DATはどこへ向かうのか──企業が暗号資産と向き合う「DAT2.0」時代とは

2020年代前半、企業がビットコイン(BTC)を財務資産として保有し始めたことが話題となった。発端となったのは、米MicroStrategy(現Strategy)が2020年に、巨額のビットコインを積み上げると宣言したことだ。

多くの投資家にとって、企業が暗号資産をバランスシートに組み込むという発想は新鮮かつ大胆、あるいは無謀な試みに映ったが、その後のインフレ、金利上昇、グローバル金融環境の変化を経て、この動きは一過性のものではなくなった。

そして、こうした潮流の中で注目されたのが「DAT(Digital Asset Treasury、デジタルアセットトレジャリー)」という概念だ。企業が暗号資産購入を財務戦略のみならず、企業戦略の主眼に掲げ、株式市場から資金を調達、暗号資産を購入して企業価値の向上を図ろうとする取り組みだ。

資金調達→暗号資産購入→企業価値向上→さらなる資金調達──。いわゆる「フライホイール」を回し、企業価値を一気に拡大させた企業が登場したことで、DATは大きな注目を集めた。

だが、フライホイールを回し続けることは簡単ではなかった。暗号資産市場の低迷とともに、DATの正当性、持続可能性に疑問が生まれた。2026年、DATはどこへ向かうのか。

DAT誕生の背景:マクロ経済の揺らぎと資産効率の追求

まず理解すべきは、 DATが誕生した背景にマクロ経済構造の揺らぎがあったという点だ。2020年のコロナ禍を起点に始まったグローバルな金融緩和は、企業の資金環境を拡大させた一方、インフレ局面に入ると、その購買力は目減りしていった。日本では長く続く低金利環境も相まって、企業の資産効率は世界的に見ても低水準にとどまっている。

こうした状況の中で、2100万BTCという発行上限を持ち、希少性を備えるビットコインを財務ポートフォリオに組み込むという考え方には一定の合理性が生まれた。公開情報をもとにした集計ベースでは、2025年末時点で全世界の企業が保有するビットコインは約102万BTCに達し、前期比で約40%増という急伸を示した。

企業によるビットコイン保有はもはや “奇抜な例外” ではなく、“静かに拡大し続けている現実” となっている。ビットコイン保有企業のランキング上位にはパイオニアとなったStrategyを筆頭に、大手マイニング企業、そしてDATという概念を世界に拡げたメタプラネットも名を連ねる。

成熟:過度な期待から「戦略の一要素」へ

DATは、2024〜2025年前半にかけて大きな盛り上がりを見せた。Strategyの株価には、保有ビットコインに対して3倍ものプレミアムがついた時期もある。市場はDAT企業を “ビットコインETFの企業バージョン” として捉え、DATブームはピークを迎えた。

しかし2025年後半、暗号資産市場の低迷とともに、DAT企業の株価も下落。現在、企業価値(時価総額)は保有する暗号資産の価値に近い水準へと収斂しつつある。

この動きは「期待が剝がれ落ちた」とも言えるが、むしろ「市場がDATを正しく評価し始めた」と捉えることもできる。暗号資産の時価評価を損益に反映させる米国会計基準(FASB)の変更も、こうした透明性向上を後押しした。

二極化:Pure DATからIntegrated DATへ

こうした変化の中で、DATは大きく2つの方向に進化している。

ひとつは「Pure DAT」と呼ばれるモデルだ。ビットコインをはじめとする暗号資産を長期保有し、価値の保存手段として扱うもので、Strategyやメタプラネットがその代表例だ。

もうひとつは、2025年後半に急速に存在感を強めた「Integrated DAT(事業型DAT)」。ただし、本稿では便宜的にこう呼ぶが、市場で確立した分類というより、ここでDATの進化を説明するために概念を整理したものだ。

Integrated DATは、暗号資産を単に “購入して保有する” だけではなく、ネットワーク参加やインフラ提供を通じて “暗号資産を使って収益を得る” モデルだ。

