暗号資産(仮想通貨)取引所のBinance Japan(バイナンスジャパン)は7月1日から新体制となった。ゼネラルマネージャー(代表取締役)に豊崎亜里紗氏が就任、前代表取締役の千野剛司氏は名誉会長兼取締役に就任した。
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6月30日に開かれた新代表就任の記者発表会では、前代表の千野氏がライセンス取得や規制当局との関係構築、日本市場での事業基盤整備を進めたのに対し、豊崎氏が「成長フェーズ」に入るとの認識を示し、プロダクト、マーケティング、パートナーシップを軸に事業を拡大する方針を明らかにした。
注目されるのは、DeFi(分散型金融)スタートアップの共同創業者という経歴を持ちながら、日本の規制下で運営される中央集権型取引所(CEX)のトップに就任した点だ。記者会見では、このキャリアチェンジの理由についても語った。
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「基盤整備」から「成長フェーズ」へ
会見では、まず退任した千野氏が約4年間を振り返った。

2022年11月のサクラエクスチェンジビットコイン買収から始まり、2023年8月のBinance Japanサービス開始、国内最多となる66銘柄の取扱い、Simple Earnの拡充、PayPayとの資本業務提携などを挙げ、「基盤を作ることができた4年間だった」と総括した。
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一方で、「グローバルでのBinanceの存在感や規模感からすると、日本における事業サイズは決して満足できる状態ではない」とも述べ、さらなる成長余地があるとの認識を示した。
そのバトンを受け取った豊崎氏は、「今までの千野さんが築いてきた基盤の上から、これからは成長フェーズへ入る」との考えを示した。

豊崎氏は、その成長戦略を支える柱として、①信頼の基盤、②PayPay協業、③新製品展開、の3点を挙げた。
「規制当局、ユーザー、パートナーとの信頼を第一に考える」としたうえで、PayPayとの連携をさらに進め、日本市場に適したプロダクトを展開していく考えを示した。
また、自身がコンピューターサイエンスや分散型システムを専門としてきたことにも触れ、「世界で最も多くのプロダクトを展開するBinanceだからこそ、日本市場に適したものを選び、新しいユーザー体験を提供したい」と述べた。
「質の高いユーザー」とは何か
豊崎氏は会見で、「質の高いユーザーの獲得」という言葉を繰り返した。ただし、この「質」とは、取引量の多い投資家を意味するものではない。
豊崎氏は、現在の暗号資産市場は経験豊富な既存ユーザーが中心である一方、NISAの普及やインフレ環境を背景に、金融商品全般への関心を高める層が増えていると指摘した。
そのうえで、「暗号資産やブロックチェーンとは何かという教育や、初めて利用する人でも使いやすい製品開発に注力したい」と述べた。
さらに、既存の暗号資産ユーザーだけでなく、これまで暗号資産に触れてこなかった投資家層にも裾野を広げたいとの考えを示した。
Binance Japanが目指すのは、暗号資産トレーダーだけを対象とするプラットフォームではなく、金融商品として暗号資産に関心を持つ新たなユーザー層を取り込むことだと言えそうだ。
DeFiから中央集権型取引所へ──「もう一歩手前が必要だった」

今回の会見で最も印象的だったのは、豊崎氏自身のキャリア観に関するやり取りだった。
豊崎氏はGoogleを経て、2022年にDeFi関連スタートアップ「Cega」を共同創業。ブロックチェーン技術やDeFiの普及にも積極的に取り組んできた。
一方で今回就任したのは、日本の厳格な規制の下で運営される中央集権型取引所だ。
「DeFiを追求してきた豊崎氏がBinance Japan代表に就任したことは、業界では“意外”との受け止めもある。このキャリアチェンジを決断した理由は何か」とNADA NEWSが質問すると、豊崎氏は次のように答えた。
「これまで数年間、政治家への説明や海外カンファレンスなどを通じてブロックチェーン技術の啓発活動を続けてきたが、その中で、『この技術を広めるためには、まだワンステップ前の話が必要だ』と感じるようになった」
その「ワンステップ前」とは、ビジネスの拡大や教育の充実を通じて、より多くの人がブロックチェーン技術に触れる環境を整えることだという。
豊崎氏は、「ビジネスの拡大と教育の拡大は非常に重要で、それができるプラットフォームという立ち位置は非常に強い」と語った。
さらに、「大きなプラットフォームだからこそ、多くの人に商品理解や安全な使い方を伝えられる。そこから結果を残し、最終的にはブロックチェーン技術の社会実装につなげたい」と、自身のビジョンを語った。
DeFiサービスは「当面予定なし」

一方で、DeFi出身であることから、Binance JapanでDeFiサービスを積極展開するのではないかとの見方については否定した。
豊崎氏は、「DeFiサービスを展開することは当分ありません」と明言。その理由について、「法令順守と規制当局との関係が最も重要であり、ライセンスに準拠したサービス展開を考えている」と述べた。
つまり、豊崎氏が目指すのは、DeFiをそのまま持ち込むことではない。規制市場の中でユーザー基盤を広げながら、ブロックチェーン技術の社会実装につなげていくことが、豊崎氏の描く方向性と言えそうだ。
千野氏が「日本で外資系交換業者が定着できる基盤」を築いたとすれば、豊崎氏に課された役割は、その基盤の上でBinance Japanを次の成長段階へ押し上げることだ。
DeFiの起業家として培った技術への理解と、Googleで磨いたプロダクト・成長戦略の知見。その2つの経験が、日本最大級の暗号資産プラットフォームの成長にどう生かされるのか。豊崎体制は、その真価が問われる新たなフェーズに入る。
|文・撮影:増田隆幸



