エックスウィン アメリカマーケットリサーチアナリストのデリア・ロホです。
サンフランシスコから、現在アメリカの暗号資産業界で最も重要なテーマの一つであるCLARITY法案についてお伝えします。
アメリカでもCLARITY法案への注目が高まっていますが、実際には「すでに可決された」と誤解している人も少なくありません。しかし現時点では、CLARITY法案はまだ成立していません。現在は法案成立へ向けた重要な最終調整段階にあり、市場関係者の関心は「成立するかどうか」ではなく、「いつ成立するのか」に移り始めています。
そもそもCLARITY法案とは、アメリカにおける包括的な暗号資産市場構造法案です。
ビットコイン、イーサリアム、DeFi、暗号資産取引所、トークン発行体などに対する明確なルールを整備することを目的としています。
多くの業界関係者は、この法案が今後10年のアメリカ暗号資産規制の土台になると考えています。この法案が重要視される最大の理由は、現在のアメリカ市場が「規制の曖昧さ」という問題を抱えているからです。
これまでSEC(証券取引委員会)は多くの暗号資産を証券と主張してきました。一方でCFTC(商品先物取引委員会)は、一部のデジタル資産を商品として扱うべきだと主張しています。
その結果、多くの企業は「自分たちはどちらの規制対象なのか」が分からない状態に置かれてきました。
CLARITY法案は、その問題を解決しようとしています。
具体的には、SECとCFTCの管轄を明確化し、新たに「デジタルコモディティ(Digital Commodities)」というカテゴリーを創設します。
また、暗号資産取引プラットフォームの登録制度、資産保管ルール、トークン発行者の開示義務、DeFiに対する枠組み、AML(マネーロンダリング対策)なども盛り込まれています。
さらに、現在議論されているGENIUS Actによるステーブルコイン規制との整合性も図られています。
ここで興味深いのは、法案審議に「農業委員会」が関わっていることです。
海外の人から見ると不思議に思えるかもしれませんが、これは農業政策の話ではありません。農業委員会は歴史的にCFTCを監督しており、小麦やトウモロコシなどの商品先物を管轄してきました。そのため、デジタル資産が商品として扱われる部分については農業委員会が審議を担当しています。
一方、SECを監督するのは銀行委員会です。
つまりCLARITY法案は、両方の規制当局に関わるため、両委員会が関与する必要があるのです。
現在までの進捗を見ると、農業委員会では12対11、銀行委員会では15対9で法案が承認されました。
特に銀行委員会では共和党全員に加え、一部民主党議員も賛成しており、超党派で一定の支持を得ています。この点を見る限り、法案そのものへの支持は比較的強いと言えるでしょう。
しかし、ここからが本当の勝負です。
現在は農業委員会版と銀行委員会版の内容を統合する作業が進められています。さらにGENIUS Actとの整合性や技術的修正、倫理規定の調整なども行われています。この統合作業こそが、現在の最大の焦点です。
そして最大の政治的障害となっているのが「倫理規定」です。
民主党側は、トランプ大統領やその家族と関係がある暗号資産事業について、より厳格な利益相反規定を求めています。
一方でホワイトハウス側は、「全員に平等に適用されるルールなら支持できるが、特定の個人だけを対象とする規定には反対だ」という立場を取っています。
つまり現在の争点は、暗号資産政策そのものというより、政治的な倫理規定へ移りつつあるのです。
さらに本日、新たな論点も浮上しました。
JPモルガンのCEOである Jamie Dimon 氏は、現在のCLARITY法案に対して懸念を示しています。特に、暗号資産取引所がステーブルコイン保有者へ利回りや報酬を提供できる可能性について、強い警戒感を表明しました。これは一見すると規制の細かな論点に見えますが、私はもっと本質的な問題だと考えています。
なぜなら、この議論は「銀行預金」と「ステーブルコイン」の競争そのものだからです。
もし将来的にステーブルコイン保有者が利回りを受け取れるようになれば、一部の資金は銀行預金からステーブルコインへ移動する可能性があります。銀行業界から見れば預金流出リスクであり、暗号資産業界から見れば金融の効率化です。つまり現在のCLARITY法案を巡る議論は、単なる暗号資産規制ではなく、「誰が未来の金融インフラを担うのか」という戦いに発展し始めているのです。
また、市場が注目しているのが「60票問題」です。
アメリカ上院にはフィリバスターという制度があり、最終採決へ進むためには100議席中60票が必要になります。現在、共和党は約53議席を保有しているため、法案成立には複数の民主党議員の協力が必要です。この60票を確保できるかどうかが、今後最大の政治的ハードルになります。
私個人としては、CLARITY法案は最終的には成立する可能性が高いと考えています。
しかし、その道のりが簡単だとは思っていません。
現在もステーブルコイン利回り問題や倫理規定を巡る調整が続いており、今後選挙シーズンが本格化すれば政治的な駆け引きも激しくなるでしょう。
さらに将来的に民主党が政権を奪還した場合、現在の暗号資産推進路線がどこまで維持されるのかという不確実性も残っています。市場では70%前後の確率で成立すると予想する声もありますが、重要なのは「可決するかどうか」ではなく、「予定通り進むかどうか」です。
もし審議が大幅に遅れれば、選挙政治に巻き込まれ、成立への道のりは一気に複雑になります。そのため市場が本当に警戒しているのは“否決”ではなく、“遅延”なのです。
一方で、現在のアメリカ市場では株式市場が依然として強い動きを見せています。
もし今後、株式市場の上昇が落ち着き始めれば、新たな投資資金が暗号資産市場へ流入する可能性もあります。
その意味でも、CLARITY法案は単なる規制法案ではありません。アメリカが暗号資産産業を正式な金融インフラとして受け入れるのかどうかを決める歴史的な分岐点なのです。
現時点で最も正確な表現をするならば、私はこう考えています。「CLARITY法案は依然として前進している。しかし現在の焦点は、成立するかどうかではなく、“どのような形で、いつ成立するのか”へ移り始めている」。



