オンチェーン金融はどこまで現実になったのか──ステーブルコイン・トークン化資産・金融インフラの現在地【N.Avenue club  4期2回ラウンドテーブル・レポート】

「24時間動くマネー」と「24時間動く資産」がそろい始めた。論点は「何をトークン化するか」から、「マネーと資産をどうつなぎ、継続的に動く金融市場をつくるか」へと移りつつある──。

法人向けブロックチェーンビジネスコミュニティ「N.Avenue club」は8月19日、第4期2回目のラウンドテーブルを開催した。テーマは「オンチェーン金融はどこまで現実になったのか——ステーブルコイン・トークン化資産・金融インフラ」。

登壇したのは、ドル建てステーブルコイン「USDC」を発行するCircle(サークル)のGlobal Head of Banking、ガジア・パーソンズ氏(オンライン)、日本発のブロックチェーン基盤と信託型ステーブルコイン「JPYSC」を手がけるStartale Japan代表取締役CEOの手塚孝氏、そして世界最大級の資産運用会社でありトークン化資産(RWA)の旗振り役でもあるブラックロック(BlackRock)の田中勇毅氏(ブラックロック・グローバル・マーケッツ部長兼グローバル・プロダクト・ソリューション部)。それぞれが「お金」「資産」「金融インフラ」の各レイヤーを担う立場から、オンチェーン金融の現在地と日本市場の課題を語った。

ステーブルコインとトークン化預金は補完関係:Circle ガジア・パーソンズ氏

Woman on a video call projected on a large screen at a conference, with attendees seated and banners for NADA and n.club in the background.

オンラインで登壇したパーソンズ氏は、サークルをクリプト企業ではなく「インターネットネイティブな金融インフラ企業」と位置づけた。2013年の創業以来、法定通貨に裏付けられたステーブルコインを軸に、送金・決済・価値移転の新しいレールを提供してきたという。

ステーブルコインの本質として同氏が挙げたのは、「常時稼働(24時間365日)」「即時決済」「プログラマビリティ」の3点。従来のマネーと異なり、休日や時間外を問わず動き、プログラムによって自動化できる。この性質が、送金の高速化や新たな決済サービスの設計を可能にするという。

また、ここ5〜10年で状況は大きく変わり、グローバルの主要銀行がステーブルコインの活用をリサーチ段階から実行段階へ移していると指摘。銀行が「信頼とコンプライアンス」のレイヤーとして関与し、ステーブルコインと組み合わさることで、決済ネットワーク全体が成立するとの見方を示した。ステーブルコインとトークン化預金は競合ではなく補完関係にあり、使い分けが進むと説明した。

さらに日本については、規制環境が整備されつつあり、グローバルとの接続性も高いことから、ステーブルコイン実装の有望な市場として期待を語った。

「チェーンと基軸通貨」を一体で提供:Startale 手塚孝氏

Man in a suit speaks into a microphone at a conference, seated on an orange chair with a blue event banner behind him.

Startale代表取締役CEOの手塚氏は、JPYSCについて、将来的にパブリックな流通を目指していると説明。一次流通ではKYC(本人確認)を徹底する一方、二次流通については許可制のホワイトリストではなく、問題のあるアドレスを除外するブラックリスト方式を採用することで、開放性とコンプライアンスの両立を図る方針だと述べた。

また、エコシステム構想として、ソニーグループと共同で進めるレイヤー2「Soneium」と、SBIグループと進める金融向けレイヤー1「Strium」についても紹介。パブリックチェーン上でステーブルコインを流通させることの意義は、閉じたネットワークであるトークン化預金と異なり、国境を越えた相互運用性やDeFiなど新たな金融サービスとの接続性にあるなどと説明した。

そのうえで手塚氏は、チェーンと基軸通貨を一体で設計し、インフラとその上で動く決済手段をセットで提供するエコシステムが重要だと強調。垂直統合を「日本円で実現したい」と語った。

トークン化MMFは「動かせる運用資産」へ:BlackRock 田中勇毅氏

Asian man in a dark blazer sits on a blue chair, speaking into a handheld microphone during a conference.

ブラックロックは、50年以上の歴史を持つキャッシュマネジメント事業の延長線上にトークン化を位置づける。田中氏は、デジタルアセット戦略について、「暗号資産」「ステーブルコイン」「トークン化資産(RWA)」の3本柱で構成されると説明した。

今回の講演の中心となったのがトークン化MMF。同氏は、トークン化の価値を「24時間365日動く資産」と「グローバルなアクセス」にあるとし、従来は週末や時間外に動かしにくかった資産が、常時、移転・運用・担保として活用できるようになると補足した。

また、トークン化MMFのユースケースについて、現在のOperating Cashから、企業などの余剰資金を運用するInvestment Cash、さらに将来的にはCollateral(担保)へと広がる可能性を示した。株式・債券・ファンドなど、より幅広い資産のトークン化も進むとの見通しを示した。

ディスカッション:実装の手前で交わされた論点

People seated around tables in a bright conference room, watching a presentation on a screen at the front left.

後半は、参加者が複数のテーブルに分かれて議論を行い、その結果を発表した。例えば、決済・清算の仕組みをめぐる議論では、トークン化された資産の受け渡しを同時に行うDvPの実装可能性や、AML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金対策)の扱いをめぐり、技術的には可能でも制度や運用の設計が追いついていないといった現状が共有された。

最後は、サークル日本法人カントリーマネージャーの榊原健太氏とブラックロックの田中氏が総括し、オンチェーン金融の実装に向けて業界横断で課題を共有し続けることの重要性と、日本市場への期待を改めて表明。全体を通じて見えてきたのは、実証実験の段階を越えて、実際のビジネスと制度のもとで「誰がどの機能を担うのか」を具体化するフェーズに入りつつあることだ。

N.Avenue clubの次回・4期第3回ラウンドテーブルは、9月17日に「ウォレットと決済UI」をテーマに開催する。

登壇するのは、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の福井崇人氏、au Coincheck Digital Assetsの笠井道彦氏、JCBの松溪新氏。ウォレットをめぐる規制・法制度、新たな顧客接点としての可能性、既存の決済インフラ側の取り組みなど、それぞれの立場から「次の決済」を議論する予定だ。

会員向けには、ラウンドテーブルへの参加に加え、登壇者の講演やQ&A、参加者ディスカッションを含め、議論を詳しく整理したレポートを提供している。

|文:瑞澤 圭
|編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑

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