BitMine Immersion、DFDVといった海外企業が代表例で、前者はETH、後者はSOLを使い、ステーキング、バリデーター運営、DEXへの流動性提供など、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)ネットワークでのコンセンサス形成やDeFiプロトコルの流動性といったインフラに関与し、事業活動として報酬を得る。

日本でも、ASAHI EITOホールディングスがETHとSOLによるステーキングや流動性提供を掲げた。

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また12月17日には、「漫画全巻ドットコム」などを運営するTORICOが「日本No.1 イーサリアム運用会社へ」を掲げて、イーサリアムトレジャリー事業を開始。gumiやフィナンシェの創業者である國光宏尚氏が「トレジャリー(DAT)事業戦略アドバイザー」に就任した。

Integrated DATは暗号資産の価格変動だけに依存しない収益を期待できる。この点は、従来のDATとの決定的な違いだ。

「DAT2.0」への進化

こうした変化は、DATが次の段階へ移行しつつあることを示している。単なる暗号資産の「保有」から、「活用」や「参加」へ──。いわば、「DAT2.0」と呼ぶべきフェーズに入りつつある。

DAT2.0とは、暗号資産の価格上昇を期待して、バランスシートに積み上げる戦略ではない。むしろ、オンチェーン経済に参加するためのインフラ資産として暗号資産を位置づけ、ネットワーク運営や流動性提供、ステーキングなどを通じて、企業活動の一環として暗号資産を「回していく」モデルだ。

暗号資産は、もはや “寝かせておく資産” ではなく、使い続けることで意味を持つ経営資源へと変わり始めている。

なお、もうひとつ見逃せない動きが、日本で見られる “Right-scale DAT(企業規模や財務余力に見合ったDAT)” と言うべき広がりだ。2025年には、北紡が手元資金でビットコイン購入を開始し、その後、レンディングをスタートさせた。

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米国のDAT企業と比べると規模は大きくないが、日本市場においては象徴的な動きだ。円安・インフレといった日本特有の環境も、Right-scale DATを後押ししている。

“撤退”ではなく、“適切な距離感”

2026年を迎えて明らかになりつつあることは、DATはもはや“特定企業の実験的な取り組み”ではなく、企業が財務や事業を考える際に考慮し得る“選択肢のひとつ”になっていることだ。

2025年後半には複数企業の「DATからの撤退」が報じられた。しかし実態は、暗号資産との向き合い方について、企業が適切な距離感を選び始めた結果と言える。

リミックスポイントは暗号資産の保有戦略やWeb3関連投資を見直し、本業に軸足を戻した。コンヴァノは最大2.1万BTCの取得計画を撤回し、「利益剰余金の範囲でのBTC保有」へと戦略を転換した。

しかし両社とも、ビットコイン保有そのものを否定したわけではない。これは「DATの終了」ではなく、「DATの最適化」にほかならない。

多様化、平常化、そして成熟へ

こうした状況を踏まえると、2026年のDATは次の3つの方向に進むと考えられる。

第1に、DATは多様化する。

Pure DAT、Integrated DAT、Right-scale DATなど、企業が置かれた環境によって、採るべきDATの姿は異なる。

第2に、DATは特別なものではなくなる。

暗号資産の保有は、企業価値の主役ではなく、財務戦略の一要素として位置づけられる。

第3に、DATは静かな成熟期に入る。

規制整備や会計基準の進展によって、暗号資産は企業財務の中でより明確な位置づけを確保していく。日本でも暗号資産の規制法(根拠法)が金融商品取引法(金商法)に移行することが見込まれている。移行によって、投資資産としての位置づけが明確になる。

DATは2026年、“企業が暗号資産と向き合う時代” に入ったことを示すものとなる。その行方は、価格動向だけではなく、金融インフラとしてのブロックチェーンの発展、 オンチェーン金融の変化によって形作られていく。

DATはもはや特別な戦略ではない。企業が未来を見据え、かつ「オンチェーン金融」が広がるとき、当たり前に検討される選択肢のひとつになろうとしている。

|文:NADA NEWS編集部
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