2026年2月下旬、都内で開催された「GFTNフォーラム・ジャパン2026」には、世界中から暗号資産(仮想通貨)業界のキーパーソンが集まった。グローバルに展開する暗号資産取引所バイナンス(Binance)のCEO、リチャード・テン(Richard Teng)氏とアジア太平洋地域ビジネス責任者のSBセーカー(SB SEKER)氏も登壇し、メディア向け説明会を行った。
会場で繰り返し語られたのは、「規制の明確化」と「ステーブルコインの拡大」といった点だった。年初から軟調な相場環境が続く中、世界最大級の取引所を率いる経営陣は、現在の暗号資産市場と今後の未来をどう捉えているのか。
本記事では、バイナンスジャパン代表取締役の千野剛司氏によるプレゼンテーションと、テン氏・セーカー氏のパネルディスカッションの模様を振り返る。
金商法移行は「バラ色ではない」
冒頭に登壇した千野氏は2026年の国内の注目点として、暗号資産が金融商品取引法(金商法)の枠組みに移行する規制の動きを挙げた。決済手段としての位置づけから金融商品へと転換されることで、申告分離課税の適用やETF(上場投資信託)の実現が視野に入っている。
千野氏は、2028年をめどとした税制改正の見通しについて「大きな前進」と評価する一方、金商法への移行を手放しで歓迎しているわけではないと強調。「バラ色の世界だけではないとお伝えしたい」と述べた。

暗号資産が金商法下に組み込まれることは、株式や投資信託と同様に”国民の資産形成に資する金融商品”として扱われることを意味する。しかし千野氏は、投資家保護の水準を高めることは当然としつつ、制度設計次第では市場の多様性が損なわれる可能性があると指摘した。
「証券会社がビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)とリップル(XRP)だけを扱って終わり、というマーケットになりかねない」とし、さまざまなプロジェクトがトークンを発行して資金調達を行うといった暗号資産本来の機能が制約される懸念にも言及した。
そのうえで「法案ができた後の下位法令である府令や政令、そしてガイドラインで、どういった細かい規定が盛り込めるかが勝負だと思っている」と続けた。
PayPayとの連携、バイナンスカードの提供
バイナンスジャパンの事業面では、「既存プラットフォームとの融合」を重視する方針を改めて示した。具体例として挙げたのがPayPayとの連携とバイナンスカードの発行だ。
同社は昨年10月、PayPayとの資本業務提携契約を発表。すでにバイナンスジャパンのアプリ上でPayPayマネーによる暗号資産の購入が可能となっているが、PayPayのアプリ内でバイナンスのサービスを利用できる形も目指すとした。

千野氏は、暗号資産が「PayPayで買える」となれば、ユーザーとの距離は大きく縮まるとし、日常的に利用される決済アプリを起点に、暗号資産の利用を広げる狙いを語った。
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また、今年1月に提供開始を発表したクレジットカード「Binance Japan Card」についても言及。同カードは、JCBとライフカードとの提携で提供しており、顧客の毎月の決済額に応じてビルドアンドビルド(BNB)が還元される仕組みだ。
千野氏は暗号資産に関心のあるユーザーだけでなく、日本独特の「ポイ活」文化を通じて新たなユーザー層の獲得にもつながっているとした。
千野氏は最後に、バイナンスジャパンの取扱銘柄数が65銘柄と国内最多水準に達しているとしたうえで、今後は100銘柄まで拡大する方針を示した。さらに、日本円建ての取引量でも同業他社を上回り、シェアを着実に拡大していると述べた。
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千野氏はこうした現状について、「(バイナンスジャパンの)参入から約2年半で、グローバルの流動性に見劣りしない水準まで成長した」と述べ、国内事業の立ち上がりに手応えを示した。
規制の整備が市場を動かす
千野氏のプレゼンに続いては、テン氏とセーカー氏によるパネルディスカッションが行われた。議論の軸となったのは、グローバルで進む規制整備と、それに伴う市場構造の変化だ。
テン氏は、昨年アメリカでジーニアス法が成立した結果、ステーブルコインの利用が急速に成長し続けているとし、「世界最大の資本市場である米国がルールを整備すれば、各国も競争力維持のために追随せざるを得ない」と指摘。香港などでも同様の動きが進んでいるとし、各国で制度整備が加速しているとの認識を示した。

