※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。

財団の40%予算削減と、強まる機関シフト

今回のガイドの公開は、財団が直近で進めている組織改革と関連した動きとみられます。公開の8日前にあたる2026年6月23日、Ethereum Foundationは組織の新体制を発表しました。財団はこの中で、全体の約20%にあたる54人の人員を削減したことを明らかにしています。

あわせて、CoinDeskの報道によれば、財団は2026年の運営予算を約40%削減し、保有資産の取り崩し方針も見直します。これまで年間で保有資産の約15%を支出してきたところを、2030年以降は年間5%程度に抑える方針です。

これは、年15%の取り崩しを続ければ数年で資金が底をついてしまうためで、5%程度に抑えることで、相場の上下に左右されず長期に活動を続けられるようにする狙いです。この見直しは2025年半ばから進められ、2026年3月の方針文書で明確化されたと報じられています。共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏も、今回の削減で失われるものは小さくないと認めています。

組織面では、財団は活動領域ごとに5つの部門へと再編しました。財団の発表によれば、内訳は protocol layer、access layer、user layer、community layer、institutional layer の5つです。このうち institutional layer が、今回のガイドと直接つながる部門です。財団はこの部門を、金融機関、非金融の企業、政府、大学や非営利団体など、利用者がEthereumに接する経路を形づくる組織との取り組みを担うものと位置づけています。

幹部の交代も続いています。2026年1月以降、財団では9人の上級メンバーが退任し、共同エグゼクティブディレクターのシャオウェイ・ワン氏も6月18日付で退きました。暫定的な体制のもとで、研究や運営の重点を絞り込む作業が進んでいる最中です。

こうした支出削減と選択・集中の流れの中で、財団は機関・政府との関わりを独立した部門として立て、その最初の対外的な成果物として今回のガイドを出したと見ることができます。両者を直接結びつける公式の説明はありませんが、6月の組織設計と7月のガイド公開は、機関・政府への働きかけを強めるという同じ方向を指しています。

ガイドが政府・機関に示す中身と、中立性を裏づける数値

ガイドはまず、想定する読者を明示しています。デジタルインフラの評価に直面する政府職員、中央銀行関係者、規制当局、国際機関、企業のリーダーに向けたもので、調達やシステム導入の判断だけでなく、規制・政策の判断にも使える資料と位置づけています。

ガイドが繰り返し強調するのが「中立なインフラ」という考え方です。地政学・金融インフラ・デジタルID・データの完全性・AIのガバナンスといった課題が重なる中で、単一の主体や国家に支配されない共有の公共インフラの必要性が高まっている、という問題意識に立ち、Ethereumこそがその答えになり得ると位置づけています。

中立性の根拠として資料が挙げるのは、Ethereumには特定の運用者が存在しないという構造です。財団自身の役割についても、インターネットの技術標準を策定する団体になぞらえ、ネットワークを運用したり、プロトコル変更を強制したり、参加を管理したりする立場にはないと説明します。財団が保有するETHは総供給の約0.26%にとどまり、ネットワークの検証やプロトコルの決定に影響できる水準ではないとしています。

こうした主張を、ガイドは検証可能な数値でも裏づけます。とりわけ強調するのが、改ざんにかかる経済的なコストです。Ethereumには約760億ドル分のETHが預け入れられ、不正な取引を確定させるには約507億ドルを投じる必要があるとされます(数値はOpenZeppelinの調査に基づく2026年3月時点)。同種の攻撃コストが最大でも約233億ドルのSolanaなどと比べて格段に高く、割に合わないため現実には改ざんが起きにくい、という理屈です。

もう一つが稼働の安定性です。Ethereumは2015年の稼働開始以来一度も止まっておらず、たびたび停止してきたSolanaなどとの違いを強調しています。

意思決定の仕組みも中立性の一部として説明されます。Ethereumの仕様変更は、EIP(Ethereum Improvement Proposal)として公開の場で提案され、「AllCoreDevs」と呼ばれる公開の開発者会議で議論され、独立した複数のクライアント開発チームが実装し、各参加者が採用するかを自ら選ぶ、という段階を踏みます。誰かが承認・拒否・強制する中央の主体は存在せず、単一の企業・個人・国家がネットワークを止めたり支配したりはできないと説明します。対照として、Rippleを開発するRipple社は現在もXRP総供給の約42%を保有し、バリデーターの選定にも影響が及んでいると指摘しています。

