2月末から3月上旬にかけて「Japan Fintech Week」が開催され、国内外の金融・テクノロジー企業が相次いで独自イベントを展開した。
ディーカレットDCPは、Fintech Weekに先立つ2月19日、アクセンチュアと共同で招待制セミナー「Tokenizationがもたらす金融ビジネスの再定義」を実施。海外から、昨年9月に「トークン化預金での外貨取引に関する本格検討開始」をともに発表したシンガポールのPartiorおよび「業務提携に関する覚書(MOU)」を同日に締結したOndo Financeが登壇した。
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基調講演と2つのパネルセッションで、トークン化預金を起点とする決済、国際送金、グローバルキャッシュマネジメント、そしてその先にあるデジタル資産での運用までを含む金融インフラの再設計について議論した。
以下、当日の議論を1つ目のパネルセッションを中心に追う。登壇各社の発言からは、トークン化をめぐる競争が「発行」から「接続」と「利用」の段階へ移りつつあるという共通認識がうかがえた。
なお、PartiorおよびOndo Financeの登壇者とディーカレットDCPについては、別途、インタビューを実施している。
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ユーティリティが次の競争軸:アクセンチュア 藤瀬氏
当日はまず、アクセンチュアの藤瀬秀平氏(ストラテジーグループ|プリンシパル・ディレクター)が基調講演を行った。藤瀬氏は、グローバルで進むトークン化の潮流について、米国、欧州、アジアの大手金融機関が相次いで参入している背景には、既存金融の構造的な非効率があると指摘した。
各国内、各業界内では最適化されていても、国境をまたぐ接続や銀行・証券・決済の横断ではなお分断が残っており、全体最適を目指す動きとしてトークン化が進んでいるという。

藤瀬氏は、縦軸に「トークン化の対象」、横軸に「使われ方」を置いて、全体像を整理し、競争は「何をトークン化するか」だけではなく、「どれだけユースケースを重ねられるか」に移っていると説明した。
さらに、金利の付かないステーブルコインや預金トークンに、トークン化MMFのような運用商品と連携させる発想は、今後の実務上の大きな論点になるとした。
「二層構造」で共通基盤をつくる:ディーカレットDCP

続くパネルディスカッション①には、ディーカレットDCP 営業戦略本部 副本部長の濱﨑栄氏、PartiorのAbhinav Goel(アビナブ・ゴエル)氏、Ondo FinanceのKunaal Patel(クナール・パテル)氏が登壇。「トークン化預金を用いたクロスボーダー領域における事業機会と競争戦略」をテーマに議論した。モデレーターはアクセンチュアの原田聡恵氏が務めた。
冒頭、濱﨑氏はDCJPYの構造と仕組みを説明した。DCJPYは、トークン化預金を発行する「フィナンシャルゾーン」と、デジタルアセットを発行・移転する「ビジネスゾーン」から成る二層構造のプラットフォーム。2つの層を連携させることで、資産移転と資金決済を同時に行うDvPを実現すると述べた。
海外大手と戦うために
濱﨑氏の発言で印象的だったのは、日本の金融インフラが海外に遅れることへの危機感だ。海外の金融機関の動きについて濱﨑氏は「インフラそのものを変えていく動きが非常に速い。追いつかなくてはいけないという危機感がある」と述べた。
そして自身が長年、銀行でキャリアを重ねたことを踏まえつつ、「少なくともインフラレベルで海外大手と戦えるものを、日本の銀行と一緒に実現したい」と語った。
さらに各行が個別にトークン化預金やステーブルコインを発行すること自体は可能だが、広く使われるには相互接続が必要になると指摘。「その部分は、共通インフラとして提供できた方がいいというのがDCJPYのコンセプトだ」と説明し、日本円の共通基盤としてDCJPYを位置づけた。
とはいえ、国内ではDCJPYを発行する銀行の拡大や具体的な利用シーンづくりは、まだ初期段階にある。共通基盤として参加行をどこまで広げられるかが今後の焦点になる。
集めた資金をどう運用するか
続けて濱﨑氏は、トークン化預金の次のフェーズとして、運用への接続をあげ、グローバルCMS(キャッシュマネジメントシステム)の話題では、企業が資金を集約した後、「どうするのか?」という議論が抜け落ちがちだと説明した。
機関投資家にとっては1分1秒の遅れも許されない世界であり、トークン化預金のプログラマブルな性質を使って、集めた資金をデジタルアセットで運用し、必要なときに即座に戻すような世界が、数年のうちにグローバル金融のデフォルトになるだろうとの見方を示した。
そして、トークン化預金の接続先として、この日登壇したOndo FinanceのようなRWAプレイヤーが一例としてあげられた。
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相互運用性なしにスケールはない:Partior