そのうえで、「バイナンスはすでに21の国・地域でライセンスを取得し、3億人超のユーザーを抱える『金融スーパーアプリ』として、今年は暗号資産にとどまらず、より幅広い金融商品を提供していく方針だ」と述べた。
セーカー氏はアジア太平洋地域について補足した。「規制の収れん(コンバージェンス)」が進んでいると分析しており、ステーブルコインやトークン化といった潮流に沿って、各国の制度が同じ方向へと整いつつあるとの見方を示した。
具体的にはオーストラリアやインドを引き合いに、これまでのマネーロンダリング対策中心の登録制から包括的なライセンス制度へ移行していると紹介。日本や韓国も既存の枠組みをベースに、税制などの整備を進めているとしたうえで、「アセットクラス全体が成熟してきた証拠。日本や韓国のような市場は、大規模な普及のためのインキュベーション環境になり得る」と述べた。
問われるはステーブルコインの「質」
ステーブルコインの話題になると、セーカー氏は、「有益かどうか」を問う段階はすでに終わったとの認識を示した。焦点は、どれだけ実用的で、どの領域で価値を発揮できるかに移っているという。

その鍵となるのが品質だ。発行・償還プロセスの透明性や、裏付け資産の確実性といった設計が信頼性を左右するとし、「問われているのは“高品質かどうか”だ」と強調した。
日本市場についても、JPYCやProgmat、Circleといったプレイヤーの動きを評価し、「多様な発行体との連携を通じて、ユーザーに選択肢を提供していく」と述べ、エコシステム拡大への期待を示した。
暗号資産は「リテールが先、機関投資家が後」
テーマは、機関投資家による暗号資産への参入に移った。
テン氏は暗号資産というアセットクラスの特異性として「リテールが先行し、機関投資家が後から入る唯一の市場」だと指摘。「株式も債券も、通常は機関投資家が先に採用し、その後に個人へ広がっていく」が、暗号資産は逆だと述べた。
テン氏は「機関投資家の参入が本格的に始まったのは2024年。アメリカでETFが承認されたことがきっかけだった」とし、「2025年には企業のトレジャリー活用も広がり、今、新しい波が来ている」と述べた。
実際、バイナンスでは2024年から2025年にかけて機関投資家やファミリーオフィスの参加が急増し、2025年の機関投資家取引量は前年比で20%増加したと紹介。ただしテン氏は「まだ初期のフェーズ」で、機関投資家の参入はさらに加速すると見ているという。
「機関投資家はデューデリジェンスに時間をかけるが、一度参入すれば長期保有者になる」と述べた。
機関投資家のニーズはリテールとは大きく異なるため、同社はこの2年間で、機関投資家に特化したサービスを多く開発してきたと振り返った。フランクリン・テンプルトンとの提携もその一環とし、ブラックロックやフィデリティなど大手金融機関の参入が今後さらに進むとの見方を示した。

セーカー氏は、機関投資家が新しいアセットクラスに参入する際には「相互運用性」と「法的確実性」を重視すると指摘。トークン化された資産の普及には、異なる金融機関・システム間をつなぐ基盤が不可欠であり、こうした領域で同社がサービスを提供できる余地が大きいと主張した。
AI×ブロックチェーンは日本経済も変革
セッションの終盤は、AIとブロックチェーンの融合がテーマになった。テン氏は両者を「補完的な技術」と位置づける。
「AIは大量のデータを瞬時に処理することに長けており、ブロックチェーンは改ざんできない記録媒体として機能する。この2つの技術が、今後すべての経済セクターの変革を推進していくだろう」
テン氏によると、バイナンス内部でもAIの活用は進んでおり、コーディングのほか、カスタマーサポートや不正検知、コンプライアンス業務にも広がっているという。テン氏は経営陣に対してもAI活用を強く推奨していると述べた。
さらにテン氏は、日本が技術に積極的に投資する国であることにも触れ、「AIとブロックチェーンへの継続的な投資があれば、日本経済にも変革が起こるだろう」と期待を示した。
|文:橋本史郎
|編集・写真:NADA NEWS編集部
|トップ画像:バイナンスのCEO、リチャード・テン(Richard Teng)氏
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