2026年5月14日、米上院銀行委員会が、デジタル資産市場の規制枠組みを定める「Digital Asset Market Clarity Act(CLARITY法)」を15対9で可決しました。共和党全13名に加え、民主党のRuben Gallego議員(アリゾナ州)、Angela Alsobrooks議員(メリーランド州)の2名が賛成し、超党派での委員会通過となりました。
CLARITY法は、暗号資産・トークン化資産を含むデジタル資産市場の構造を定める包括法案で、2025年7月に下院を294対134で通過後、上院銀行委員会と上院農業委員会の二委員会で並行審議されてきました。今回の上院銀行委員会版では、SECとCFTCの管轄分担に加え、「ネットワーク・トークン(network token)」「付随資産(ancillary asset)」の新概念、DeFi(分散型金融)に特化したTitle III、ステーブルコイン保有報酬の取扱を巡る妥協案などが追加されています。
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今回は、上院銀行委員会版のCLARITY法と、本会議成立までに残された手続きについて解説します。
CLARITY法のこれまでの経緯と上院銀行委員会版の位置づけ
CLARITY法(Digital Asset Market Clarity Act of 2025、H.R. 3633)は、米国のデジタル資産市場における規制空白の解消を目的とした市場構造法案です。米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)のいずれが各トークンを監督するのかが法定されていない状態が長く続き、事業計画の予見可能性と消費者保護の両面で課題となってきた経緯があります。
下院では2025年7月、CLARITY法案が294対134の超党派で可決され、上院に送られました。上院では銀行委員会と農業委員会の二つに管轄が分かれ、銀行委員会はSEC関連の証券法整備とステーブルコインを、農業委員会はCFTC関連の現物(スポット)取引と派生商品を主に担当する分業体制で審議が進められています。
上院銀行委員会では、まず2025年9月に「Responsible Financial Innovation Act of 2025(RFIA)」のディスカッション・ドラフトが公表されました。続いて2026年1月12日に同委員会のTim Scott委員長(共和党、サウスカロライナ州)がCLARITY法案として大幅改訂版を提示し、5月12日に最終版を公表、5月14日の委員会採決に至っています。
ステーブルコインに特化した規制としては、すでに2025年7月にGENIUS法が成立しています。GENIUS法がステーブルコインの発行体規制に絞っているのに対し、CLARITY法はトークン分類、SEC/CFTCの役割分担、DeFi、ブローカー・ディーラー、取引所など、市場構造全体を対象とする位置づけです。CLARITY法の上院での審議経緯については、2025年10月時点で上院協議が本格化した際の論点解説もあわせてご参照ください。
上院銀行委員会版のCLARITY法の特徴
上院銀行委員会版CLARITY法の中心となるのは、デジタル資産の分類を整理し、SECとCFTCの管轄を明確に分ける構造です。具体的には、価値がブロックチェーンの利用に本質的に結びついた「デジタル・コモディティ(digital commodity)」をCFTCの専属管轄とし、現物市場を含む取引・仲介を同委員会が監督します。証券性のある資産や一次市場での資金調達はSECの管轄として残し、ステーブルコインはGENIUS法の枠組みでカバーする構造となっています。
委員会版で新たに導入された概念が「ネットワーク・トークン(network token)」と「付随資産(ancillary asset)」です。ブロックチェーン上のプロトコルのために発行されるネットワーク・トークンは、原則として付随資産(ネットワーク稼働に付随する資産)として推定されますが、その推定は反証可能(rebuttable presumption)であり、発行体は合理的な根拠を伴う書面の証明をSECに提出することで、当該トークンが付随資産に該当しないことを示すことができる仕組みになっています。下院版(H.R. 3633)には存在せず、上院銀行委員会版で追加された規定です。