Partiorのアビナブ・ゴエル氏は、自社の起点をシンガポール金融管理局(MAS)主導のプロジェクトに置きつつ、現在は米ドル、ユーロ、シンガポールドルで商用フローを持っていると説明。昨年夏に発表したディーカレットDCPとの連携は「グローバル銀行と日本市場をつなぐこと」が目的だと述べた。
またゴエル氏はPartiorの柱として、デジタルキャッシュ、プログラマビリティ、マルチアセット、インターオペラビリティ(相互運用性)の4点をあげた。
企業の流動性管理は従来、日次ベースのレポートに依存してきたが、プログラマビリティによってリアルタイムなものに変わる。さらに、事前の資金拘束を減らし、複数資産から決済手段を選べる柔軟性も重要になるという。そして、トークン化預金は「複数ネットワークと相互運用できなければ銀行に十分なスケールを提供できない」と述べた。
また、パネル終盤では「4年前は、1つのネットワークが主流になると考えていたが、実際には用途ごとに複数ネットワークが並立することがわかった」と率直に語り、2026年の重点をインターオペラビリティに置くとした。
預金トークンは選択肢の一つ:Ondo Finance

Ondo Financeのクナール・パテル氏は、同社を「伝統的金融商品をトークン化し、機関投資家と個人投資家に提供する資産トークン化プラットフォーム」と紹介した。現時点でトークン化米国債とトークン化米国株式およびETFで大きな残高を持つという。
Ondo Financeは、トークン化米国債や株式を複数チェーン上で展開しており、ステーブルコインと並ぶ決済手段の一つとしてトークン化預金を位置づける考えを示した。
「日本のような市場では、トークン化預金に対する需要がある」とし、「銀行がDCJPYを使ってトークン化米国債へのエクスポージャーを持つことは自然なユースケースだ」と述べた。また、JPモルガンとのクロスチェーンDvPの実証実験に触れ、「トークン化資産の採用はより広範に浸透しつつある。これはOndoのトークン化米国債を決済資産として利用した、この種のものとしては初となるDvP決済の取引だ」と語った。
技術面では「例外処理」が焦点

パネルセッション②では「トークン化預金の社会実装に向けた技術・制度・運用の論点」と題して、ディーカレットDCP プロダクト開発グループ 開発チームヘッドの森浩貴氏、Partiorのゴエル氏、アクセンチュア エマージングテクノロジー アソシエイト・ディレクターの山田昌嗣氏が議論。モデレーターは引き続き、アクセンチュアの原田氏が務めた。
森氏は、フィナンシャルゾーンとビジネスゾーンの間でトークンを移す際、金融側で資金をロックしてからビジネス側でトークンを発行するエスクロー構造を採用していると説明。一方で、通信失敗や未達、遅延といった例外ケースもあり、「実装で非常に苦労した」と率直に語った。
ゴエル氏は、銀行システムにおいて重要なのは、失敗時の扱いだと指摘した。銀行が求めるのは、リアルタイム処理だけでなく、整合性や完全性を崩さない運用であり、「オンチェーン化は一気に起きるものではなく、段階的な移行の旅」との認識を示した。さらに、AIやIoTとの接続により、例えば、荷物の到着と連動した自動支払いといったユースケースも視野に入ると述べた。
山田氏は、AIやブロックチェーンを組み合わせた設計が進む一方で、AML/KYCなど複雑な規制ロジックをすべてオンチェーンに載せるのは現時点では現実的ではないと指摘した。オンチェーンで持つものとオフチェーンで持つものを切り分け、規制対応や監視はオフチェーンで処理する構成が妥当との見方を示し、スマートコントラクトの複雑化自体が新たなリスクになるという問題意識も共有された。
「発行」から「利用拡大」へ
2026年の重点施策について、パネルセッション①の最後に濱﨑氏は、まずDCJPYの発行銀行を広げることに触れつつも「発行すること自体が目的ではない」と述べた。
「発行されたトークン化預金をどう活用するか、ユースケースをどんどん出していきたい」と強調し、具体的な利用シーンが見えて初めて、トークン化預金やステーブルコインに対する社会的認知が深まり、普及につながるという考えを示した。
もっとも、国内では発行主体もユースケースもまだ限定的で、企業財務やクロスボーダー決済の現場でどこまで実需を取り込めるかはこれからだ。
それでも今回の議論からは、日本でもトークン化預金やステーブルコインが「実証」から「接続」を意識する段階へ移り始めていることがうかがえた。
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|文・写真:増田隆幸
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