企業・財団が支配するチェーンとの違い、Canton・Tempo・GCUL

ガイドの主張が最も明確に出るのが、他のブロックチェーンとの線引きです。政策担当者は「分散した公共のブロックチェーン」と「企業や財団に支配されたままのネットワーク」を区別すべきだ、と資料は説きます。そのうえで、金融向けに使われる代表的な許可型(permissioned:参加や運用に許可が要る)チェーンを実名で挙げ、これらは中立なインフラを構成しないと批判しています。以下はいずれも、財団がガイドの中で述べている見解です。

1つ目はCantonです。ガイドは、Cantonは分散的でも中立でもなく、少数の関係者がアクセスを管理しルールを定めていると述べます。運営財団はDTCC(証券保管振替機関)とEuroclearが共同運営し、プロトコル変更には3分の2の合意が要り、参加には推薦が必要だという点を、その根拠に挙げています。Cantonについては、当ニュースレターでもDTCCが米国証券のトークン化に採用した回で取り上げました。

2つ目はTempoです。StripeとParadigmが立ち上げたこのチェーンについて、ガイドは、有効なバリデーターの集合をTempoチームが許可制で管理している点を挙げ、利用者は暗号技術による保証ではなくStripeとParadigmを信頼しているにすぎないと評しています。Tempoは、VisaがStripe主導のTempoでバリデーターを運用した回で解説した通り、機械同士の決済を担う仕組みです。

3つ目はGoogle Cloudが発表したGCUL(Google Cloud Universal Ledger)です。ガイドは、GCULの採用は単一の商業主体であるGoogleが金融決済の基盤インフラを握ることを意味し、ガバナンス上の重大なリスクになると述べます。そして3つをまとめ、これらの許可型チェーンは担い手を入れ替えただけの古い仕組みを再建し、巨大テック企業をさらに支配的な地位に押し上げる恐れがある、と結んでいます。

一方でガイドは、批判ばかりでなく、機関や政府がすでにEthereumを使っている実例を、使われ方の型ごとに並べます。1つ目は資産運用です。BlackRockのトークン化ファンド「BUIDL」やJPMorganの初のオンチェーン型マネー・マーケット・ファンドなど、規制下のファンドの持分をチェーン上で記録する使い方です。

2つ目はステーブルコインの発行・決済で、Circle、Visa、PayPalなどが挙がります。3つ目は公共分野で、ブータンやブエノスアイレスの分散型デジタルID、インドの土地登記(Ethereum系のPolygonを利用)、欧州投資銀行のデジタル債発行などです。4つ目は、銀行が内部の許可型システムを保ちつつEthereumを外部の共有台帳として併用するハイブリッド型で、JPMorganのKinexysが例に挙がっています。

考察

今回のガイドは、財団が支出を大きく絞り込む一方で、機関・政府との関わりを独立した部門として立てたタイミングで出ています。組織を縮小しながらも機関向けの取り組みを構造として残した点に、財団の優先順位がうかがえます。ガイドの狙いは、製品としてEthereumを売り込むことよりも、政策・調達を判断する側に正確な理解の材料を渡すことに置かれていると考えられます。

ただし、この資料はEthereumの開発を支援する財団自身が、自らのネットワークの優位を説くために作ったものです。中立性や分散の価値を強調する一方で、許可型チェーンを選ぶ側にも相応の理由があります。参加者を限定できること、データのプライバシーを制御しやすいこと、既存の規制や法務要件に合わせやすいことは、金融機関にとって現実的な利点です。ガイドの主張は一方の立場からの整理として読むのが妥当でしょう。

その観点で興味深いのが、ガイドが比較対象として Canton・Tempo・GCUL という具体名を挙げた点です。いずれも金融機関や政府を顧客に見据えた、資金力のある許可型チェーンです。そして、財団が institutional layer を新設して取りにいこうとしている領域である、機関向けの決済・トークン化の基盤で競合する相手でもあります。

中立性の欠如を理由にこの3つを名指ししたことは、財団がこれらを競合として意識していることの表れとも読めます。その意味で今回のガイドは、政策担当者向けのドキュメントであると同時に、機関向け市場を獲得しに行くというEthereumの立ち位置を財団が明確に示した、という側面も持つものと考えられます。

|画像:Shutterstock

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