DeFiに関する条文も再整理されました。新設されたTitle IIIでは、SECと米財務省に対し、非分散型(non-decentralized)の取引プロトコルを運営する主体の登録規則を明確化することが義務づけられています。「非分散型」かどうかの判定は、プロトコル運営の支配権・裁量、あるいはプロトコルの動作を変更したり検閲したりする能力の有無に焦点が置かれています。
また、付随資産関連の規定(Title I Sec. 104)では、サイバーセキュリティ上の緊急対応や事故対応に伴う関係者間の協調は「共通支配(common control)」や「協調行為に基づく合意」には該当しないと明文化され、セキュリティ・インシデント発生時の開発者・運営者の責任範囲が絞り込まれました。
ソフトウェア開発者の保護については、Title VIに含まれるBlockchain Regulatory Certainty Act(BRCA)の規定により、ブロックチェーン開発者および提供者が送金事業者の登録要件の対象外となる旨が明示されました。ソフトウェアの作成、分散台帳の維持、カストディ用インフラの提供といった行為そのものは、送金事業者規制の対象外となります。
ステーブルコインの取扱についても、銀行業界と暗号資産業界の間で長く対立してきた論点に妥協案が示されました。Thom Tillis議員(共和党、ノースカロライナ州)とAngela Alsobrooks議員(民主党、メリーランド州)が起草した条文では、取引所などの仲介業者が顧客のステーブルコイン保有残高そのものに対して利回りを支払うことは禁止されます。一方で、取引活動に応じた報酬(取引インセンティブ、ロイヤリティプログラム、ガバナンス参加への報酬など)は許容されます。
American Bankers Association(米国銀行協会、ABA)など銀行業界の団体は、ステーブルコイン保有への利息相当の支払いをさらに厳格に禁止するよう求めており、本妥協案では一定の譲歩が図られた形となっています。
考察──本会議成立までの手続きと日本市場への示唆
5月14日時点で、CLARITY法案が成立するまでには複数の手続きが残されています。まず上院では、今回可決された銀行委員会版(証券法・ステーブルコイン関連が中心)と、現在審議が継続している農業委員会版(CFTC関連の現物・派生商品が中心)を統合し、上院全体としての1本の法案にまとめる作業が必要です。両委員会の管轄が並行する構造のため、最終条文の調整は調整委員会または超党派の議員グループによって行われると見られます。
統合された上院法案は本会議審議に進みます。米上院では法案の採決自体は単純過半数で可能ですが、議事妨害(filibuster)を打ち切るための討論終局動議(cloture motion)に60票の賛成が必要となるため、可決には事実上60票が要件となります。共和党は53議席を保有しており、可決には民主党側からあと7名以上の追加賛成を確保する必要があります。
今回の委員会採決ではGallego議員、Alsobrooks議員が賛成したほか、共和党のMike Rounds議員(サウスダコタ州)が提出したAI規制サンドボックス設置修正案も15対9で可決され、複数の民主党議員が賛成票を投じています。本会議でも一定数の追加賛成が見込まれる一方、追加票の確保は依然として不透明な状況です。
仮に上院で可決されたとしても、すでに下院を通過したCLARITY法案(H.R. 3633)とは条文が大きく異なるため、両院協議会または下院での再可決を通じて、両院の文言を一致させる必要があります。トランプ政権はCLARITY法案について2026年7月4日(米国独立記念日)までの成立を目標として表明していますが、上記の手続きを踏まえると、目標達成には立法カレンダー上の余裕が乏しい状況です。
日本市場への示唆として、SECとCFTCの管轄分担を法定化する米国の枠組みは、金融庁が暗号資産・電子記録移転権利・電子記録移転有価証券表示権利を一元的に監督する日本の体制と対照的な構造を取っています。日本では、暗号資産は資金決済法、トークン化された証券性のあるものは金融商品取引法の電子記録移転権利として整理される構造がすでに存在しています。
米国のデジタル・コモディティと付随資産の分類は、日本の現行分類とは出発点が異なるものの、トークン分類のグレーゾーンを縮小しようとする方向性は共通しています。DeFiについては、日本では現時点で具体的な法整備の議論が深まっておらず、CLARITY法案Title IIIの行方や、SEC・財務省が今後示す登録規則の運用は、日本における今後の議論にも参考材料となり得ます。



